06.共鳴する傷痕

もう何人目になるかわからない敵を倒し、ワープフロアが幾重にも続く複雑な道を進むと、人々が収容されている牢屋へと辿り着いた。
鉄格子を開けると中から何十人もの人の塊が出てきて、流れるように出口へとひた走る。

「助けてくれて有難う、お兄ちゃん!」

こんな小さな子供まで捕まえるのかとディザイアンの悪事に苛立ちながら、カーノは礼を言う幼い少年の頭を撫で、早く逃げるよう促した。
そういえば俺もあんなんだったなと走り去る小さな体にかつての自分を重ね、すぐに頭を振る。

(違うな……俺はあんな風に笑ってなかったか)

どちらかといえばロイドに近いかな、と助け出した少年より10は年上の弟を見遣る。
彼は休む間もなく、救助を終えるとまた次の部屋に向かう。

そして建物の最奥で、漸く敵に連行されているショコラを見つけた。
両脇に立つ兵士を前衛が蹴散らし、怪我はないかと皆が駆け寄る。

「大丈夫。こんな所まで来てくれるなんて思ってなかったわ」

まさか私に惚れてるの? と冗談めかして言うショコラにカーノが顔を赤らめ、驚いたショコラにロイドが慌てて弁明に入る。
間に合ったことで緊張が途切れ普段の調子に戻った一行だったが、まだやる事は残っていた。

今ここに居る人を助けても、この施設がある限りまた同じことが起こる。だからどうせなら潰してしまおうというリフィルの提案を受けて、一行はショコラを連れ管制室へと向かう。

そこには騒ぎの首謀者であろうマグニスが居た。
観念しろと剣先を突きつけるロイドに、マグニスはショコラへと視線を移す。

「いいのかショコラよぉ? そこに居るのは、お前の祖母であるマーブルを殺した男なんだぜぇ」

そして突然そんな事を言われたものだから、ロイドは思わず剣を下ろしてしまった。

「え……うそ、そんな訳……!」

「嘘だと思うなら本人に聞いてみな。なぁロイド?」

信じられないといった面持ちでロイドを見るショコラ。ロイドは何も言えずただ俯く。

「……本当、なの?」

「………黙っててゴメン」

「違っ、お前は――――!」

ただ暴走したマーブルを止めようとしただけだと、擁護しようとしたカーノの言葉は、クラトスの手に遮られた。

「……そんな奴らに助けて貰うくらいなら、死んだ方がマシよ!」

ショコラはこれ以上ない程の厳しい怨嗟の言葉を吐いて、自らディザイアンについて行ってしまった。
ロイドを傷付けたくなくて取った行動のせいで、余計に彼を傷付けてしまったカーノは、自分の判断を全力で後悔した。

だが傷心の2人を待ってくれる程敵は優しくなく、寧ろロイドをあざけ笑ったマグニスは斧を横に払った。
意識はついていかなくても体に刷り込まれた動作というのは見事なもので、ロイドを狙ってきた攻撃にカーノは無意識にロイドの腕を引っ張り躱させる。

「……ごめん」

「……何で兄貴が謝るんだよ」

掴んでいた手を離し、落ち込むロイドに謝罪しても、負い目が晴れるわけでもなく。
敵前で棒立ちになるカーノをクラトスが叱責する。

「落ち込むのは後にしろ!」

その声に意識を取り戻したカーノの目前には、マグニスの斧が迫っていた。

咄嗟に身を屈めてそれを避けるが、頭上を通過した刃はそのまま振り下ろされる。
攻撃を受け止めようにも自分は盾など持っていない。代わりになりそうな剣もないし、唯一背負っている銃では斧を受け止めるのは不可能だ。下手をすれば銃が壊れる。

よって、カーノは屈んだ状態からそのまま横に転がって緊急回避を取った。
だが攻撃を回避出来たのもそこまでだった。転がった状態から起き上がっても直ぐに動ける程には彼の体は鍛え上げられておらず、迫る刀身をかわしきれず攻撃をくらってしまう。

「………っ!」

「兄貴!!」

切り口からは血が滴り落ち、カーノはよろめく体を腕で支える。
感じる痛みや血の量から、軽傷ではないなと顔を歪める。

「先生! 回復を――」

「いいから! 先にアイツを……!」

心配するロイドと術をかけようとするリフィルを止め、クラトスと交戦するマグニスへと向かわせる。
自分で応急処置だけでもしようと痛みを堪え詠唱に入る。少しはマシになった痛みに膝立ちになり銃を構え、ロイド達に加勢しなんとかマグニスを撃破した。

そうして目的を達成した一同は、牧場の自爆装置を起動させ外に出た。
派手な轟音と共に崩壊する牧場を背にパルマコスタへと向かい、ディザイアンと組んでいたという総督府にも乗り込む。

ドアがディザイアンに加担していた理由は地下牢にあった。
牢に入っていたのは一体のエクスフィギュアで、それをドアは自分の妻だと言った。

彼女もまたマーブルと同じように暴走させられこうなったのだろうとロイド達は理解し、ほんの少しドアに同情したが、それでも相手のしてきた事は許されるものではない。例えそれが妻を元に戻す為だったのだとしても。

「あんたはそうやって、他の人を同じように苦しめたんだ……!」

コレットに励まされ、少しは立ち直ったロイドが悲痛な声で言う。
それでも素直に謝ろうとしないドアに、異形へと変貌した娘が切りかかった。

娘だと思っていたその化け物は、娘に化けたディザイアンの手下だったようで、急所を刺されたドアはその場に倒れ込んだ。
敵を倒して駆け寄ったロイドは治療を求めてリフィルを見るが、相手は首を振る。この傷の深さでは助からない、という意味を込めて。

「む、娘は……?」

瀕死のドアは牢に居た娘が偽物だった事を知り、であれば本物の安否はと不安げに問う。
本物はとっくに病で倒れ亡くなっていると交戦中に聞かされたロイドは、悩んだ末に無事に生きてるよと答えた。

安心し微笑むドアは悪者には見えず、やはり彼も被害者の1人なのだと皆は感じつつ、彼を看取った。
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