08.繋がりは離れ壊れ
「くそっ、俺が何だって言うんだよ…!」
流石に一気に出口までは逃げ切れず、物陰に隠れ敵が過ぎ去るのを待つ間、ロイドが愚痴る。
「カーノでもいいって言ってたよね…、
もしかして、ロイドっていう個人じゃなくて、アーヴィング家の人間が狙われてるのかな?」
「その可能性はあるわね…、
でも、何の為に…?」
何か心当たりはある?と聞かれ、ロイドと顔を見合わせてから首を振る。
ユアンの口振りから、どうやらロイドや自分が相手にとって必要な存在であるらしい事は解ったが、何か有益な情報を持っている訳でも無いし、あったとしてもあんな手荒な真似をされれば誰だって協力などしないだろう。自白剤でも飲ませるつもりなら別だが。
「にしてもレネゲードの奴ら、敵か味方かハッキリしろってんだ!」
行き交う兵士を睨みながら苛立ちを募らせるロイド。まぁこうも災難続きだと無理もないなと、少しでも体力を回復させるため壁にもたれる。
「レネゲードはともかく、クルシスは敵と考えていいみたいね。」
「クルシスの指導者ユグドラシル…、
じゃああいつに頭を下げたクラトスはやっぱり…」
なるべく話題に上げぬようにしていた名前をあっさりと口にされ、額に皺が寄る。
「…貴方の言った通りでしたね、リフィルさん。」
結局自分は、アイツの事を何も解っていなかったんだ。ただ、解ったつもりでいただけ。
クラトスから受けた傷はもう治った筈なのに、体のあちこちが酷く傷んだ。
もう、戻れないのだろうか。
「…最初から騙されていたのよ、私達は。
レミエルにもクルシスにも、クラトスにも。」
リフィルの言葉に、皆が視線を床に落とす。短い付き合いだったにしても、裏切られて全く何も感じない程、その関係は浅くは無かった。
「…ねぇ、これからどうするの?」
重たい空気に耐え兼ねたジーニアスが話題を変える。確かに、今のまま落ち込んでいても仕方がないなと、クラトスの事を頭から離そうと頭を振って顔を上げた。
「皆はどうしたいんだ?」
「…俺は、何とかしてコレットを元に戻したい。
マーテルの器にされちまったら、手遅れになっちまう…」
相変わらすピクりとも動かない少女をロイドが悲しげに見つめる。その気持ちは皆同じだか、元に戻す手段がわからない。
また落ち込み始めるロイドを見て、しいなは数秒間悩んだ末、ある提案をした。
「…テセアラに来ないかい?」
困り果てた一行に差し伸べられた救いの手、だがそれは言い換えればどんな場所か想像すら出来ない異世界に行くというとんでもない話だった。
「テセアラに…!?
そんなこと出来るのか!?」
「可能だよ。
コリン!レアバードが格納されてる場所を探して来てくれるかい?」
しいなに呼ばれた小さな式神は元気に了承すると、足の間を潜り抜け飛び出して行った。
「レアバードって乗り物なら次元のひずみを越えられる。
…テセアラに行けばコレットを助ける方法が見つかるかもしれないよ。」
彼女によると、テセアラはこちらよりエクスフィアの研究が盛んらしく、神子の所持する輝石の研究もしていた、とのことだった。コレットのこの状態が輝石のせいだというのは、先程ユアンの説明で聞いていた為、ロイドは意を決して頷いた。
「行こう、テセアラに!!」
それに反対する者は居なかった。丁度戻ってきたコリンは目的のものを見つけたと報告し、格納庫まで導く。
「…カーノ、大丈夫?」
周りを警戒しながらコリンを追って走る最中、ジーニアスが心配そうな顔で話しかけてくる。
「ん?何がだ?」
「その……、一番仲良かったの、カーノだから…」
言いにくそうに言葉を濁すジーニアスに、あぁクラトスのことかと気付く。
「それに、さっきからずっと辛そうな顔してるし…」
「……え?」
自分では普通にしているつもりだったのだが、そんなに顔に出ていたのだろうかと頬に触れる。
