02.温情の雪は水に溶ける

気絶していたユウナの意識が戻ったところで、詳しい事情を聞く。
ユウナの目的はジスカルのことを聞いて、きちんとした裁き受けてもらうこと。そのために必要ならば結婚することも考えていたということだった。

「んで、シーモアは何て言ってたんだ?」

「何も答えて貰えなかった。……結局、私のやったことって何だったんだろうな。もし最初から皆に相談していたら……」

「もういい、しなかったことの話など時間の無駄だ」

「そんな言い方しなくてもいいのに!」

「ユウナの後悔を聞けば、満足するのか」

「そんな言い方、しなくてもいいのに……」

「決めねばならんのは今後の身の振り方だ。旅は続けるんだな」

「はい。でも……寺院の許可が得られるでしょうか」

「召喚士を育てるのは祈り子との接触だ。寺院の許可や教えではない。お前に覚悟があるなら……俺は寺院に敵対しても構わんぞ」

アーロンの爆弾発言にティーダとリュックは歓声を上げたが、ルールーとワッカはそれを諌めた。

「オレは反対だ。オレたちは犯した罪を償わなくちゃならねえ。確かに……シーモア老師のことはあまり好きじゃなかった。ああ、ミヘン・セッションの時から気に入らねえと思ってたよ! ジスカル様を殺したのはもちろん許せねえし……それからあれだ、オレたちを殺そうともした。けどなあ!」

「それでも、やはり罪は罪。裁きを受けるべきです」

「ベベルへ行こう。聖ベベル宮のマイカ老師に事情を説明しよう。それしか、ないと思う」

「アーロンさん……」

「話はついたようだな」

「一緒に来てくれますか?」

「事を荒立てたのは俺だからな」

「そうそう! たいていアーロンが話をややこしくするんだよな」

「だよねえ、キマリがガーッて吼えて、おっちゃんが突っ走ってさ〜」

意気投合するティーダとリュックに、アーロンは楽しくなさそうにそっぽを向く。

「ついて来いと言った覚えはない」

「仲間が行ったら、ほっとけるかっつうの! な?」

「うん!」

「……ありがとう」

「は?」

何故礼を言われたのかわかっていないティーダに、ユウナは微笑みかけた。

なんだか、いいなぁ。
ユノがその穏やかな空気に浸っていると、ユウナがさっきと真逆の言葉を口にした。

「……ごめんね」

「え?」

「こんなことに、巻き込んじゃって……ユノがこんな目に遭う必要はなかったのに……」

「……そうね、今回の件で動きにくくなってしまうのは、ユノも同じだものね……」

「それは……」

確かに、召喚士である以上寺院とは接触しなければならないし、波風立てずに居た方がいいことは明らかなのだが。

「ついて来させて貰ってるのは俺です。それに、シーモア老師のことは……俺も、一緒に戦いましたから。……ユウナに謝って貰うことなんてないよ。俺のほうこそ……足引っ張ってばかりで、ほんとに、ごめん」

「そんなこと言うなよ、ユノは役に立ってるって」

「そうだよ〜、見てて面白いし」

「えっ、リュックそれどういう意味……」

周囲に笑いが巻き起こり、眉を下げていたユノもつられて笑い出す。
大変なことは少なくないけれど、皆と居れることが嬉しかった。1人で居るより、心はずっとずっと楽だった。

このまま永遠にみんなと居られればいいのにと、召喚士の成すべき仕事のことも忘れて、そんなことを願ってしまう。

「ったく、この非常時にのん気だなあオイ。単純っちゅうか、図太いっちゅうか」

「あんたはカリカリしすぎ。歌でも聞いて気を緩めたら」

「寺院から聞こえるのか?」

「うん、心静めるエボンの賜物」

「これ、誰が歌ってるんだ?」

「祈り子様よ」

「祈り子って歌ったりするもんなのか!?」

「それ以外に説明がつかないでしょ」

流れる音楽はずっと一定のテンポを保ち続けている。スピラの人間なら誰もが歌えるであろうそれを皆が口ずさむ。

「この歌、ジェクトも歌っていたな」

「ああ、こればっかりな。はは……へったくそでさ〜!」

「下手なのはおまえも同じだ」

「聞いてたのかよ!? かーっ! 油断もスキも無いなあ」

「おまえの歌を聞くたびに、スピラのことを思い出した」

「そっか……あんたスピラからザナルカンドに渡ったんだよな。やっぱり心細かったのか?」

「さあな」

「なあ、どうやってザナルカンドへ行ったんだ? ……シン?」

無言のアーロンに、ティーダがそれを肯定と受け取って視線を落とす。
気がつくと歌は止んで、辺りには静寂が立ち込めていた。

すると突然、足場が激しく揺れ出す。

「えっ、わっ!」

「何かいるんじゃねえか!?」

「下だ!」

「──シン!?」

「げっ!?」

「ひっ!?」

「毒気に気をつけて!」

自分達が乗っかっていたそれがシンだと気付いた瞬間、猛烈な立ちくらみに襲われた。
蠢く巨体に立っていることも出来ずに膝をつく。

意識を手放す前に、謎の映像が頭に流れてきた。毒気は意識を混線させると聞いていたが、これがそうなのだろうか。

見えたのは、シーモアの屋敷で見たあの機械仕掛けの街、つまり1000年前のザナルカンド。ティーダの故郷。
地面に転がるブリッツボールと、膝を抱える1人の少年。そして、ジェクトらしき人物の背中。


何もわからないのに、その光景を見て、ユノは何故かひどく悲しい気持ちになった。
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