「ブチャラティさん、診療室へお越しください。」
あのまま彼女と診療室へ入ると、やはり医者は顔見知りらしい反応をした。母親が不在ということで、連れてきた俺が仮の保護者として状況を説明すると『随分来るのが遅かったね、生きていてよかった。』と言った。どうやら長い間検診にも訪れていなかったようで、積もる話があるらしく俺は待合室で待つことになった。フーゴに今日は飯に少し遅れることを連絡して、しばらく病院を訪れてくる知り合いと話したり、テレビを見て待っていた。
1時間半ほどすぎた辺りだろうか、やっと待合室で声がかかったので診療室に向かうと、彼女はいなかった。その代わり医者が神妙な顔で席に座っていて、"おかけください"と俺に言った。
「彼女は今どこに?」
「栄養状態や、精神状態がやはり心配なので暫く入院してもらうことにしました。お金の方はご心配なさらないでください、彼女の母親から幾らか預かっていますのでそこから引かせていただきます。」
「そうか…。ありがとうございます。」
彼女の母親は随分と準備がいいらしい。彼女を家から出した時、他に人がいるようなことは言っていなかったし気配もしなかった。さっき確認はしそびれたが…家にはいない、ということは確実だろう。失踪したのだろうか?でもなんのために?出稼ぎに行くとしても何か言ってから行くだろう。謎は深まるばかりだった。
「ブチャラティさん、単刀直入にお聞きしますが、よろしいでしょうか。」
「遠慮なく、どうぞ。内容によりますが。」
「貴方はスタンド使い、ですよね?」
ここで聞かれると思わなかったまさかの質問に思考が止まった。スタンド使い、何故それをこの医者は知っているのか。そして何故それを見抜いたのか。なにか組織と関係のあるやつなのか、それともこちらの情報を掴んでいる敵対組織の息がかかった野郎なのか。俺と医者の間に妙な緊張感が走った。いざとなった時のためにスティッキーフィンガーズを背後に出す。
「それがあなたのスタンド…ですか。」
「見えるのか。」
「安心してください、私は貴方方の敵ではありません。生まれつき見える側の人間というだけで、スタンド使いでもありません。街で1度あなたを見たことがあって、その時出されていたので覚えていただけです。」
真っ直ぐに俺の目を見てそういう相手に、嘘はないように思う。汗をかいていたら確かめるつもりでいたが…本当のようだ。スティッキーフィンガーズをしまって、"それで、それがなにかあるのか"と尋ねる。今回の彼女の件になにか関係があるのだろう、そうでないと聞くはずがない。ただのスタンドマニアには到底見えないからな、この眼差しは頭のキレる人間のものだ。
「簡単に言わせていただきますと、名前ちゃんはスタンド使いです。」
「…何?」
「しかも、彼女自身で制御がしきれていない。もともと本人と一体型のようで、操りきれていないために今も能力を作動してしまっている様ですね。だから体力の消費も激しいし、本人にも影響を及ぼしている。」
「ちょっと待ってくれ…彼女がスタンド使いだと?」
「ええ、そうです。」
俺も、ポルポの矢に射抜かれて覚醒させた身だし、スタンドを持つということはどういう事なのかわかる。
スタンド使いは精神力が強い。世には生まれつきその能力を持つものもいるらしいが、組織の者は大半が矢の影響でスタンド使いになっている。そしてそれを操ることが出来るのも、精神力の強さに関係がある。仮にスタンドが出現しても、心が強くなければその力に押しつぶされてしまうことも…当然知っている。
医者の言いたいことも理解できるし、納得している。しかし第一印象から彼女がスタンド使いなように思えない。彼女がスタンドの力を制御できないのは想像に易かった、逆に考えると押しつぶされていないということは、かなりの精神力の強さもあるのだろう。
驚くことが多いな、今日は。大家の言うように育ちがいいからか、いくらボロボロであっても柔らかい雰囲気を纏っていた彼女に…そんな力があるとは。