06.共鳴する傷痕
「よし、通っていいぞ。」峠まで舞い戻った一行は、老人にスピリチュア像と交換して貰った通行証を関守に見せ、漸く山を越えた。
眼前には草原が広がり、中央には木々の生い茂る森林や山々が連なっているのが見える。
そしてその先にあるのは、白い塔。
「………」
「ん? どうしたんだ?」
次の封印の手がかりを探そうと近くにある街へ向かおうとしたロイドが、足を止めた兄に呼び掛ける。
「……いや、何でもない」
「なんだそれ。早く来ないと置いてくぞーっ」
笑って先に進むロイドに、カーノは一度目を閉じて、ゆっくりと開く。
記憶と今を切り離して、彼はまた歩き出した。
辿り着いた街の入り口にはアスカードと書かれた看板が立てられており、遺跡の街ということもあって至るところに洞穴があった。
行き交う人々に紛れて歩くカーノは、彼処を曲がった所には家があったな、真っ直ぐ行ったら確か遺跡があったかと、無意識のうちに過去の記憶を呼び覚ましていく。
空気も景色も変わらないのに、すれ違う人の顔はどれも見覚えのないものばかり。
それもその筈だと、彼は自分の知る事件を思いだし歯軋りをした。
一方、皆の先頭に立っていたリフィルは、町の奥で遺跡を見つけるなり飛び付いて行った。
スイッチが入り、遺跡の素晴らしさや歴史についてべらべらと説明を始める女性の相手をコレットに任せたロイドは、裏手に回ったきり帰ってこなくなった。
不振に思ったカーノが同じく裏に回ると、ロイドと何やら見知らぬ男が二人。
その足元には何かの装置があり、今まさにそれを遺跡に取り付けている最中、といった様子だった。
男2人は明らさまに「げっ」という顔になり、何事かと問えばロイドは装置を指差し、
「爆発するって」
困り顔で言った。
いつの間にか裏手に回ってきていたリフィルは、それを聞くなり激昂し、男2人を文字通り蹴り飛ばす。
「こうするしかなかったんだ!」
追撃されそうになった男は、そう切り出して事情を説明。
何でも、この遺跡で風の精霊を祀る儀式があり、生け贄役として自分の知人が選ばれてしまったので、儀式が出来ないようにしてしまおうとして此度の行動に出たとの事だった。
実際にその女性の家に向かい話を聞いて、その話に嘘偽りがないのだと理解したリフィルは、ならばと己が身代わりになることを申し出る。
危ないと止めるジーニアスを押しきり、女性が着る筈だった衣装に着替え、リフィルは毅然とした態度で遺跡の上に立った。定められた順に遺跡を叩くと、風が吹き荒び精霊が現れる。
だがその姿を見たコレットは、身を乗り出して叫んだ。
「それは風の精霊じゃありません!!」
聞くなりカーノは遺跡に飛び乗り、無防備なリフィルの腕を引き敵に敵に銃口を向ける。
放った弾は魔物の頭に当たり、ロイド達の攻撃も加算され、敵は断末魔の叫びと共に消えていった。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ、有難う」
「……ん? これ何だ?」
敵が居た場所から板のような物を拾い上げたロイドに、はっとしたリフィルはロイドの手から物を奪い取り感嘆の声を上げる。
それはバラクラフ言語という特殊な文字が彫られてある石版だった。
興奮した様子で、急ぎ自分が代役を務めた女性の家に向かうリフィルを、ジーニアスたちが追いかける。
それを笑い混じりに見送って、カーノは1人別の方向へと歩き出した。
町中にある何もない空き地を見つけるとその場に座り込み、除草されたかのように不自然に草の生えていない地面に触れる。
瞼を下ろせば、目の前には一軒の家が写った。窓からは明かりが溢れ、沢山の人の影がガラスに浮かび上がる。
そんな温かい光景は一変して、家は炎に焼かれて消える。談笑の声は悲鳴へと変わり、焼け落ちる家から連れ出される子供。その手を引くのは鎧を纏った兵士。
カーノは思考を打ち切り瞼を上げて、もう一度慈しむように地面に触れた。
「……何をしている」
土をつまみ上げた手が数センチ浮かんだところで止まる。
今のが自分にかけられた言葉だという事も、声の主も解ったカーノは、摘んだ土を大地に戻した。
「アイツらと一緒に行ったんじゃなかったのか?」
「その予定だったが、お前が1人で此方に向かうのが見えたのでな」
つまりつけてきたんだなと、後ろを振り返り予想通り其所にいたクラトスを見上げる。
「不審な真似して悪かったな。すぐ戻るよ」
「ここに何かあるのか?」
「……別に。そこだけ草が無かったから、気になっただけだよ」
目を伏せて、足早に皆の元へと急ぐカーノに、クラトスはそれ以上何も聞かなかった。
嘘だと分かっているだろうに、いつもと違って追求して来ないのは優しさだろうかと、カーノはその気遣いに心中で礼を述べた。