02.温情の雪は水に溶ける
「なるほど……命を捨てても召喚士を守る。誇り高きガードの魂……見事なものです。宜しい、ならばその命、捨てていただこう!」「シーモア老師、ガードは私の大切な同志です。その人たちに死ねと言うのなら、私もあなたと戦います」
その言葉にティーダはガッツポーズし、ワッカは絶望した。
召喚獣を繰り出す相手に、ユウナとユノもそれぞれ召喚獣を喚んで応戦。
「あまり前に出すぎるなよ」
「は、はいっ」
アーロンに言われたユノが少し後ろに退くと、仲間達の隙間からシーモアが見えた。
その視線はなぜかこちらを捉えていて、言いようのない悪寒が走る。
「?、??」
「ボーッとしない!」
「あっ、はい!」
たまたま目が合っただけか? とにかく今は気にしないようにとユノは戦いに専念する。
皆の攻撃の前に、ほどなくしてシーモアは地面に倒れこんだ。瀕死の相手にユウナが駆け寄る。
「今更……私を憐れむのですか」
「おお………シーモア様!? い、いったい何が!」
「オ……オレは……」
「ワッカ、気にすんな。先に手を出したのはシーモアだ」
「なんと! 貴方達が!」
「ユウナ、送ってやれ」
「おやめなさい! 反逆者の手は借りません」
トワメル率いるグアド族達は、シーモアの遺体を担いで部屋を出て行った。
ユウナが全身の力を失って崩れ落ちる。
「反逆者……」
「もう……終わりだ」
「ちょっと待てよ! 悪いのはシーモアだろ! それを説明すればみんな分かってくれるって!」
「それほど甘くはないだろうが……とにかく、ここを出るぞ」
「……ユウナ、立てる? 歩ける?」
ユノがふらつくユウナを支えて寺院の入り口まで戻ると、そこには大勢のグアド族が待ち構えていた。
どう見てもお見送りしますという空気ではない。
「あの……」
「申し開きの機会をくれ」
「他の老師たちへは、私が報告しておきましょう」
「と言うと?」
「シーモア様はエボンの老師である前に、グアドの族長ですから」
「やる……ってことッスか」
「ここから無事に帰してしまっては、シーモア様が許しますまい」
「待ってよ〜! ほら、あのスフィアを見れば分かってくれるよ!」
「これですかな?」
トワメルの手には例のスフィアが握られており、あろうことかそれを地面に叩き付けた。
脆いスフィアは当然のごとく砕け散る。
「グアドの問題はグアドが解決します」
「そんな……!」
「どけ!」
キマリが槍を振り回して退路を作る。走れと言われてユノは咄嗟にユウナの手を取り寺院から逃げ出した。
だが自分の足では追いつかれてしまう。
「ティーダ、ユウナお願い」
「へ? ユノ!?」
ティーダの手とユウナの手を無理やり繋がせて、その背中を押す。
掴まる気はないがこの足取りでは逃げ切れる気がしない。せめてユウナだけでも逃がさないとと判断してのことだったのだが、遅れるユノに気付いてアーロンが手を掴んだ。
「来い!」
「わっ、待っ、そんなに速く走れないです!」
速すぎる相手の歩調になどついていけるわけもなくすっ転んでしまい、ごめんなさいごめんなさいと謝っていると、ひょいと体を持ち上げられ肩に担がれた。
「世話の焼ける奴だ」
「ご、ごめんなさい……」
情けないやら恥ずかしいやらでちょっと泣きたい気分にもなったが、今はそれどころではない。
後ろからはグアド族の追手が迫っていた。
捕らえようと手を伸ばしてくる相手を、後ろ向きに担がれているユノが杖でぽかぽかと殴る。
一行はそのまま雪原地帯へと出てきたが、ここでグアド族の召喚士が呼び出した凶暴な魔物に追いつかれてしまった。避けて通ることも出来ずに結局戦闘になる。
なんとかこれを打ち破ったはいいが、敵は最後の力を振り絞って氷の地面を叩き割った。
それには流石に対抗する術もなく、全員がマカラーニャの湖面へと吸い込まれていった。
イエユイ ノボメノ レンミリ ヨジュヨゴ
イエユイ ノボメノ レンミリ ヨジュヨゴ
ハサテカナエ クタマエ
耳馴染みのある歌が頭に響く。
小さな頃から聞いていたエボンの歌。安らかでどこか物悲しいその歌に、沈んでいた意識がゆっくりと浮上する。
ここはどこだろう? うっすらと開けた視界に淡い光の粒が見えた。
七色を纏いゆらゆらと空中を漂うそれは何度も見たことのあるもの。そう特に、召喚士なら。
「目が覚めたか」
「ひぁっ!」
近くで聞こえた声に吃驚してユノは飛び起きる。
相変わらず落ち着き払った様子のアーロンは、またくつくつと笑っていた。
「ええっと……ここどこ、ですか?」
「湖の氷の下だ、落ちてきたらしい」
「氷の下……あ、えと、お怪我ありませんか」
「お前に心配されるほど柔な体ではない」
「あ、えとじゃあ、皆は……」
「全員無事だ」
それを聞いてユノは胸を撫で下ろしたが、現状は全くもって宜しくなかった。
地上まではかなりの高度があるし、よじ登るのは無理がある。
それにこれから先のことも……考えることは山ほどあった。