07.大禍時は迫り来る

管制室に着いた時には、既にクヴァルは倒れていた。
背中に酷い傷を負ったコレットを治す為、敵の残る牧場から撤退し近くの高原に避難しリフィルの治療が終わるのを待った。

幸い大事には至らなかったが、あまり無茶はしないようにと皆からお咎めを受けたコレットは、嬉しそうに「ごめんなさい」と頭を下げた。

「傷が残らなくて良かったよ。
女の子なんだから、体は大事にしないと駄目だぞ?」

「はい、気をつけます。」

笑顔のコレットに、まぁ俺も遅れたから悪いんだけどと言うと、少女は大きく首を振った。

「カーノさんは悪くないです!!

街の人は無事でしたか?」

「うん、ちゃんと逃がしたから安心して。

街に戻って復興作業するんだって。」

あんな目にあっても、めげないで頑張るんだな。カーノは自分が助けた人々の笑顔を思い出し尊敬した。

「…旅が終わったら、また皆で行こうか。
綺麗になった街を見に。」

そこにはきっと、かつて見た景色が広がっているだろう。コレットなら喜んで賛同してくれると思っての言葉だったのだが、

「そう…ですね。」

少女は何故か物悲しそうに視線を落とした。

「? 嫌か?」

「えっ?あ、違うんです!!そうじゃなくて…」

慌てて否定し、楽しみですねと笑うコレット。その表情は何処か寂しそうだった。

「あ、私、ロイドに用があるんで行ってきますね!」

「…そうか?引き留めて悪かったな。」

失礼しますと小走りに駆けていくコレットを見つつ、自分の言葉に何かいけない部分があっただろうかと回想する。

「…リフィルさん、神子って世界再生を終えたら自由に動けなくなったりするんですか?」

「…どうしたの突然?」

そして博識な旅の仲間に、思い当たった事を聞いてみる。

「いや、さっきコレットちゃんに、旅が終わったら皆でルインに行こうって話をしたんですけど、気が乗らないようだったんで。」

近年、神子として旅に出た者はことごとく失敗している為、再生を果たした後の神子がどうなるかは知らない。もしかしたら教会に軟禁されたりするのだろうかと彼は思った。

「………、」

「リフィルさん?」

険しい顔をして黙り込んでしまった相手に、やはりそうなのかと不安になる。

「…少しいいか?」

数拍の沈黙の後、ようやく何か話そうとしたリフィルだったが、真相を知る前にクラトスに肩を叩かれる。

「え?…あぁ、
すいませんリフィルさん、後でまた。」

「…話の途中だったか?」

「いえ、構わないわ。」

聞きそびれたと残念がりながら、クラトスの後をついていく。
リフィルは2つの背を見送って、小さく呟いた。

「…そうよ、もう戻ってはこれないの。」

問いかけの答えは、誰の耳にも届く事はなかった。





「何の用だ?」

リフィルとの会話を強制的に断ち切られたカーノが足を止めた男に聞く。
また擬似尋問でもされるのだろうかと構えていると、やはりクラトスが口にしたのは疑問文だった。


「…イリアルという男を知っているか?」


ただしそれは、今までされたどの質問よりも聞かれた側に衝撃を与えるものだった。

「…知っているのだな。」

動揺が表情に出てしまったのか、何か言う前にクラトスが決めつける。

「…その名前、どこで聞いた?」

「クヴァルが言っていた。貴重なエクスフィアを持ち出した…とな。

その男は今どこにいる?」

余計な事を、と既に息絶えた男に怒るが状況の打開にはならない。

「さぁ、そこまでは知らないな。」

「…本当に知らないのか?」

「大体聞いてどうするつもりだ?」

痛いところばかり突いてくる相手にせめてもの反撃を試みる。
これで黙るかと思ったが、予想に反しクラトスは口を動かした。

「会ってみたいと思ってな。」

「……会ってどうする?」

「…そこまでは考えていない。
だが1つ、言いたい事があってな。」

珍しく投げやりな返事と最後の言葉に探求心が擽られ、続きを要求すると相手は今までの仕返しとばかりに黙秘した。その顔は僅かに笑っている。

「……あんた根に持つタイプなんだな。
それともやられたらやり返す精神か?」

「何の事だ?」

とぼけるクラトスにカーノは溜め息をついてそれ以上追求するのを止めた。黙らせようとはしたがそこで黙れとは言ってないぞ。

負けたようで悔しいが、反撃の術を失ったカーノはクラトスに背を向けて言葉の戦いを放棄した。それを遠くから見ていたリフィルは不機嫌そうに此方にやって来るカーノに喧嘩でもしたのかしらと勘違いし、また別の方向から見ていたジーニアスは「あのクラトスが…!!」と微笑する男を見て持っていた皿を落としてしまうのだった。
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