05.海鳥は渡り往く
その後カーノ達は暗殺者にも強敵にも出会う事なく山を渡りきり、また再び平坦な道を歩き始めたところで意見が2つに分かれる事となった。その議題はといえばこれからの進路についてで、海路で向かおうと言うクラトスの意見にリフィルが苦い顔をした事が事の始まりだった。
海路は危ないだの陸路を行けばアスカードに辿り着くから先にそこにある封印を解けばいいだの、色々理屈を並べ立てては随分嫌がるリフィルにロイドが一言。
「先生、もしかして、水が恐いんじゃ……?」
それは少なからず他のメンバーも思っていた事で、プライドがあるのか全力で否定し自棄になって「私は海路で構いません!」とずんずん先に行ってしまう相手に苦笑する。
何か水にトラウマでもあるのか、それともただの水嫌いか、真相は解らないが何やら水が苦手なんだろうなという事だけは伝わってきて、カーノは残ったメンバーにどうする? と目だけで問う。
「俺はどっちでもいいけど…、先生があれなら、陸路の方がいいんじゃないか?」
「私は海路を勧める。その方が近道だ」
まずはロイドが、次いでクラトスが意見を述べる。ジーニアスは姉を気遣ったのか、おずおずと手を伸ばしロイドに賛成した。
旅の事を思えば海路を行った方がいいのだろうが、なんとも姉想いな少年の姿を見ると陸路の方がいいのかとも思ってしまう。
悩んだカーノは最終的に、旅の代表者であるコレットの意見を仰ぐ事にした。
「えっと、私は陸路がいいと思います」
心優しい神子は自分の苦労よりも自分の担任を取ったようで、迷うことなくそう言った。
「だそうだけど、それでいいか?」
元気一杯に賛成ー! と返す少年達に、カーノはお前達に聞いたんじゃないよと心中で苦笑しながら、クラトスに目をやる。
「神子の意思を尊重すればいい」
どうせこうなると思ったと態度で示しながらも不満を口にしない相手に、苦労してるな、と同情しつつ、カーノは決定した進路をリフィルに伝えるべく1人でどんどん先に進む背を追った。
「これで良かったのかなぁ」
遠くで話すリフィルとカーノを見ながら、そんなことを呟いたのはコレットだった。
直ぐにロイドが反応して、何が? と問う。
「旅を優先しなくちゃいけないのに、こんな私情で遠回りしちゃって……」
神子なのに、と俯くコレットに、ロイドは明るく言った。
「それでこそコレットだろ?」
どんな時も誰かの事を考えて行動出来るのがお前の良いところなんじゃないかと、昔から側で見てきたロイドならではの言葉に、コレットは顔を綻ばせた。
「それに、兄貴だって納得してたし」
それを遠巻きに見ていたクラトスは、ロイドの発言に忘れかけていた頭痛の種がまた発芽するのを感じた。
前まで普通に聞き流していたその呼び方が、今はやけに耳につく。そして聞く度に頭痛は酷くなる。
「……ロイド」
「ん?」
探求心と言葉の頭痛薬を求めて、クラトスは昨晩カーノにしたのと同じように、2人の関係について訪ねた。
「その……お前とカーノは、どういった関係なのだ?」
だがそれは彼に聞いた時よりもかなりストレートになっていたのだが。
もうクラトスには少しずつ聞き出すという作業をするような余裕は無かった。
「何だよ急に? どうって、兄弟だけど」
「それは従兄弟などではなく、血を分けた兄弟という意味か?」
「そうだけど」
あっさりと返されたそれは頭痛薬ではなく爆弾で、クラトスは避けることも出来ず被弾した。
どういうことだ。やはり昨日奴が言っていた事は本当だったのか? いや、だからそれはあり得ないんだ。
なら2人して嘘を吐いているのか? ……何のために?
思考回路が完全に昨日の二の舞だった。クラトスはもう考えるのを止めたかったが頭は勝手に動く。頼んでもいないのに脳細胞は情報を処理しようと働き続け、しかしそれで正解に辿り着く筈もなく細胞は壁にぶち当たりまたスタートに戻った。
抜け出せない思考の渦に巻き込まれ、更にトドメとばかりにロイドが「何か知らねぇけど大丈夫か?」と兄と同じリアクションをしてきてクラトスがショート寸前になっていた頃、カーノはリフィルに手をやいていた。
というのも、せっかく陸路を行くという結論を出したにも関わらず、リフィルが「海路の方が速いのだから」とそれを受け入れようとはしなかったからだった。
「私1人の我が儘で、旅に遅れを来す事は出来ません」
「いやでも、皆も陸路で良いって言ってますし、無理しなくても……」
「無理はしていません」
キッパリとした口調とは裏腹に、その表情には元気が無く、カーノはやれやれと肩を竦めた。
「分かりました。じゃあ皆に伝えてきます」
意地っ張りな女性教師に背を向け、ロイド達の元へと戻り一言。
「悪い、海路になった」
何やらまた頭を押さえていたクラトスも顔を上げ、揃って「どうしてそうなった」という顔になる。
事の粗筋を話し終えると、少年達は「それぐらいいいのに」とリフィルを再度説得しに行こうとする。が、カーノはその襟首を掴んで引き留めた。
「本人がいいって言ってるんだからいいんだよ」
でもと渋る子供2人を無視し、カーノは自分と歳の近い男を呼んで何かを耳打ち。
クラトスは最初その内容の意味がわからず相手を見たが、再び囁かれた言葉に「分かった」と返し、その代わりと続けた。
2人の会話を途切れ途切れにしか拾えなかったロイド達は首を傾げたが、カーノは後で言うからと待ちわびていたリフィルの元へと行ってしまった。