06.共鳴する傷痕

ショコラ達に別れを告げ、町を出て再び峠を目指していた一行は、途中救いの小屋という小さな建物で休憩を取ることにした。

東奔西走し疲れていた面々は椅子に座り足を休める。が、クラトスだけは座ろうとせず壁に寄りかかるだけだった。
それが早く先に進みたいという相手の意思表示なのだと知りながらも、カーノが「疲れないのか」と立ち上がり隣に移動すると、相手は黙ってその目にカーノを写す。

「……先程の判断は同意しかねるな」

自分から話しかけた時こいつはいつも別の返事を返すなと苦笑しながら、「何が」と返す。

「真実を話したところでどうにもならんが、だからと言って自らの罪を隠し、責め苦から逃れさせるのは本人の為にならんぞ」

その言葉に、ああ町での話かと理解し、同時にそれは解ってるよと心中で返す。

「アンタの言う通りだな」

「ならば何故言わなかった?」

それには答えなかった。
代わりに自嘲気味な笑みを溢すと、相手は思考が読めたのか溜め息を吐く。

「お前は感情に流されて判断を誤るような者では無いと思っていたのだが、私の思い違いだったようだな」

外衣を翻し部屋を出るクラトスに、カーノは何も言わずその背を見送った。






それから暫くして、思いの外早く帰ってきたクラトスは、厄介なことになったと言いたげな顔をしていた。

「あの娘が拐われたそうだ」

あの娘、とはショコラのことだろう。
それを助け出して欲しいと総督から言伝を預かった町民が、出歩いていたクラトスを見て話しかけたらしい。

早すぎる不報の再来に一同は絶望した。軽くなったばかりの肩がまた重くなる。まさかこんなに早く第二撃が来るなんて。

助ける方向で話を進めていく少年少女に、心身共に疲れを癒しきれて居ない年長者も混ざる。
そういえば、と大事な事を聞き忘れていたカーノは隣にいるクラトスを見た。

「何処に連れていかれたんだ?」

助けに行くなら場所くらい知っておきたいが、伝言を運んできた町民から聞いているのかと問う。
クラトスは頷いて答えた。

「パルマコスタ人間牧場だ」

一同は、今聞いた言葉に最悪の展開を思い浮かべた。
コレットやリフィルは口に手を当て眉を下げ、ロイドは怒り掌に爪を食い込ませる。

牧場に連れていかれた者がどうなるかなど、誰もが知っている事だ。
少年2人に至っては、数日前その末路を自らの目で見たばかりなのだから、非道を許さないロイドが怒りに震えるのは当然だった。

だがそれとは別の理由で、カーノは震えそうになる体を必死に抑えた。
口内の唾を飲み込み、動揺を周囲に悟られぬよう俯く。

最悪だ。彼女が連れていかれたのはもちろん、これから自分達がそこに向かわなければならない事も。
極力近付かない様にしていたのに、こんな形で行くことになるなんてと、カーノは歯を食いしばる。

「どの辺りにあるんだ!?」

「ここから西にある山の裏だそうだ。回り込めば行ける」

「よし、行こう!」

返事を待たずに小屋を飛び出すロイド。
皆がそれに続く中、動こうとしないカーノにクラトスが足を止めた。

「……どうした?」

「…………いや、何でもない」

どこか思い詰めたような顔で横を通りすぎる相手を、クラトスは不思議に思いながらも追いかけた。






そうして平地を駆け抜け牧場までやって来た一行は、嫌な雰囲気の漂う建物に顔を顰める。

「同じだ……イセリアと……」

地形以外ほとんど同一のそれを見て、ロイドとジーニアスは良くない記憶を掘り起こす。
敵に注意しながら敷地内に入ると、木々に囲まれた暗がりから1人の男が出てきた。
その顔には見覚えがあった。確か総督府に立ち寄った時、ドアの隣に控えていた男だ。ニールと呼ばれていた気がする。

そしてその口から出たのは恐るべき真実だった。彼はそれを伝える為に待っていたのだろう。皆の顔が次第に険しくなる。
町を守っていると思っていた人物は、裏でディザイアンと手を組んでいたのだという話を聞き終えて、どうしてそんなことをと、コレットが悲しげに呟く。

「どうするんだ? ロイド」

救出要請を出してきた総督が敵側であるのなら、この先待ち構えているのは罠かもしれない。
カーノは一度パルマコスタに戻ってドアを問いただした方がいいのではないかと提案したが、その間にショコラに何かあったら来た意味がないと、ロイドはこのまま正面から突入することを望んだ。

止めても聞かない彼の性格を熟知しているカーノは、仕方なくそれに付き合う事にした。
牧場に入りたくはないが、ロイドから目を離す不安よりはマシな筈だと、自分を無理矢理納得させて。
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