01.始まりの神託
「あっ、カーノだ!」「おぉ、お早うさん。今日もロイドの見送りか?」
「あら、顔が赤いわよ? どうかしたの?」
数分後、外に出たカーノに、いたるところから次々と声がかかる。
カーノはそれに答えながら、当たり前のように学校の近くにある畑へ向かった。
「おはよう御座います、遅れてすみません」
「おや、おはようさん」
先に仕事をしていた老婆に声をかけて、立て掛けてあった鍬を手に取り敷地内へと足を踏み入れる。
「いつも悪いねぇ、助かるよ」
「いえ、学校が終わるまでする事も無いので」
手慣れた手つきで畑を耕す老婆の向かいで、同じように作業をするカーノ。
ロイドが授業を終えて帰るまでの時間、最初のうちはただぶらぶらと村を徘徊していたカーノだったが、その時たまたま声をかけられ、それからこうしてロイドを送り届けた後に手伝うようになった。
始めは慣れない事ばかりで苦戦したものだが、今ではほとんどの事が出来るようになり、それは畑仕事だけではなく他の仕事でも言える事だった。
小さな村だからか若い男というのも多くはなく、力仕事や雑用係としてはカーノはうってつけだったらしい。
畑仕事を手伝うようになってからは、他の村人からも手伝いを頼まれ、ただの余所者だったカーノはあっという間に村の小間使い、もとい何でも屋と化していた。
「文句一つ言わず手伝ってくれるなんて、ほんと良くできた子だねぇ。ところで……」
老婆は作業していた手を止めて、突然カーノの頬を軽く叩く。
否、叩かれたというよりは、触れられたと言った方がいいのかもしれない。
「それはまだ直らないのかい?」
それ、と言われて一瞬思考するが、今しがた頬に触れるという動作をした相手にその意味を理解し、カーノは困ったような苦笑を溢した。
「……また赤くなってます?」
触られた方の頬に自分の手の甲をくっつけて、少しでも収まるようにと奮闘してみるが、指摘されると更に意識してしまいまた熱が上がる。
「こんな色男に頬染められて嫌な気はしないけどねぇ。若い娘は勘違いするよ?」
「はぁ……まぁ、直そうとは思ってるんですが……」
「この前もそれで村の娘と揉めたそうじゃないか」
そう言われて、カーノは数週間前に歳の近い女に怒鳴られた事を思いだし、また苦笑いを溢す。
その原因というのが今しがた目の前の老婆に指摘された事象で、その事象というのは例えるなら赤面症のようなものだった。
何故かはわからないが、昔から自分の意識とは関係なく、話していると顔の熱が上がってしまう。しかも質の悪いことに、そうなるのは相手が女性の場合に限られていた。
それ故に勘違いされる事はしょっちゅうで、歳の近い女性には先に言われたように勘違いをされ怒られたり、歳が離れた少女や老婆が相手の時はそういう趣味≠ゥとありもしない噂を立てられたり、更にはそんな女性陣を好きな男から非難が集中したりと、今まで散々と言えば散々な目に合ってきた。
直す努力はしているものの、そう簡単には直らないのが性分というもので、その考えには少しの諦めも混じっていたりした。
現に今学校で授業を受けているであろう見知った少年も、クールになりたいと常々口にしているが、熱血漢な性格は変わっていない。
まぁあいつの場合はそれが良くもあるんだけれどと、カーノはロイドの通う学校の方に目をやった。
そんな彼は今まさにその相手が授業を聞いていないという理由で怒られているとは知る由もないのだった。