08.繋がりは離れ壊れ



―まずい、見られた。


危機を逃れたカーノが最初に思ったのはそれだった。
今まで誰にも、ロイドにすら見せたことはなかったのにと、幾重にも巻いた布の上から丸い石をなぞる。

移動した先はトリエットのある砂漠の一角だった。傷だらけの皆は地面に寝かされ治癒を受けているが、未だ目を覚まさない。

「心配するな、じきに目覚める。」

ここまで自分を運んでくれた兵士はあちこちに指示を飛ばし、念のため周囲を警戒していた。統率を取っているところを見るとリーダーか何かなのだろう、何者なのかは知らないが、自分を、何よりロイドや皆を助けてくれた事に礼を言う。

「…あんたらは、ディザイアンじゃないのか?」

格好だけ見ればディザイアンとほぼ変わらないのだが、ならばあそこで邪魔をする理由がない。身を挺してまで助け出してくれたということは、別の組織なのかもしれない。

「我々はレネゲード。
ディザイアン…いや、クルシスに対抗する地下組織だ。」

兵士は被っていた鎧を脱ぎ、暑そうに頭を振る。綺麗な青い髪を1つに纏めていたその兵士は、顔立ちからすると自分と近い歳に見えた。

「私はユアン。この地下組織を束ねるリーダーだ。」

「……味方と思っていいのか?」

裏切られたばかりで、どうしても疑り深くなってしまう。ユアンははっきりとは答えず、好きに判断すればいいと言った。

「……ぅ…、」

小さく唸り声が聞こえ、振り替えれば意識が戻ったらしいロイドと目があった。
近くにしゃがんで、痛みはないかと訊ねる。

「兄貴こそ、大丈夫なのか?あんなに傷だ……」

傷だらけだったのに。そう言いかけたロイドの目に薄桃色の羽が写る。

「…コレット!!」

光を灯さない瞳は何処を見るでもなく、まるで何も見えていないかのように虚ろなままで、少女は固まってしまったかのようにその場に佇んでいた。

「兄貴!!コレットは…っ」

「……兄だと?」

狼狽えるロイドの言葉に、何故かユアンが反応を示す。訝しげにこちらを見る相手に、会ったばかりの時のクラトスを思い出して目を伏せる。

「何だよお前ら、俺達をどうするつもりだ!?」

「…それはそちらに聞けばいい。
ともかく、ロイド・アーヴィング、お前に頼みたい事がある。

我々と共に来てもらおうか。」

有無を言わさぬその言葉に、渋々2人は立ち上がる。まだ他の仲間は起きていない、それにこちらは先の戦いで体力もすり減っている。数からして勝てる相手ではないのは明白だった。

「お前は、ロイドの兄なのか?」

ここに来てまたこの質問を受けるとは思わなかったなと、眠ったままの仲間を背負いながら苦笑する。
そして過去クラトスにもそうしたように、ハッキリと言った。


「兄だよ、直系のな。」






「―じゃあ、ディザイアンとクルシスは本当に同じ組織なのか!」

場所は砂漠の中にある、レネゲードの拠点に移る。
カーノは目を覚ました皆と一緒に、取り敢えず大人しくユアンの話を聞くことに決めた。

しかしその話はあまりにも突飛なものだった。


「シルヴァラントには互いにマナを搾取しあうもう一つの世界がある。」


いきなりそんな事を言われても、簡単には信じられなかった。だが、しいなは違った。

「…テセアラの事だね。」

驚きもせずに言った少女に、周りの視線が集まる。
テセアラ、シルヴァラントでは“月”という意味で使われている名前だけあって、ジーニアスがまさか月にでも人が住んでいるのかと聞くが、しいなは首を振った。

「まさか、テセアラはちゃんと地上にある世界だよ。
…信じられなくてもあたしが証人さ。

あたしはテセアラの人間だからね。」

テセアラとシルヴァラントは常に隣り合って存在しており、民間に知られていないのは目に見えないからだという。
更には、片方の世界が衰退する時、その世界のマナは全てもう片方の世界へ流れ込むのだとしいなとユアンは話した。

