01.わだつみに別たれ

「ほらやっぱり、さっきの奴だ」

「ワッカさんの知り合い?」

「いや、さっきの騒ぎの時にアーロンさんたちと一緒に居てな。あ、そういえばあの2人どこ行ったか知らねぇか?」

ワッカの脇に立つ黒服の女性、そしてその隣にいる召喚士の女性にピンときた。
この人がブラスカ様の娘か。

「あなたも召喚士ですか? ビサイド島より参りました、ユウナと申します」

「あ、キーリカ島から参りました、ユノ……です」

丁寧に自己紹介する相手にユノは慌てて立ち上がり、同じようにエボンの祈りを捧げる。
大召喚士の娘と意識しているせいだろうか、いつも以上に緊張してしまう。

「召喚士が1人で居るなんて、危ないわね。ガードはどうしたの?」

「あ、帰ってきたよ」

またその質問かと俯くと、さっき別れたばかりのティーダ達もやって来て、ティーダは視線が合うなり駆け寄ってくる。

「また会ったな!」

「おい、先にこっちだ」

アーロンに捕まれてユウナの前に引っ張られていくティーダに、ユノはとりあえず会釈。
どうやら皆ユウナのガードらしい。数に決まりはないが、これだけ大人数というのも珍しい。

今のうちに立ち去るべきだろうか、でも何も告げずに居なくなるのは失礼だろうか。
悩んでいるうちに話は終わって、再びティーダがやって来る。

「なぁ、さっきの、ガードがいないってどういうことッスか?」

「ガードがいない? そりゃまた変な話だな」

「っていうか、ガード無しで旅とか、危ないと思うッス。特に……えーっと、名前聞いてなかった」

「ユノ、だよね」

「あれ、いつの間に仲良くなったんだ? まぁいいや。とにかくユノは、1人でフラフラしないほうがいいって。何か事情あんの?」

矢継ぎ早になされる質問に、どう対処すべきかと思い悩む。
その表情を見て嫌がっていると感じたのか、言いたくないならいいッスよとティーダが気を回してくれた。

「でもほんと危ないって。なぁ、こいつも一緒に旅とかって……無理?」

「おいおい、そりゃー流石に……なぁ?」

「その子にも色々あるでしょう。勝手に連れ出して、かえって迷惑になるかもしれないわよ」

「そーかなぁ……でもこのまま置いてくの、なんか嫌だしさぁ」

妙な風向きになりだした話に、そこまで厄介になるつもりはないとユノは手を振る。
ティーダの心遣いはとても嬉しいが、そこまでしてもらう義理はない。

故に今一度頭を下げて、また妙な連中に絡まれたりしないよう注意しながら、足早にその場を離れる。

以前旅の途中に通ったことのあるその道を、今度は1人で歩いた。
道行く人の中に自分を知る人が何人か居て、なぜ1人なのかと問われた。そのたびに苦笑を返すことしか出来ず、先の見えない道に立ち止まる。

どうしてこんなことになったんだ。召喚士はシンを倒して、皆を護るんじゃないのか。
自分が護るべき大事な人は皆、もうすでに居ない。犠牲にならねばならない自分を1人置いて。

後ろを振り返って、ティーダたちが来ないかと無意識に思った。が、すぐにハッとして、ユノは自分の頬を叩く。
自分より若いであろう他人に頼ろうとするなど、甘えすぎだと自分を叱咤する。

進まなければならないと思う意識に反してその歩みは遅く、やがて止まった。

先が見えない。道の先ではなく、自分の進むべき未来への道が。

シンを倒すためにやってきた。でももうシンを倒しても、護りたいものが何も残っていない。ならばなぜ戦わなければならないのか。

地面に座り込む。
魔物がやって来る。
立ち上がって杖を握る。
戦う。
また座る。
魔物が来る。
戦う。

ロボットのように一連の動作を繰り返したユノは、しばらくして動くのをやめた。
大人しくなったのを見て、周囲を魔物が取り囲む。

全てを投げ出したい気分だった。死ねば楽になると思って杖から手を離した。
魔物にやられて死ぬなんて嫌な死に方だが、光のない道を1人で彷徨うよりはきっといいと思った。

だが、運命はそれすら許してくれなかった。

僅かに期待していた金色の髪が揺れて、眼前に迫っていた敵を薙ぐ。
こちらに伸ばされたその手を掴む自分の手が、とてつもなく腹立たしかった。






「──んじゃ、そういうことで。よろしくな、ユノ!」

結局、窮地を救ってくれたティーダの説得によって、ユウナ達はユノの旅の同行を許可した。

どちらかといえばティーダの意見に賛成だったユウナは、にこやかに迎え入れる。

「さっき紹介してなかったよね、私のガードをしてくれてるキマリ」

ユウナの横にいるロンゾ族の青年にお辞儀をすると、相手も軽く頭を下げてくれた。
背丈のせいで少し恐怖心もあったが、ユウナと話している姿はとても和やかだ。

「俺はワッカ。さっきまでブリッツの選手とかけもちだったが、今はユウナのガード一筋だ。よろしくな」

「ルールーよ、宜しく」

一方、ユウナと違い大人組はあまり乗り気ではない様で。
とはいえそれが普通の反応だろうと思ったし、世話になる立場で文句も何もないのだが。表面上だけでも笑顔で接してくれた二人にも、ユノは感謝を込めて礼をする。

そうして一応は皆と挨拶を交わすことは出来ていたのだが、どうしても1人だけ近寄れない人物がいた。
ユノがちらりと横目で見ると、相手も視線に気付いてそちらを向く。

あの大召喚士ブラスカを、シンの元まで護りぬいた男。

確か当時は自分とそう歳も変わらなかったであろう。
その威厳というか威圧感は未だ健在な様で、自分などでは目が合っただけで息が詰まりそうになる。

その男は見るからに新入りを歓迎してはいなかった。
仕方がないことだが、これからいつまでこの人と一緒にいるんだろうと考えると、1人で旅をすることとどちらがマシかが曖昧になるほどだった。きっとこんな状況でなければ、近くに寄ることすらしないだろう。

反射的に外してしまった目線をまたゆっくりと戻すと、まだ見ていたらしい相手の視線とかち合う。そしてまた反射的に逸らす。あまりしつこいと失礼だと思いつつも見られているのではないかと思うと気になってしまい、また同じ事を繰り返す。

3度目で相手の低い笑い声が聞こえた。
そして傍にやって来る。

「……取って食うつもりはないぞ」

そんな風に思ってはいないですという意味を込めてユノが大げさに頷くと、挙動不審なその動作がおかしいのか、相手は喉の奥でくつくつと笑った。
どう考えてもバカにされているが、これだけ格の違いがあるとそれもしょうがないことのように思える。

「あいつはどういうつもりか知らんが、俺はあくまでユウナのガードだ、お前のお守りをするつもりはない。それは覚えておけ」

アーロンの視線の先にいるティーダは、こちらに気付くと笑顔で小さく手を振ってくれた。
彼はとてもいい子だ。そして自分は、その優しさに甘えている。

もしも本当に、どうしようもなくダメになったら、自分で終わらせよう。
それが唯一負担を減らす方法だと、その時は真剣に思っていた。
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