06.共鳴する傷痕
翌日、元気になったカーノは真っ先にリフィルに礼を言いにいった。相手は「あまり心配をかけないで頂戴」とまだ少し怒り気味だったが、それだけ自分の身を案じてくれていたのだろうと、カーノはそのお叱りを真摯に受け止めた。
一行はハコネシア峠を越える通行証を手に入れる為、離島にあるスピリチュア像を取りに行く事になった。
なんでも、それと通行証を交換してくれると言うので、元々飾られてあった救いの小屋に向かったのだが、そこの主は像を離島の間欠泉に落としてしまったのだという。
ならば自分達がそれを取ってくるから譲って欲しい、という話になり、相手はそれを快く了承してくれた。
「船……出てるのか?」
そんなわけで、またもや海を越える事になったカーノ達は遊覧船が出ているという場所まで来たのだが、其らしきものはなく、大きなたらいが数個浮かんでいるだけ。
近くにあった小屋で受付嬢に船はないかと尋ねると案内してくれたのだが、そこは先のたらいがある桟橋だった。女性はたらいを橋に寄せて「さぁどうぞ」とオールを渡してくる。
成る程、これに乗って自分で漕いでいけというのか。金まで払ったのに、こんな洗濯用具でこの海を渡れというのか。
そんな批難に満ちた目で相手を見ても、「行ってらっしゃいませ」と笑顔に乗せて返されるだけで、結局皆は疑似一寸法師を演じる羽目になる。
水嫌いの彼女は大丈夫だろうかとカーノが様子を窺うと、リフィルは口を結んで必死でオールを動かしていた。
「像を取りに行くだけですし、リフィルさんは待っていて貰っても良かったんですよ?」
「いえ、いつ何が起こるかわからないわ。私はコレットの護衛ですもの、これぐらい……」
大丈夫、という言葉はだんだん小さくなっていき、打ち付ける波の音に掻き消された。
幸いリフィルの限界が頂点に達する前に、小さな島へと辿り着いて観光客の集まる地へと降り立つことが出来た。
揺れる足場から陸地へと移ったことでリフィルはいつもの調子に戻り、早速スピリチュア像の捜索に取りかかる。
像は言われていた通り間欠泉の崖下に転がっており、熱湯が吹き出ている場所をジーニアスの魔術で凍らせて進んだ。
湯の柱が止まる僅かな時間の中ロイドが率先して取りに行き、見事像を入手した一行は「また乗るのか……」と落ち込むリフィルの背を押したらい置き場まで戻ろうとしたのだが、コレットが何か見つけたようで皆を呼び止める。
それは旧トリエット跡にあった石板と一緒だった。
コレットが触れると、崖の上にあった空洞へと水の橋がかかる。
「どうやら此所に水の封印がある様だな」
クラトスの言葉に皆は半透明の橋を渡り、間欠泉の上を通って奥へと進む。
仄かな灯に照らされたそこは水の色を反射して綺麗な水色に染まっていた。
何だか神秘的ですね、なんてのんびり言うコレットに、これからまた戦うんだから気を引き締めてなとカーノが微笑む。
厄介な仕掛けを解いていき、光だした装置の上に足を乗せる。封印の間で祈りを捧げるべく祭壇に近付くと、守護者であるノーディスが現れた。
前回のクトゥグハと反対に水を纏う相手は、お供を二体連れていた。ボスであるノーディスをロイドに任せ、カーノは飛び回る二体を攻撃する。
繰り出された技を障壁で防ぎながら、自分の標的を倒しロイドの援護に回る。トドメにジーニアスのライトニングが炸裂し、敵は沈黙した。
祭壇に祈りを捧げ天使の加護を受けたコレットは、例によって激しい苦しみに襲われたので、少しでも休ませる為にその場で車座になる。
「ゴメンね……いつもいつも」
「何言ってんだ、謝る必要ねぇよ」
「そうだよ! 無理しないで」
コレットの背中を支えるロイドとジーニアスから少し離れた場所で、大人3人は声を潜めて話す。
「毎回ああなるのは、どうしようもないんですか?」
「そうね……試練だと言っていたし、さながら天使疾患、というところかしら」
「時間が惜しいが、こればかりは仕方あるまい」
「そうじゃなくて、コレットちゃんがあれで、最後の封印まで保つのかなと思ってな。なんか酷いことしてる気分にもなるし……」
あといくつあるかも知れない封印に、あの小さな体が耐えうるのか、今自分がしている事は果たして正しいのかとカーノは悩む。
「……ならば封印を解放するのを止めるか? 代わりに世界は滅びるがな」
辛辣な言葉を浴びせるクラトスに一瞬怒りそうになり、口を開けたところでそれは間違いだと気付く。
「………悪い、甘い事言ったな」
クラトスの意見は正しい。自分が喚いたところでコレットの痛みは治まらないし、旅を止める訳にもいかないのだから。
少女が苦しみに堪えているように、周囲の者もまた我慢するしかない。カーノはそれを理解して、それ以上は何も言わなかった。