07.大禍時は迫り来る
「あっ、開きました!!」リフィルの言う通り風車を回すと、奥に続く石造りの扉がゆっくりと開く。
その先の階段は外に続いていて、久しぶりの陽光に目が眩む。
祭壇に近付けば守護者が出てくるというシステムに順応した体は自然と武器を掴む。吹き荒れる風と共に現れたのはアスカードで見た魔物とは違い、両耳のある位置から綺麗な羽を生やしていた。
だが見た目は優美でもそれは封印を護る守護者で、羽を羽ばたかせると風は刃へと変わる。
かまいたちとも呼ばれるそれはカーノ逹の身を切り裂き祭壇への接近を許さない。庇護対象であるコレットを後衛に回して前衛であるクラトスやロイドが斬りかかる。
「この風なんとかならねぇのかよ!?」
剣は風に押されなかなか敵に当たらず、苛立ちを募らせるロイドが叫ぶ。
銃弾に弾を込め地に着けていた片足を浮かばせ立ち上がったカーノは、苦戦する2人に少し離れてくれと言って銃を構えた。
「どうする気だ?」
風の渦から一時脱出したクラトス逹に、カーノは地を蹴って駆け出した。
「数撃ちゃ当たるってな。」
直後、銃口から連続で弾が打ち出された。
音にするとダダダダダと表現されるそれは連射以外の何物でも無かった。敵の回りを走る彼は足跡の代わりに大量の薬莢を残していく。
間を置かず繰り出される弾はやがて風の壁を突き破り、敵の体にめり込んだ。
「今だ!!」
風が緩んだのを感じ取ったカーノがGOサインを出し、ロイドとクラトスが斬り込む。痛みに悶える敵は無我夢中で剣を握る2人に反撃、するのではなく、
「え、」
体を回転させてこちらを見た。敵は斬りかかってきた2人よりも攻撃のチャンスを与えた青年に怒りの矛先を向けた。
目があったカーノは自分が狙われているのだと察し銃を構え、弾が入っていない事に気付いた。
さっき連射した時に撃ちきってしまったのか。長年銃を扱ってきた彼は慌てる事もなく腰に巻いたポーチへと手を伸ばした。中にはグミやライフボトルに紛れて銃弾が入っている。だからそれを装填すればいいだけだ、そう思っていた。
だからグミやボトルしか入っていないポーチを見て、彼は硬直してしまった。
「兄貴!?」
敵が接近しているにも関わらず攻撃にも防御にも移らないカーノにロイドが慌てる。
注視してみれば兄の視線はポーチに固定されていた。その表情はひきつっている。
その時の兄弟2人の心境は揃って「まさか」だった。但し兄の方は文頭に「そんな」という三文字が付いていたし、弟は語尾に疑問符が付いていたのだが。
「カーノ危ない!!」
ジーニアスが注意を促すが時既に遅く、石化したカーノに敵の鋭い爪が降り下ろされる。
青年の危機に皆が息を飲む中、クラトスだけは迅速に対処した。カーノの腕を引っ張り前方に透明の盾を具現化させ、怯んだ敵を一閃した刃で貫く。
引っ張られた衝撃で目を覚ましたカーノは、崩れ落ちる守護者と鳶色の髪を交互に見た。
「………わ、悪い。」
何が起こったのかいまいち解らないまま、腕を掴むクラトスに謝罪する。
相手はこちらを一瞥し、手を離すと治癒にあたるリフィルを手伝いに行った。
「兄貴!!大丈夫か!?」
駆け寄ってくるロイドにお前こそ大丈夫かと治癒術をかける。淡く光り傷を癒すそれにロイドは礼を述べた。
カーノはそれを聞きながら、コレットを祭壇に導くクラトスを複雑な目で見ていた。
祈りを捧げ終えたコレットを連れ、天使疾患に備え街に戻ろうとした一行は、王廟の入り口で待っていた人物に気を張り詰めた。
「やっと見つけたよ…再生の神子…!!」
それはいつかコレットのドジによって坑道に落とされた暗殺者だった。先の戦いで攻撃の術を失っていたカーノは、思わぬ人物の登場に仕方なく後ろに下がる。
僅かでも助力になるようにと魔術でロイド逹を援護し、緊張感の無いコレットを背中に隠す。
単身で命を狙いに来るくらいなのだから、余程の手練れなのかと以前会った時から思っていたが、コレットと同年代ぐらいであろう女は守護者と比べると力も体力も劣っており、間もなく前衛によって倒された。
よろめく女は舌打ちをして撤退する。神子を暗殺するにしては明らかに役不足ではないのかと小さな背中を見送り、戦いの最中倒れたコレットを背負い街へと急いだ。
儀式の際に知り合った女性に事情を話し、家で少し休ませて貰う事にした一行は、次の封印について話し合っていた。
聞き込みの結果、此所から北に見えるマナの塔にそれらしきものがあるのだと解った。しかし塔は鍵がかかっており、その鍵は今行方がわからなくなっていると言われ、どうしたものかと頭を悩ませる。
「…闇雲に探すしかないのかしら。」
効率が悪くともそれしか方法が無い。塔の周辺にある街にあるかもしれないと皆は一番塔に近い街へと向かうべく、自力で歩ける程には回復したコレットを気遣いながら街を出た。
「なぁ、次は何処に行くんだ?」
ずっとコレットの側に居たロイドが、聞き込みを行っていた3人の年長者に訊ねる。
「ルインだよ。」
「ルインって…」
どっかで聞いたような、と首を捻るロイド。カーノは何も言わず思い出すのを待った。
「…あ!!母さんの故郷だ!!」
数分して、顔を明るくし答えを出したロイドに、周りの面々は驚く。
「…そうなの?」
リフィルが兄であるカーノに確認の意味で顔を向けると、相手は「ええ、まぁ」と少し寂しそうに笑う。
それを見て、亡くなった母親の話をするのはまずかっただろうかとリフィルが閉口する。
「なぁなぁ、どんな街なんだ?」
一方後ろで嬉しそうにするロイドに、今度はクラトスが答えた。
「美しい街だ。
希望の街と言われ、人々は活気に満ち溢れている。
…良いところだ。」
「…あんた行ったことあるのか?」
その質問にクラトスは視線を横に流し、知り合いの故郷でな、と答える。
ロイドは「ふぅん?」と興味なさげに返したが、カーノは奇遇だなと横を歩く男を見た。
「その人、今もまだ住んでるのか?」
「…いや、もう居ない。」
「そっか…。
アンタあちこち歩き回ってるから、なかなか会えないんだろ?積もる話もあっただろうに。」
“居ない”という言葉に何処かに引っ越してしまったんだなと、まさかその知り合いがアンナだとは知らないカーノは残念だなと言う。クラトスは目を閉じて美しい街と其所で笑う女性を瞼の裏に写して、そうだなと呟いた。