「いただきます」
「伊作」
「仙蔵、どうしたの?」

娘の手当てをしてから食堂で夕食を食べていると同級生に声をかけられた。伊作が顔を上げると、そこには六年い組の立花仙蔵が立っていたのだ。例の娘が目を覚ましたぞ、と仙蔵に耳打ちされた伊作はわかった、ありがとうと頷き夕食を済ませた。

「保健委員会委員長善法寺伊作です、入ります」

食堂のおばちゃんにごちそうさまでしたと声をかけてから、食堂を後にする。そのまま医務室に向かうと灯りがついていて、娘が起きているのだと確信した。そう名乗ってから障子を開けると、そこには娘がいてー…ぼんやりとコーちゃんを眺めていた。

「目が覚めてよかった…体調はいかがですか?」
「まだ痛みます…」
「そうですよね…今日手当したばかりですから」
「あの…どうして私を助けてくれたんですか?」
「なぜって…それは僕たちが保健委員会だからです」

伊作に声をかけられてはっとした娘はそそくさと布団に戻る。そんな彼女に合わせるように伊作も歩み寄り、娘の側で腰を下ろした。それとなく雑談を交えると、気になることがあったらしい。恐る恐る問いかけてきた娘。そんな彼女に伊作がにこりと微笑むと、娘は保健委員会?と首を傾げる。

「それに、ここは…」
「ここは忍術学園…忍を育てる学舎です」
「忍術学園って…」
「おい、伊作。無闇に正体をバラすな」
「大丈夫だよ、彼女もくノ一だから…」

そして、きょろきょろと辺りを見回した娘にはっきりと伊作が答えた次の瞬間。天井裏から仙蔵が飛び出してきた。いつからそこにいたのかはわからないが、伊作は知っていたのだ。この娘が忍者ー…もとい、くノ一であることを。

「え…なぜそれを」
「貴女の装束に隠し武器が仕込まれてましたし…苦無も持ってましたから」
「それ…!私のです!返してください!」
「ダメです。こちらで預からせていただます」
「そんな…!それは姫様から頂いたものなのに…」

そもそも、彼女の手当てをしたのは伊作だ。彼女を見つけた時点で身に纏っているのが忍び装束であることも気づいていたし、その懐に暗器が仕込まれているのも見抜いていた。その中でも一番、この苦無に思い入れがあるようだがー…今はそれどころではない。

「では、僕の質問に答えてくれたらお返しします」
「え…」
「なぜ、あんなところで倒れていたんですか?」
「…昨夜、クロツルバミ城に攻め込まれ、命からがら逃げてきました」
「クロツルバミ城、ということは…」

彼女の正体を暴かなければと伊作が問いかけると、どこか悔しそうに俯いた娘。彼女の言葉に耳を傾けると仙蔵がはっと目を見開いた。

「はい。私はカキツバタ城くノ一、音無小鈴と申します」
「やはりな…」
「え、なにが?」
「いや、こっちの話だ…続けてくれ」
「クロツルバミ城に攻め込まれ、我が城は崩壊。姫様も連れ去られてしまい、私は…!」

すると、まるで土下座でもするかのように深々と頭を下げた娘ー…音無小鈴。そんな彼女に驚いた伊作は顔をあげてくださいと慌てるも、仙蔵は静かに呟いた。なにか、知っているのだろうか。伊作はそう違和感を覚えたが仙蔵に促された娘、小鈴は弱々しく顔を上げて拳を握りしめる。

「私はこんなところで休んでる暇なんてないのです!今すぐにでも姫様を助けにいかねば…!」
「落ち着け」
「離してくださ…!ッ…」

どうやら、姫君のことを思い出してしまったらしい。ばっと勢いよく立ち上がった小鈴。伊作も止めようとしたが、間に合わず。障子を開け放ち、外に出ようとした彼女の腕を掴み、捻り上げた仙蔵。小鈴はなんとか抵抗しようとしたが、彼の力には到底及ばず。傷が疼き、顔を歪めた。仙蔵はその一瞬を突き、彼女をそのまま布団に放り投げる。

「姫様は連れ去られたと言っていたな」
「え?ええ…」
「ということは、まだどこかで生きている可能性も…?」
「十分にあります。無事、という保証はできませんが…」
「なるほど…だとしたら、クロツルバミ城の狙いを見定める必要があるな」

そんな彼女を咄嗟に受け止め、大丈夫?と彼女の身を案じている伊作を尻目に小鈴に問いかける仙蔵。小鈴が小さく頷くと、仙蔵はふむ…と、その綺麗な指先を顎の下に置いた。

「仙蔵、どうするつもり?」
「伊作…次の実習の行き先を忘れたのか?」
「あ…クロツルバミ城!」
「そういうことだ。ついでに姫様の生存確認をしてきてやってもいいー…」
「本当ですか…?!」

態度は冷たいがなにか思うところがあったらしい。伊作が問いかけると、仙蔵はすっと目を細めた。彼の言葉に次の実習先の任務はクロツルバミ城の偵察だったと伊作も思い出す。

「が、いくつか条件がある。お前は保健委員会委員長の指示に従うこと。そして、絶対に忍術学園から…いや、この医務室から抜け出さないと約束しろ」
「うう…わかりました」
「…よし。ならば協力してやる」

忍びの卵といえども、彼らは忍術学園の最上級生だ。最もプロに近い存在なのだからカキツバタ城の情報を探ることもできる。でも、まずは学園長先生に許可を取らないとねと伊作が笑いかけると小鈴もお願いしますと頷いた。

「それじゃ、小鈴さん。今日は何も気にせずゆっくり休んでくださいね」
「はい…ありがとうございます」
「おやすみなさい」

そんな二人を置いていくようにさっさと一人で医務室を出る仙蔵。それに気づいた伊作は慌てて立ち上がり、彼の後を追いかける。そして、医務室を出る直前に振り向き、小鈴に声をかける伊作。彼の言葉に深々と頭を下げた小鈴を見届けてから伊作は優しく医務室の戸を閉めた。

「…意外だったよ」
「なにが?」
「仙蔵が彼女のこと気にかけるなんて…」

ぱたん、と戸を閉める音が響く。ふぅと息を整えた伊作はそっと障子から手を離し、仙蔵に問いかけた。

「…別に、気にかけてなどいない。ただ…」
「ただ?」
「…いや、なんでもない。気にするな」

伊作の背後にいた仙蔵は重たい口を開き、なにかを言いかけだがー…やめたようだ。そんな彼に益々違和感を覚えるも、伊作から逃げるように髪を翻した仙蔵。伊作は慌てて、彼を追いかけるように医務室を後にした。


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