07.大禍時は迫り来る

「…何だよ、これ…」

そうして和やかな会話を交えながら様々な思いの詰まる街を訪れた一行は、倒壊する家屋や店の前に立ち尽くした。

鮮やかな色の屋根瓦を持つ家も、質の良い武器を取り揃えていた店も、温かい雰囲気で疲れを癒してくれた宿も、全てがただの廃屋と化していた。
旅人を歓迎してくれた人々は消え失せ、緑が栄える大地は抉られクレーターが並び、海を跨ぐ街を繋げていた橋はその役目を果たせず、足を乗せれば木板が水に落ちた。

その光景は見た者の心を存分に痛め付けた。特に賑やかだった頃の街の姿を知る男2人は、この上ない屈辱に拳を握りしめた。

「…妙だわ。
これだけ街が破壊されているのに、人の影はおろか死体1つない…」

街の様子にリフィルが眉を潜める。誰か残っていないのかと見回ると、噴水のある広場に座り込む人影を見つけた。

「…おまえ!」

だがそれが例の暗殺者だと解ったロイドは、コレットの前に立ち警戒を顕にする。
庇われたコレットは暗殺者の体を見てそれを制した。

「まって!暗殺者さんひどいケガしてる…!」

言う通り相手は全身に傷を負い、衣服に血を滲ませていた。何があったのかと訊ねると、女はゆっくりと事の経緯を話し始めた。

「見ただろ、街の惨状を。
…襲われたのさ、ディザイアンにね。

奴らは逃げる人々を捕え、女子供関係なく全ての人間を連れて行ったのさ。」

何処へ、とは聞かなくとも解っていた。

「…アスカード人間牧場にね。」

一番聞きたくなかった言葉に、カーノは悪夢のような記憶が一気に蘇るのを感じ、沸き上がる吐き気に口元を押さえる。

「あたしは街の人たちを助けようと思って牧場内に潜入しようとしたけど…相手は多勢だ。
すぐに見つかって追い出されちまった。」

自分は無力だと、そこまで言って痛みに傷口を押さえ踞る相手に、見かねたロイドはリフィルに傷を治してやってくれと頼んだ。
相手は敵だと拒否したリフィルだが、懇願するコレットに押され、渋々術を発動させた。

一瞬で退いた痛みに驚く女に、怪しい動きをしたら斬り捨てるとリフィルが釘を刺す。それに「陰険な女だね」と顔をしかめながらも、治療してくれた事に関しては礼を言った。

「あたしはしいなってんだ。
…こんなこと頼むなんて厚かましいとは思うけどさ、あんたたちの力を貸してくれないか。」

この街の人たちには一宿一般の恩があるから、どうしても助けたいと強く言うしいなにロイドは頷いた。彼もまた街を助けたいと強く思って。

「この街をイセリアのようにはさせない…!」

お願いしますと生徒2人に揃って協力を頼まれたリフィルは「どうせ言っても聞かないのでしょう」とため息をついた。

トントン拍子に話は進み、一時休戦ししいなと手を組む事になったロイド達は「急ごう!」と牧場に向かい走り出す。

カーノも街を助けたいという気持ちは同じだったし、別にその話に反対な訳でもなかった。でも、


「………大丈夫か?」


足が、動かなかった。記憶に残る悪夢に体が牧場に向かう事を拒む。心配して声をかけてくれたクラトスに返事も出来ず、その場で体を震わせた。
早く行かないと、街の人が危ない。言うことを聞かない体を必死に動かそうとするが、足は地面に縫い付けられたように魚籠ともしない。
動け動けと脳内で念じるカーノに、クラトスがもう一度同じ言葉をかける。

「大丈夫か?」

「……っ、大丈夫だ。」

振り絞った声が震える。情けないと歯を食いしばり、髪に着けた飾りを握りしめた。
大丈夫、今言った言葉を心の中で反復して深呼吸をする。あの時とは違う、今の俺は、皆を助ける為にあの場所に行くんだ。

「……行こう。」

遠ざかる赤い背に追いたてられ、鉛のような足を引き摺るように前に進み出た。待ってくれていたクラトスに詫びて、少しずつ足音を早める。
クラトスはそんなカーノに疑問符を浮かべながら、自らも抑まらない怒りを原動力に換え忌まわしき牧場へと走った。
目次へ戻る | TOPへ戻る