04.それは絶望にも勝る
部屋の中では、ユウナレスカとティーダ達が対峙していた。アーロンと共に遅れて合流したユノは、泣き腫らした目で、真っ直ぐにユウナレスカを見る。
「祈り子となる者は決まりましたか?」
「……選びません。誰かを犠牲にしなければならないのなら、俺は、そんな力は要りません」
「究極召喚がなければ、シンは倒せません。希望に犠牲はつきものです」
「……そんな希望なら、要りません」
「憐れな……、自ら希望を捨て去るとは。
ならば……あなたが絶望に沈む前に、せめてもの救いを与えましょう。悲しい闇に生きるより、希望の光に満ちた死を。全ての悲しみを忘れるのです」
ユウナレスカの周囲に禍々しい気が立ち込め、足場が激しく揺れ始めた。
「さあどうする! 今こそ決断する時だ。死んで楽になるか、生きて悲しみと戦うか! 自分の心で信じたままに、物語を動かすときだ!」
「キマリが死んだら誰がユウナを護るのだ」
「あたし、やっちゃうよ!」
「ユウナレスカ様と戦うってのか? 冗談キツいぜ……」
「じゃあ逃げる?」
「へっ! ここで逃げちゃあ……オレぁ、オレを許せねぇよ。たとえ死んだってな!」
「……同じこと考えてた」
「ユウナ! いっしょに続けよう、オレたちの物語をさ!」
「うん!」
アーロンの言葉に、各々が覚悟を決め武器を構える。
最後に、アーロンは隣のユノを見た。
「お前も、覚悟はいいのか?」
「……はい」
目の前にいる禍々しく強大な敵にも、不思議と恐れは感じない。
もう何かを諦める必要はない。
生きるために戦っても、批判する者も居ない。
きっと最初から、そんなものは何処にも居なかった。
「生きる覚悟──ですよね?」
アーロンが満足気に笑い、ユノも笑いを返す。
襲い来るユウナレスカに、皆は全力で応えた。
魔物となったユウナレスカを打ち破り、一行はドームから出る。
外はいつの間にか陽が昇っていて、朝焼けの空が瞳に映った。
ドームの傍らにはシンが佇んでいたが、じっとティーダを見つめて、何もせずに飛び去っていく。
「……あれ、ジェクトさん……なんですよね?」
「今はシンだがな」
「……倒して、いいんですかね」
「少なくともあいつは、そう望んではいるだろうな」
「……助けるのは、無理、ですか?」
「やめておけ。そんな半端な気持ちで挑んでも、殺されるだけだ」
ティーダは小さくなっていくシンを、自分の父親を、じっと眺めていた。
今彼は、どんな心境なのだろう。
かけてあげられる言葉が何も浮かばない。
「駄目だなぁ……」
「またお得意の自己嫌悪か?」
「だって、本当に、全然、何も出来ないですから……」
「ならお前はどうなりたいんだ」
「うーん……ユウナとか、ティーダとか、アーロンさんみたいに、なりたいです」
「無理だな」
間髪入れずにズバンと切り捨てるその一言に、さすがに傷ついてユノは黙り込む。
そうして45度ほど傾いている頭に、アーロンの手が乗せられた。
「お前は、お前のままでいい」
慰めかな? と思って、けれどこの人は慰めなど口にはしないだろうと考えて、ユノは顔を上げた。
そして、この距離なら他の人には聞こえないかな、と周囲を見渡して確認。
「……あの、アーロンさん」
「何だ」
「その、聞きたいことが、あるんですけど……」
「言ってみろ」
「はい。えっと…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……や、やっぱりいい、です」
「……俺は言いかけたことを最後まで言わない奴は嫌いでな」
嫌われるのは困る。
ユノは観念して続きを話す。
「あの、自惚れなんですけど、もし違うなら、笑って欲しいんですけど、その……」
「前置きはいいからさっさと言え」
仲間との距離を再確認して、不安やら何やらで加速する鼓動を深呼吸で落ち着かせる。
「お、俺のこと、どう、思って、ますか……?」
「……質問が不明瞭なので答えられんな」
「そ、そんな、絶対、分かって……」
「ハッキリ言え」
「…………俺の、こと、すき、ですか?」
そのたった一言に、もしかすると過去最大かもしれない勇気を振り絞った。
だがそれも一瞬。
やっぱり怖くなって、ユノは返事を待たずに「ごめんなさいごめんなさい」を連呼する。
「……お前は謝り癖でもあるのか?」
「ごっごめんなさい」
「…………」
「えっと、あの、ごめんなさ──じゃなくて、あの、その……」
「そんなに俺は恐いか」
「恐くはない、です」
「なら謝るな」
「ごめ……えと、はい」
あれ、何の話してたんだっけ?
終了してしまった会話に、そうじゃないと脳が叫んだ。
もう一度聞くべき? いや、でも、そんなに何度も出来る質問じゃない。
もしかしてわざとはぐらされたのかな。ということはやっぱり自惚れだったのだろうか。
でもでも何回もキスしたし……え、もしかしてそんなに大したことじゃないのかな。俺両親以外とは初めてだったのに、アーロンさんはそうじゃないのかな。
そうだよね、アーロンさんだったらきっといくらでもしたことあるよね。
いや、でもそんなに軽い人じゃないよね。
あれ、キスって軽くないの? 重いの? 重量??
思考回路が混線して機能不全になったところで、空から飛空挺がやって来る。
リュックに呼ばれて、チャンスを逸してしまったとユノは肩を落とした。
「どしたのユノ、なんか落ち込んでる?」
「えっと……」
「大丈夫だよ、皆で考えればいいじゃん!」
皆で考えて答えは出るのかな。
沈み込んだお粗末な頭は、リュックが言っているのがシンのことだというのには気付かない。
後に登って来たアーロンは、そんなユノを見て笑いを零した。
「……さっきの返事は、ああ、だ」
「?」
「? 何のハナシ〜?」
リュックの質問には答えず、アーロンは去っていく。
「なんなのさー?」
「……リュック、ああ、って、何?」
「へ? うーん、おっちゃんの喋り方からすると……」
リュックは自分の考察を述べた。
ユノはそれに納得して────
納得して、真っ赤になって追いかけてきたので、アーロンはそれを、笑いながらいなした。