01.始まりの神託

「だーっ、もう、何匹居るんだよ!?」

ロイドが愚痴りながら道を阻む敵を斬り倒す。コレット達はその残骸を避けながら奥へと進んでいた。

隊列としては、通路の確保の為に敵を倒すロイドとクラトスが先頭に立ち、その後ろに保護対象であるコレットが続き、更にその後ろでは殿を勤めるカーノと、それを助けるジーニアスが周囲に気を配らせていた。

神殿に入ってから今までに、もう何匹もの敵に遭遇しており、それを毎回片付けなければならないロイドは、既に肩で息をする程に疲労していた。
それに比べてその横を歩くクラトスは、神殿に入る前と何一つ変わらぬ涼しい顔で、襲い来る敵を排除していた。

それもそうだろうと、後ろからそれを見ていたカーノは思う。
訓練を積んだ傭兵と日頃剣の代わりにペンを握って問題文を解いている少年とでは差が出て当たり前だし、平時から敵だらけの道を斬り進んでいるのだろうクラトスと違って、ロイドは実戦すらほとんどした事がないのだ。それに相手にする数もこんな多勢ではなく僅かだったのだろう。

だからいくらクラトスが自分より多くの敵を倒しているにも関わらず、平然とした態度を崩さなかったとしても、仕方がないと言えば仕方がない事なのだから、劣等感を感じる必要はないんだぞと、剣を振りかざすクラトスを悔しそうに見つめているロイドに向かって心の中で呟いた。

そうこうしている内に、一行はようやく神殿の最深部へとたどり着き、コレットが床に設置されている装置の前で止まった。

楕円形の台から光を溢れさせるそれはシルヴァラントでは有名な空間転移装置で、その事を知っているコレットは光の輪の上に立ち、「この先が祭壇です」と皆に告げて先に行く。
続く皆も順にその上に立ち、まもなく白い光に包まれ姿を消す。

数秒間視界は白一色となり、それが収まった頃には、目の前に広がる景色はその姿を変えていた。

広いドーム状の空間、その中央には祭壇が置かれ、他には何もない。
本当に神託を受ける為だけに存在しているらしいその部屋は、どれだけ神託が重要なものなのかをありありと示している様で、コレットは改めて息を飲んだ。

祭壇が位置する場所には丁度外で見た光の柱が当たっており、更によく見ればその光は祭壇に置かれた小さな石に集まっているようだった。
その正体はクルシスの輝石と呼ばれる特殊なエクスフィアで、普段なかなか見ることの出来ない代物でもある為、何故それがこんな場所にあるのかとカーノは僅かながらに疑問に思ったが、わざわざ口に出すことはしなかった。

ロイド達が見守る中、神子はその役目を果たすべくゆっくりと祭壇に歩み寄る。
その間も、カーノやクラトスは周囲に細心の注意を払い、いざという時すぐ対応出来る様それぞれの武器を握っていた。

そしてコレットが漸く祭壇の前に立つと、空から新たに光の塊が下りてきた。
人の形を取ったそれの背には白い翼が生えている。

凛とした面持ちでコレットを見るその姿は、正しく天の使いと呼ぶに相応しいと言えた。

「我が名はレミエル。マナの血族の娘コレットを、新たな神子として天に導くクルシスの天使。世界の中心で眠るマーテル様を目覚めさせる時が来た」

静かに、しかし威厳のある声が聖堂に響き渡ると、先程のクルシスの輝石がひとりでに宙に浮き、コレットの胸の上まで移動すると、一際大きく発光した後、その体へと埋め込まれた。

「今この時より、コレットは再生の神子となる。我々クルシスはこれを祝福し、シルヴァラントに救いの塔を与えよう!」

レミエルが窓の外に手を翳し高らかに宣言すると、遥か遠くに天まで伸びる塔が現れたのが見えた。
雲を突き抜けどこまでも続くその塔は、世界中の人間に希望を与える、世界再生の象徴。

今頃各所で喜びの声が上がっているのだろうなと、未だに銃から手を離さないカーノは嬉々としてはしゃぐ人々を想像した。
そんな間にも、レミエルの言葉は続く。

「再生の神子コレットよ、救いの塔を護る封印を解き、かの地に刻まれた天の階を上れ!」

「……神子はたしかにその任を承りました」

目を閉じ、祈るように胸の前で手を組むコレット。
そんな二人のやり取りを見ていたロイドは、何とも言えない気持ちの高ぶりを感じ、ジーニアスも同じように目を輝かせる。

「まずはここより南の方角にある火の封印を目指すが良い。かの地の祭壇で祈りを捧げよ」

「はい、レミエル様」

「……次の封印でまた会おう、マナの神子よ」

そう言い終わると、現れた時と同じように眩い光が部屋に満ちて、レミエルは音もなく消え去った。どうやら今ので神託は終わりらしい。

これで彼女は正式な神子になった筈だが、だからといって何かがすぐに変わるという訳でも無いらしく、コレットは心配する皆に「だいじょぶだいじょぶ」と普段通りの振る舞いをする。

「神子よ、そろそろ良いか。神託が終了したことを村の者に告げねばなるまい」

「あ、はい!」

クラトスに呼ばれたコレットが話を打ち切り、最後にロイド達に礼を述べてから出口へと向かう。
それを見送って、カーノ達も帰る為に動き出した。

「さーて、お前達は村に帰って説教タイムだ」

「げっ!?」

「えぇっ!? 許してくれたんじゃなかったの!?」

「当たり前だ。散々心配かけさせやがって」

「お願いカーノ、姉さんには黙ってて!」

「どうしようかな〜」

鬼ー! と叫ぶジーニアスとロイドにカーノが笑みを溢す。
後に残された祭壇は光源を失い、先程までの神々しさが嘘のように、ひっそりと佇んでいた。
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