09.終わらぬ輪廻
「プレセアちゃんは森を抜けた先にあるオゼット出身できこりやってるんだと。だからあの辺の地理に詳しい。
メルトキオでの仕事が終わったんで帰るついでに…な。」
「一緒に来てくれるの!?大賛成!!
ただのアホかと思ってたけどいいとこあるじゃん!!」
「何だとこのクソガキ」
いつも礼儀正しい喋り方をする分ジーニアスの言動が意外というか少し面白くて笑いが溢れる。
こんな風にしてると、村に居た頃と何も変わらないのにな。
「でもどうしてガオラキアなんだい?」
「森の先にアルテスタってドワーフが住んでるんだけど、そいつが輝石に詳しいらしいぜ。
…ま、行ってみなきゃわかんねーけどよ。」
ドワーフと聞いて頭に浮かぶのは自分を育ててくれたダイクの顔で、今ごろどうしているだろうかと故郷で待っているであろう姿を想像する。
「その人ならコレットの天使化をどうにか出来るのね…?
希望が出てきたわ。」
ずっと浮かない顔をしていたリフィルの顔にも僅かに明るさが戻る。それを見てゼロスはニヤニヤという擬音にピッタリのいやらしい笑みを浮かべた。
「相変わらすナイスバディなしいなと、将来有望なプレセアちゃん。
美しいお姉さまがリフィルさまで、クールな天使ちゃんがコレットちゃん!
いいねーえ楽しい旅になりそうだぜぇ、よろしくなハニーたち〜」
流れるように女性陣を見て豪快に笑う青年は、最後にこちらを見て取って付けたように「あとその下僕ども」と興味無さげに吐き捨てそっぽを向いた。
額に青筋を浮かべるジーニアス同様多少苛立ったが、「相手は年下だ」と自分に言い聞かせ怒りをおさめた。それにお偉いさんなんだし…と、そこまで考えてすっかり忘れていたことを思い出す。
「あ…のさ、ゼロス君?」
ゼロス様のほうがいいのかと迷ったが、こちらを下僕扱いする相手をそこまで敬うのは気が引けた。するとゼロスは明らかに嫌そうな顔をして手を顔の前で左右に振った。
「あーダメダメ。ゼロス“君”っての気持ち悪いから止めてくんない?
変に気ぃ遣わなくても、普通にゼロスでいいって。」
自分はリフィル達を好き勝手に呼ぶくせにかと呆れる。だが自分にとってもその方が呼びやすいので、黙って従った。
「ゼロス、その…この家のことなんだけど…」
言いにくそうに視線をあちこちにさ迷わせるカーノに、半分瓦礫と化した家を見てゼロスが吹き出す。
「っあー、あれか?もしかして弁償?
いいってぇこんぐらい、どうせ払える金なんざ無いだろうし!!」
でひゃひゃひゃと笑いまくる青年に、当然のことを聞いたまでだと思っていたカーノは何故か恥ずかしくなる。
「真面目だねぇ。
えーっと、名前なんてーんだっけ?」
「……カーノだよ。」
「カーノくんね、アンタ何歳よ?」
「26、こっちも呼び捨てでいいぞ。
っていうか、呼び捨てにしてくれ。年下にくん付けで呼ばれるのはちょっと…」
あれ、年下だよな?見た目で勝手に20前後ぐらいだと思っていたカーノは聞こうとして、止めた。なぜなら再びゼロスが笑い出してしまったからだ。
何がそんなに面白いのか、ろくな答えが返ってきそうにないので、そういう年頃なんだなと無理矢理な理由を付けて納得した。
そんなこんなで総勢8名となった一行は、メルトキオを後にしてまた新たな旅へのスタートを切った。
道案役のプレセアが先頭を歩き、その護衛を買ってでたジーニアスがその隣、土地勘のない自分達がはぐれないようにとしいなが殿を務め、残ったメンバーは配置を決めることもなくその間を歩く。
もしこれが旅行か何かだったなら、きっとはしゃいであちこち走り回っていただろうにと、静かにコレットに寄り添いながらわき目もふらずにプレセアの後ろをついていくロイドを見る。
「…なー、カーノってさぁ、ロイドくんの何?」
と、突然聞いてきたのはテセアラの神子で、何とは?と聞き返すと、
「さっきからずーっとロイドくんの方見てるんだもんよ。あ、もしかしてそっちの気でもある?」
などと冗談とはいえ凄い見解をしてきたので、軽く流して訂正する。
「兄だよ。」
また疑われるかな、と再三繰り返してきたやり取りから予想するが、ゼロスは少しだけ目を見開いてからカーノとロイドを交互に見て一言。
「ふーん、なるほどねぇ。」
とアッサリ納得した。意外すぎる反応に思わず足を止める。
「…そ、れだけか?」
「何がよ?」
「いや…」
今までの素行からして、似てないだの兄弟に見えないだのと言われると思っていたのだが、そのあたりの良識は弁えているのだろうか。それともただ興味がないだけだろうか?
「まぁ似てないな、とは思うけどよ。」
思考を読んだかのように的を得た発言に一瞬ドキリとする。が、続けてゼロスはどこか皮肉めいた笑みを浮かべ言った。
「俺様も、セレスとは似てないからな。」
「セレス?」
「俺様の妹。」
スタスタと歩いていく紅髪の青年を口と目を開き唖然として見る。
妹、妹って、妹…!?ゼロスと同じ髪と性格の少女を思い浮かべて頭痛がした。いや似ていないというのは性格のことも含めてかもしれない、…いやでもそれはそれで妹さんが可哀想…ゼロスよりも数段失礼な事を考えていたカーノの背中を、最後尾を歩いていたしいなが叩いた。
「何ボサッとしてるんだい?置いてかれちまうよ。」
「あ、あぁ、ごめん。」
見れば先頭のプレセアの姿が消えかかっていた。慌てて追いかけて、追い付いたところでまた少し歩調を緩める。
「お、見えてきたな。
あれを渡ればもうすぐだ。」
ゼロスがそう言って見上げた先には、見たこともない立派な橋がかかっていた。どれくらい長いのか、向こう岸は今居る場所からは見えず、道が海の上に延々と伸びている。
これを歩くのかと思うと気が引けるが、進むにはそれしか方法がない。ノイシュがいればなぁとシルヴァラントに置いてきた仲間を思い出して、ちゃんと帰れただろうかと心配になった。
頭がいいのだから帰り道は分かっているだろうが、途中魔物に会ったりしていないだろうか。昔から魔物が苦手だったから戦うことは出来ないだろうし、上手く逃げきれればいいけれど…
そんなことを考えているうちに橋を渡りきる。意外と短かったなと後ろを向くが、やはり橋の先は見えない。考え事をしていると時間が早く感じるのだろうか。
そしてそのまま更に北上、途中学園都市と呼ばれる街があったが、今はコレットの身が最優先である為にそのまま通りすぎる。
リフィルさんやジーニアスにとっては夢のような街だろうに、と勉強熱心な2人を見る。だが2人は両者共に何も言わず、ひたすらプレセアの後を歩いていた。