01.始まりの神託
そうして作業をする間に時間は流れ、陽がじきに真上に来ようかという時、それは起こった。「──!? 何だ?」
突然村全体が光に包まれ、皆が一斉に同じ方を向く。
それは村の外れ、いつも自分が通っている方向。
位置からしてマーテル教会と呼ばれている場所に、天から光が射しているのが見えた。
だがそれは自然な陽光などではなく、まるで今から宇宙人でも降りてくるのではないかと思うぐらいの異常な光の柱だった。
あまりにも突然の事態に呆気に取られていると、誰からともなくこんな言葉が聞こえた。
「……神託だ、神託が下るんだ!!」
その声を皮切りに、村人が次々にざわめき出す。
カーノの側に居た老婆も、作業の手を止め見とれるように光の柱に目を向けていた。
カーノも聞いた事はあった。神子に下されるという神託、それは今衰退の一途を辿るこの世界を救う唯一の手段、世界再生の旅に出る合図。
それはこの村だけでなく、シルヴァラント中の人が待ちわびていた物だった。
人々が歓声を上げる中、カーノはふと弟と良く一緒に居る少女の事を思った。
そういえば今騒がれている神子というのは、彼女の事ではなかったかと。
そしてその記憶は正しかったのだという事は、まだ下校時間で無いにも関わらず校内から出てきた本人とその友人によって証明されるのだった。
計三名のその小さな団体は、周りを確認しながらこそこそと村の出口へと向かう。そしてその先には例の光の柱。
目的は誰が見ても明らかだった。
「こら、そこの三人」
一列になって移動していた三人の後ろから声をかけると、揃ってビクッと肩を弾ませた。そしてゆっくりと振り向く。
そして目を合わせるなり、一番先頭に居た者は「失敗した」という顔をした。
それは紛れもなくロイドだった。
「何してるんだ?」
「兄貴……仕事中じゃないのかよ」
「そう言うお前は授業中じゃないのか」
大体賃金を貰っていないのだから仕事じゃなく手伝いだろうという突っ込みは今は置いておくとして、カーノは逃げ出そうとするロイドの襟首を掴んで引き留めた。
「だから言ったじゃないか、すぐ見つかるって!」
「でも先生じゃなかったじゃん」
「カーノでも一緒だよ!」
すると今度は一番後ろに居た少年が騒ぎだす。
三人の中で一番背が低く幼いその少年は、今朝見た女性教師の弟で、ロイドの親友でもある人物だった。
「ジーニアス、優等生のお前が何で授業中にこんな所に居るんだ?」
「うっ……だ、だってロイドが!」
「俺のせいかよ!?」
「二人とも落ち着こうよ〜! ごめんなさいカーノさん!」
そして最後に、真ん中に居た少女が頭を下げる。
金色の長い髪を垂れさせ、数秒してからゆっくりと頭を上げた。その目は透き通るような青。
それは今まさに話題の中心に上がっている、再生の神子ことコレット=ブルーネルだった。
「祭市長様が迎えに来るまで待とうと思ったんですけど、なかなか来なくて……あ、だからって勝手に出てきちゃいけないってわかってるんですけど、でも……」
必死に説明するコレットに、カーノはやれやれと肩を竦める。
どうせ言い出しっぺはロイドなのだろうなと、未だにジーニアスと言い争っている弟を見つめた。
「なぁ兄貴、いいだろ!? どうせコレットは神託受けに行かなきゃならないんだし、今行っても後で行っても同じだって!」
「そういう問題じゃないだろ。危ないから言ってるんだ」
「じゃあ──」
瞬間、カーノは物凄く嫌な予感を抱いた。
「兄貴が来てくれればいいじゃん」
予想通りのそんな提案に、カーノは先ほどのロイド同様「失敗した」といった顔をした。
その反応に勝機を見出だしたロイドはそこから一気に捲し立てる。
「な? それなら文句無いだろ! それに俺だって戦えるし。なぁジーニアス!」
「え? あ、うん、そうだよ! ロイドって頭は悪いけど、剣の腕は確かだし!」
急に話題を振られて一瞬慌てたジーニアスも、すぐに援護射撃に移る。
子供というのはどうしてこういう時に結託力を見せるのだろうかと、頭は悪いけどと言う言葉に反応したロイドを発端に再び喧嘩を始めた二人を少し恨めしく見つめた。
そして結局言い負かされたカーノは、三人を連れてマーテル教会へと向かう事になるのだった。