07.大禍時は迫り来る
ガキン、と金属が擦れる音が部屋の中に響く。管制室にたどり着くやいなや、憎き親の仇を見つけたロイドは有無を言わさず斬りかかった。
その攻撃を杖で防ぐクヴァルに苛立ちを募らせながら、次々に攻撃を繰り出す。
「わざわざ捕まるために舞い戻って来るとは…愚かですね。」
「捕まるためじゃない、あんたを倒すためだ!!
お前だけは絶対に許さない!!」
渾身の一撃もひらりとかわされ、杖から放たれた雷がロイドの肩を貫く。
「許さないならどうするつもりですか、劣悪種の分際で!!」
「……ッ!!」
とことん人を見下すクヴァルに踏みつけられ、悔しさと痛みに歯を食いしばる。
「偉大なる指導者ユグトラシルさまのため、そして我が功績を示すため。
世界に2つしかないそのエクスフィアが必要なのですよ。」
「……?」
2つ?ロイドは肩を踏みつける力を強めるクヴァルを見た。
「2つだと?」
「そうです、許さないのはこちらですよ。
希少価値のあるそれを揃って持ち出して。
私からしてみれば、そのうちの1つを持ち出した女の息子である貴方こそ憎むべき対象なのですよ。」
ロイドの疑問をクラトスが代弁する。彼も同じくクヴァルの言葉に疑問を抱いていた。
2つ、アンナ以外にもあのエクスフィアを持ち出した人間がいるのか?
「もう1人はまだ見つかっていませんが…、
まぁいずれあちらからやって来るでしょう、貴方のようにね。」
「どういう…ッ、事だよ…!?」
それが誰なのかは知らないが、また此所に戻って来るという根拠は何処から来るんだとロイドは相手を睨む。
「何せあの男は貴方の母親を追いかけて逃げ出したのですから。
貴方が私を仇だと思っているように、彼方も私を憎んでいるでしょうね。」
つまり、その人は自分と同じ勘違いをしているのか。だが1つ理解出来ない事があった。
命懸けで追いかけるなんて、その人母さんの何なんだ?
「さぁ、お喋りはここまでです。
…返して貰いますよ。」
クヴァルの魔の手がロイドに伸びる。
だがその手がエクスフィアに触れる前に、クラトスの剣が薙ぎ払われた。
「劣悪種めが…ッ」
「その劣悪種の痛みを存分に味わうといい。
地獄の業火でな…!!」
目に怒りを宿らせるクラトスをクヴァルは忌々しげに見る。
剣技によって追い詰められたクヴァルは死角から飛び出してきたロイドに身を切られた。
「おのれ…っ!!」
ふらつく体で尚も戦おうとする相手に肩の傷が響いたロイドの対応が遅れる。
間に合わない、クラトスが諦めかけたその時、彼の隣を金の糸が通った。
それはコレットだった。彼女はそのままロイドに飛び付き、背に敵の攻撃を受ける。
「コレット!!」
自分の盾となった少女にロイドが目を見開く。コレットの背はみるみる血に染まっていく。
「…ロイド、だいじょぶ…?」
「コレット、おまえ…!!」
幼馴染みの無茶に慌てるロイドだが、今は交戦中だ。敵は勝機を見出だし笑みを浮かべ武器を振りかぶった。
「死ね!!」
「く…っ、」
片腕でコレットを支え、剣を持ち直したロイドは力を振り絞って敵の胴体にそれを突き刺した。
と同時にクラトスも背後から剣を突き立てる。
「が…っ、」
血を吐き膝から崩れ落ちる敵に、安心したロイドはコレットの傷を確かめる。
しかしクラトスは無念を呟くクヴァルにまだ用があった。
「エクスフィアを持ち出したという男の名を教えろ。」
「…っ、そんな事を、聞いてどうする…?」
「教えろと言っている。」
いつ喋れなくなるかわからない相手をクラトスが急き立てる。クヴァルはそれを鼻で笑った。
「いいでしょう…、
あれは、培養体A003…人間名は…イリア…ル…」
その言葉を最後に、クヴァルは息を引き取った。
クラトスはその遺言が予想していたものとは違うものの、己の知っている名前が出た事に驚いた。
彼はエクスフィアを持ち出したという男がカーノなのではないかと思っていた。しかし出てきたのは全く別の名だった。その名は昔、まだロイドが産まれる前にアンナが度々口にしていたものだった。
「最初話しかけたときはすっごくトゲトゲしてたんだけど、最近やっと仲良くなれたの。」
牧場内で知り合ったのだというその男の話を嬉しそうにするアンナに自分が楽しくなさそうにしているのを見られ、恥ずかしい思いをした事を思い出す。
「大丈夫よ、彼まだ小さいもの。
私なんていい年のオバサンだと思われてるわ。」
彼女はそう言っていたが、クヴァルの話を聞く限りどうにもそれは違うんじゃないかと思う。
イリアルというその男は、自分と同じ感情を抱いていたのではないだろうか。でなければ多少仲が良いだけの者の為に危険を犯してまで脱走したりしないだろう。
そう思うとまた面白くなく感じたりもするのだが、2人が想う女性はもうこの世には居ないのだ。それは自分にもその男にもどうする事も出来ない。
今も見付かっていないという事は、まだ彼女を探していたりするのだろうか。それとも既に諦めて、自分の保身の為に何処かで息を潜めているだけだろうか。後者ならまだいいが、前者なら余りにも可哀想ではないかと彼は見た事もない、かつて自分が嫉妬した男に同情した。
「ロイド!!大丈夫か!?」
そうして考えるうちにやって来た仲間達に、クラトスは血の海に沈むクヴァルの側を離れ、皆の元に戻った。