01.わだつみに別たれ

倒しても倒しても際限なく現れる魔物たちは、最終的にはスタジアムに居たらしいグアド族の老師が召喚した召喚獣によって、1つ残らず殲滅された。

混乱を極めた街は徐々に落ち着きを取り戻し、再び穏やかな空気が流れ始める。

「一件落着、だな」

「ワッカ、体大丈夫なのか?」

「おう! ──ってそうだ、あいつらに挨拶してこねーと」

ワッカと呼ばれた男は、何かを思い出した様子でスタジアムへと走っていった。
残された青年は座り込んだままのユノに手を差し伸べる。

「怪我とかない? アーロンが居てよかったな」

──アーロン。

どこかで聞いた名だとは思ったがすぐに答えは浮かばずに、ユノはこちらを眺めているその男に頭を下げる。
青年にも同様にすると、相手はニカッと笑った。

「服、まだ着替えてないし。あ、俺ティーダな、よろしくッス。ちょっと俺このおっさんと話あるから、またな」

アーロンの背を押して離れていくティーダに、そういえばタオル返してないやと握り締めていたそれを見る。
今返しに行くのは拙いかと、何やらもめている様子の2人に思い、仕方なく戻ってくるまで待った。

「ねーキミ、誰か待ってんの?」

「暇なら俺らと遊ぼーよ」

しかしこう人の往来の多い場所で待つということに関しては、自分は適していないらしい。
数分と経たず絡んできた男達に、さっきよりはマシになった思考が警戒信号を鳴らす。

「んな恐がんなくてもさぁ、ちょっとお話するだけだって」

「ここで1人で待ってるよりマシだろ? ほら、あっちでお茶でもしようぜ」

と、腕を掴んで無理やり引っ張ってくる男の手を払って逃げる。が、リーチの差で簡単に追いつかれてしまった。
さっきよりも強く掴まれて、余計に逃げるのが困難になる。

「逃げんなよ〜傷つくじゃん」

「悪いようにはしないからさぁ」

本当に、1人じゃ何も出来ないんだなと、ユノはこれまでの旅路を思い出しそうになり、とっさに思考を追い払う。

これからはもう誰にも頼れない、誰も助けてくれない。嫌なら自分でなんとかしなければならない。

かといってなんとか出来る気など、微塵もしないのだけれど。

「なーにやってんスか、おにーさん方」

「あぁ? 何だお前」

男達の背後から伸びた手が彼らの肩を叩き、振り向いた先の青年は相変わらずいい笑顔で話す。

「その子、俺の連れなんスよ。返してもらっていーッスか?」

「横取りしようってのか? 悪いが早いもん勝ちだぜ」

「そーいうんじゃなくて……ほら、その子嫌がってるし」

「ごちゃごちゃうるせぇな……」

男の1人がティーダの前に立って手を鳴らす。ティーダはそれに応えるようにつま先で地を叩いた。

まず男が一撃、拳を振り翳すが、それは躱される。
次いでティーダの蹴りは見事男の脇腹に入り、男はよろけて橋の手すりに捕まる。

「やりやがったなてめぇ……おいお前ら! 見てねーで手ぇ貸せ!」

「そんなガキ1人になに手こずってんだよ」

と言いつつも、ユノから離れて応戦しようとする男達に、ティーダは面倒くさそうな顔をしつつ、傍観しているアーロンを呼んだ。

「アーロン! こいつら何とかしてよ。ほら、早くユウナんとこ行かなきゃいけないし」

「……アーロン……!?」

その名を聞いた男達の顔がみるみる青ざめていく。
うち1人が信じられないといった顔で男に殴りかかるが、逆に手を取られ、放り投げられてしまった。

「ならば放っておけばいいだろう」

「そーもいかないって」

「おい、こいつマジもんじゃねぇのか!?」

「なんで伝説のガードがこんなとこにいんだよ!!」

男達はあっさり倒された仲間を見て慌ただしく去っていった。
伝説のガードと聞いて、ユノはようやくある人物に思い当たる。

「ブラスカ様の……」

「なんだ、あんた喋れるんじゃん。つーかさ、よくよく問題に巻き込まれるね」

通りで聞き覚えがあるはずだ。
10年前、シンを倒した大召喚士のガード。その名と功績は、今やこのスピラ中に知れ渡っている。

「付き添いとかいねーの? 1人でうろつかない方がいいと思うんだけど」

「その身なりは召喚士だろう。ならば、ガードが居るはずだが」

「へぇ、召喚士なんだ? ユウナと一緒だな」

これまたどこかで聞いたことのある名だ。確かブラスカ様のご息女、だったか。
次から次へと有名人ばかり、この青年は一体何者なのだろう。

「さっさと行くぞ」

「あ、置いてくのかよ!」

「ガードに任せればいい」

「じゃあせめて、そのガードのとこまで送るッス! 場所わかる?」

見ず知らずの他人によくここまでしてくれるなぁと感心しつつ、ユノはふるふると頭を左右に振る。

「もしかして迷子? 困ったなぁ」

「…………違う」

「違う? じゃあ何スか?」

「……ガードは……居ない」

「居ない?」

「どういう事だ」

言葉を発せたのはここまでで、その先は口に出せずに押し黙る。
ふと握っていたタオルが目に入って、また返し忘れるところだったとティーダに押し付けた。

「ありがとう」

「何これ? ああさっき貸した……ってちょっと!?」

ユノはその場から逃げるように退散し、闇雲に街を走る。
急いでいるようだったし、これ以上時間を取らせるのも悪いだろう。

ガードはいない。
自分で言ったその言葉が、両肩に重くのしかかる。

暫く走って、走り疲れて、ユノは広場の隅のベンチに座った。
水浸しだった服はいつの間にか乾いていて、それだけが時間の経過を示していた。

このままずっとここに居ても仕方ない。けれど、何処に行って何をすればいいのかわからない。

──いや、やるべきことなら沢山あるのだろう。ただそれを、やろうとしていないだけか。

「ちょっと、あちこち行かないでよ」

「いや、あいつ多分さっきの……」

トントンと肩を叩かれて、また変な輩かとうんざりして顔を上げると、こちらの顔を覗きこむワッカと目が合った。
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