「神子の信託のあとに救いの塔が現れただろう?
あれは繁栄世界に出現する塔だ。

神子による世界再生は、マナの流れを逆転させる作業なのだ。」

「…あたしはそれを阻止するために送られて来たんだ。

テセアラを守るために。」

それで今までコレットを狙っていたのかと納得する。彼女はきっと、とても優しい人間なのだろう。だからこそ今までコレットは無事で居られたのだ。

(…辛かっただろうな。)

殺さなければ自分の居た世界が滅びる、けれどコレットを殺すことも出来ない。何故テセアラの人間は彼女にそんな役目を負わせたのかと俯く少女に同情した。

のも束の間、ユアンから更に衝撃的な話を聞かされる。


「そしてこのいびつな二つの世界を作り上げたのが、ユグドラシル。

クルシスとディザイアンの指導者だ。」


世界を、作る。そのあまりにも現実味の無い話に全員口を開けたまま止まる。

「ば…ばっかじゃないの!
そんなこと出来るはずが…」

「そう思うのならこの話はここで終わりだな。」

あくまでも現実主義であるジーニアスが声を荒げる。ユアンもその反応を予測していたのだろう、話を打ちきり立ち去ろうとする。

だがロイドはそれを呼び止めた。

「待てよ!!
二つの世界を作ったのがユグドラシルなら、お前達はそんな連中相手に何をしようとしてるんだ。」

その目が真剣だった事から、ユアンは足を戻し話を続ける。

「…我々の目的はマーテル復活の阻止。
その為に、マーテルの器となる神子の暗殺を計画していた。

大聖堂ではクラトスの邪魔が入ってしまったがな…。」

名前に反応してこめかみがピクリと動く。そして大聖堂と聞いて、初めてコレットが信託を受けた時のことを思い出した。


そういえば、クラトスと初めて会ったのもあの時だったな。


「だったら何で俺達を助けた!
コレットの命を狙っておいて…、到底味方とは思えない!」

記憶に残る男のものと同じ鳶色の髪を持つ少年は、収まりかけていた敵意をまた持ち直し叫ぶ。

「…神子が完全天使と化してしまった以上、下手な手出しは出来ない。
今の神子は防衛本能に基づき敵を殺戮する、兵器のようなものだからな。」

コレットを兵器に例える相手に少し不快感を覚えたが、あの少女をそんな風にしてしまった責任は護れなかった自分にもあるのだと口を閉ざす。
それにユアンの話が本当なら、コレットが誰かに狙われたとしても、彼女は自分で身を守れるということだ。だからと言って良かったとは言えないが、四六時中彼女を見張る必要は無くなったなと少しだけ気を抜いて、

「しかし、我々の目的を果たすために最も重要なものは既に我らが手中にある。

もう神子など…必要ない!!」

急に強くなったユアンの語調と、それを合図に室内に入ってきた兵士に取り囲まれたせいで、またすぐに気を入れ直した。

「我々に必要なのは貴様だ、ロイド・アーヴィング!」

名指しで呼ばれたロイドは動揺し、仲間達は即座にロイドと敵の間に立つ。
カーノも再び銃を手に取り、ロイドに下がるように言った。

「…味方ってわけじゃ無かったみたいだな。」

「……兄、と言ったな。
貴様が本当にロイドの兄だと言うのなら、貴様でも構わんのだがな。」

どういうことだと聞く間もなく、兵士達が迫り来る。

「ロイドを捕えろ!!」

「させないよ!」

応戦しようとしたロイドの肩を掴み、しいなが前に出る。懐から取り出したのは、彼女だけが扱える武器。

兵士に向かってばら蒔かれた無数の札は、しいなの合図で爆発した。
威力は小さいが煙幕の代わりにはなる。敵陣のど真ん中で戦うのは分が悪いと判断しての攻撃だったのだろう、皆は直ぐ様部屋を後にした。

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