01.わだつみに別たれ

「あら、またアナタたち? 相変わらず頭数だけは多いわね」

暇をもてあます一行に、ユウナと対立しているらしい例の女性召喚士がやって来るなり嫌味を言う。
ミヘン街道では何も感じなかったが、なるほどこれは敵を作りそうなタイプだ。

「どうしたのバルテロ? そのオジサンに何か用?」

「あんた……アーロンだな?」

「……だったらどうする」

ガードの男がアーロンの前に立って、なにやら2人で睨み合いを始める。

アーロンの素性を知った上でのその行動は自分には真似できないなとユノは思ったが、バルテロは威嚇するつもりはなかったらしく、言葉遣いを改めて握手を求めた。

「俺、あんたに憧れてガードになったんだ!」

拍子抜けした様子のアーロンが手を差し出し、バルテロは嬉々としてその手を掴む。予想外の光景にドナも、ティーダ達も唖然とした。

「ありがとうございますっ! か、感激ですっ!!」

「……大召喚士ブラスカ様を守ったガードを掴まえてオジサンとはな」

「もの知らずにもほどがあるわね」

さっきの仕返しといわんばかりに、ドナに向けて痛い言葉を次々発射するルールー達。
赤くなったドナが八つ当たりのようにバルテロに小言を言っていると、祈り子の部屋から疲れた様子のユウナが現れた。ふらつくその体をキマリが支える。

「持つべきものは偉大な父親ね。ガードの数は無闇に多いし、アーロン様まで味方につけて。それにシーモア様にも気に入られているみたいじゃない? ブラスカ様の娘って肩書きがあると違うわね」

「父は……関係ありません。私は、ひとりの召喚士として旅をしているだけです」

「あら、結構なことね。でも偉そうなことを言う前に、まず自分の足でシャンと立ったら? ガードに頼ってばかりだと、いざって時に痛い目見るわよ」

ユウナに向けて言われたはずのその言葉が、自分に向けられたもののようにユノの胸に突き刺さった。
まさに今の自分、ガードに頼りっぱなしだったこれまでを思い出して、そして今の有様を振り返って、己の未熟さをユノは痛感する。

彼女の言い方は憎たらしいが、言っていることは真理だと思った。
ユウナは否定しているが、実際ブラスカの娘という代名詞が周囲にどんな影響を与えているかということは、自分でさえも感じられるものがあるし、そのせいで彼女が一般の召喚士とは少し違う扱いをされているということも事実だ。

ただそれを彼女が良しとしていないのなら、父の名は煩わしいだけかもしれないが。
少なくとも何の肩書きもないユノにとって、ユウナは少し羨ましかった。

それ故に、優遇されている彼女を恨めしく思うドナの気持ちも、全くわからない訳ではなかった。






夜。亡くなった者たちを送ろうと、ユウナはひたすら舞い続けていた。
それを少しでも手伝おうと、ユノも同じように杖を振るう。

「もう遅いから、ユノは休んで?」

「……でも」

「私はまだ大丈夫!」

異界送りが終わると次は怪我人の手当てをと、休むことなく動き回るユウナに、ユノは敵わないなぁと感じた。

どうしてあれだけ笑顔で、明るく振る舞い続けることができるのだろう。
どうして自分には、それが出来ないのだろう。

杖を下ろして、寒空の下を1人彷徨う。
アーロンやドナの言葉が、ずっと胸にひっかかったまま取れない。

働き続けるユウナに一声かけてから、ユノは自室に戻って床に潜った。
枕元にある時計のアラームを明朝に合わせる。

確かこの先はシパーフに乗ってある程度行けたはずだ、そこまでの道程もそれほど長くは無い。それより先のことは──今は考えるのはやめよう。

真っ暗な部屋に窓から差し込む幻光虫の光を見ながら、ユノは目を閉じた。
きっとすぐに鳴るだろう目覚ましの音を、少しだけ恐れながら。






翌日。いつも通り皆の後、と言っても昨晩遅くまで働いていたユウナよりは早かったが、それなりの時間に起きたティーダは、外で待っていたメンバーに叫んだ。

「ユノがいない!」

昨日の夜には居たはずの青年は、朝になると忽然と姿を消していた。
寺院の人間に話を聞いてみたが、誰も知らないと言う。

「おかしーだろ! なんで!?」

「嫌になって帰ったか、それとも一人で先に行ったか」

「だとしたって、こんな急に……」

「まぁ、あいつは一個一個寺院を回る必要もねーしな」

「みんな心配じゃねーのかよ!? ユノだぞ!? あのつついたら倒れそうなユノだぞ!? 女と間違われるようなやつなんだぞ!?」

「逆に聞きたいけど、昨日今日会ったばかりの他人に、どうしてそこまで熱くなれるの」

「他人って……」

冷静に返されて、語気を荒げていたティーダはしぼんでいく。
確かに他人かもしれないけれど、短い時間だけでも共に過ごした仲間なのに。

「そんなに心配なら探しに行けばいい」

「……ユウナを放って行けるわけないだろ」

「ならいちいち騒ぐな」

「……ユノが出て行ったの、アンタのせいじゃないだろうな」

「おい、やめとけって」

アーロンに食ってかかろうとするティーダをワッカがなだめる。
だがティーダはそれを振り払って問い詰める。

「アンタ乗り気じゃなかったもんな。あいつのこと足手纏いだとか、邪魔だとか言ったんじゃねーのか!?」

「……もしそうだったとして、事実を言って何が悪い? あいつはユウナの旅には必要無い。居てもユウナやガードの負担が増えるだけだ」

「アンタぐらいの実力なら、護る人数が1人増えたくらいじゃどうってことないだろ! なんでそんなに冷たくするんだよ、ユノの何が嫌なんだよ!」

わめくティーダに対して、アーロンは静かだった。
怒るでも呆れるでもなく、淡々と答える。

「頼って当然、護られて当然。そんな甘えた考えの人間にシンは倒せない。我が身すら護れず1人で歩くことも出来ない、問題があっても自分で対処できない、それは子供と同じだ。……お前は子供を連れて旅をするつもりか?」

「……じゃああんたは、子供が突然居なくなって、魔物だらけの危ない道を1人で歩いてるのを知っててほっとくのかよ」

ティーダは顔を背けて、ユウナを見てくると言い寺院に入っていった。

気まずい沈黙の中、アーロンは幻光河へと続く道を見つめる。
まだ暗いうちにそこを歩いていく青年の姿を思い浮かべて、小さく溜息をついた。
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