「…悪い、余計な気遣わせたな。」
「そんなことないよ、カーノは大事な仲間だから…、
あ、だからって無理して笑わなくていいからね!!」
慌てて付け足すジーニアスに、こんな年下にまで気を遣わせるようじゃ駄目だなと苦笑した。
「大丈夫だよ、有難うな。」
今は忘れよう。そう心に決めて、深く息を吸ってゆっくりと吐いた。
(…今はコレットちゃんの事が先だ。)
しっかりしないと。先を行く小さな背中を見て、今彼らを護るべきは自分なのだと肝に銘じた。
辿り着いたのは、大きな機材が並ぶ広い空間だった。リフィルが操作板を弄ると、床の一部が開きレアバードが現れる。
形状からしてどうやら1人乗りらしいそれに各々が乗り込む。しかし見たこともないものの扱い方など解る筈もなく、しいなに聞こうと首を捻ったカーノの側で、何かが物凄いスピードで横切った。
「ぎゃあぁあぁあああ!?」
それは説明も待たずにハンドルを回してしまったロイドだった。滑走路を飛び出しみるみる遠ざかっていく人影に、ハッとしてその後を追う。
竜に乗っていた時よりも更に上空を、猛スピードで突っ切っていく。途中青白い光に包まれ眩しさに目を閉じると、次に開けた時には周りの景色は一変していた。
見たこともない街に、海に架かる長い橋。そこは確かに、シルヴァラントとは違う世界だった。
そんな真新しい光景の中で、1つだけ見覚えのあるものがあった。
天まで続く白い塔、その姿形はシルヴァラントにあったものと全く同じ。
「救いの塔!?
何でこっちにも…」
「あいつが言っただろ、救いの塔は繁栄世界に現れるって。
まだテセアラは繁栄してるってことさ。」
という事はやはり、コレットの世界再生の儀式はまだ完了していないという事か。元に戻る余地はまだあるなと希望を持った矢先に、不吉な警告音が鳴り出した。
音の発信源はレアバードだった。見ればエンジンの残量を示すメーターは0を指している。
背中に嫌な汗が流れた。
「そうか!あんたたちがシルヴァラントの精霊を解放したから、こっちのマナが不足してるんだ!」
「…つまり…?」
その先はもはや言わずもがなだった。ガタガタと激しく揺れだす機体に全員が青ざめる。
「落ちるってことさ!!」
ガクン、と一際大きく傾いて、動力源が底をついたレアバードが重力に従い落下を始める。
「―っ、フィールドバリアー!!」
咄嗟に浮かんだ呪文を叫び、防御壁を展開させる。効果があるかは解らないが、何もしないよりはマシだろう。
そしてそのままカーノ達は機体ごと真下にあった街に墜落した。けたたましい音と衝撃が大地を揺らし、直撃してしまった建物は半壊し土煙を上げる。
「…し、死ぬかと思った…。」
「いてて…、おい皆大丈夫か…?」
「な…何とか。カーノのおかげだね…」
幸い軽傷で済んだようで、瓦礫の山から起き上がり土を払う。
と、付近から人の呻き声が聞こえて、急ぎその出所を探すと誰かが角材の下に埋もれていた。
「悪い!!大丈夫か!?」
「どーゆーことよこれ…、頭抜けないんですけど。」
案外冷静な声が返ってきたので、酷い怪我はしていないとみたカーノは被害者の足を掴み引き抜こうとするロイドを制し、慎重に瓦礫を退かす。
「あー助かった。
ったく、俺さまの美しい顔にキズでもついたらどうしてくれんのよ〜。」
中から出てきたのは鮮やかな紅色の髪を持つ青年だった。自分で言うだけあって綺麗な顔立ちをしており、胸にはエクスフィアが付けられている。
「あっ、あんた…!!
ゼロス…!!」
そんな青年を見て、場所を確認していたしいなが仰天する。知り合いかと互いを見比べると、ゼロスと呼ばれた青年は挨拶代わりに右手を軽く挙げた。
「よお、しいなじゃーん。」
天使は心を奪われた
勇者は少女を救うべく
未開の地へと足を踏み出す
先に待つのは光か闇か