00.Beginning

「で、バレットさんは何で来たんですっけ?」

昏倒したマスターを置いてバレットと店を出たシユウは、改めてそう尋ねた。
バレットは経緯を説明して、「必要無かったみてぇだけどな」と締め括る。

「結局いくら戻ってきたんだ?」

「10万」

「まぁまぁだな」

「ここは他所のスラムより金回りがいいんですよ。それで10万ですよ? あの男の金遣いが荒いせいもありますけど、それを差し引いても、ティファさんの16万がどれほど凄いかよく分かるでしょう。その努力の結晶を使わせたくは無かったんですけどね……不甲斐ない」

「俺も申し訳ねぇと思ってよ。借金してでも金は返すっつったら、それならモンティが店に置きたがってたピンボール台を買ってくれ、だとよ。店を買うのは自分のやりたい事だからいいって」

「仮にそれが彼女の本心だとしても、借金を先に返した方が良いに決まってます」

「じゃあどうすんだよ?」

「どうもしません。今はそれでも、彼女に甘えるしかありませんから……という訳で、とりあえずこのお金、マーレさんに渡して貰えますか?」

「なんでオレに頼むんだよ。自分で渡しゃいいだろ?」

「……俺はちょっと、ホテル寄ってから帰ります」

「はぁ? 何でだよ」

「あの薬の匂い嗅いだせいで、具合が良くないんです」

街の空気、マスターの声。
全てがあの日の出来事を体に思い出させる。

「また例の後遺症か?」

シユウは頷いて、バレットに金を押し付けた。が、バレットは反対。

「お前の付き添いの為に来たんだ。一人で戻ったら、何しに行ったんだって怒られんのが目に見えてる」

「だからって、俺が落ち着くまで待ってるつもりですか?」

「そんなにかかんのかよ」

「いや……分かりませんけど」

バレットは少し悩んでから、シユウの手を取って歩き出した。
どうするつもりかと思えば、普通にホテルへ入って、そのまま部屋を取る。

「中で待つつもりですか? 待つなら外でお願いしたいんですけど」

「お前に任せてたら前みたいに長引くだろ。オレが手伝った方が早ぇ」

「え゙」

部屋に入るなり、バレットはシユウをベッドに放り投げた。
そこへ覆い被さるように自身もベッドの上へ。

「おら、さっさと脱げよ」

「本気で言ってます?」

「一回ヤったんだ。二回も三回も同じだろ」

「いやそんなことは無いと思いますけど」

「四の五のうるせぇな! オレはさっさと帰りてぇんだよ!」

「だから先に帰ってくれていいって言ってるじゃないですか」

「だからババアに怒られるって言ってんだろ!」

「その呼び方の方が怒られると思いますけど……本当にするなら、準備するんでちょっとだけ待って下さい。貴方もシャワーくらいは浴びて下さいよ」

シユウはそう言ってシャワールームに消えた。
一人残されたバレットは、他のアメニティに紛れて置かれているローションやコンドームを見て驚く。

(何でこんなもん置いてあんだよ……そういう用途のホテルって事か? あいつこんなとこに住んでたのかよ)

一体どんな生活をしていたのかと想像している内に、シャワーを終えたシユウがバスローブ姿で戻ってきた。
途端にバレットの胸中に背徳感が湧き上がってくる。

「……なぁ、やっぱやめとくか?」

「あれ、怖気付きました?」

「違ぇよ! ただ、こんなとこでお前とすんのは、なんか良くねぇんじゃねぇかと思って……」

「へぇ、意外とそういうの気にするんですね」

「意外と≠ヘ余計だっつぅの!」

シユウはクスクスと笑いながら、改めてお金をバレットに渡した。

「じゃ、先に帰ってて下さい。ちゃんと事情を話せば、マーレさんだって怒りませんよ」

「……わーったよ」

渋々それを受け入れて、バレットは部屋を出た。
彼が一人で出てきたのを見て、フロントマンが声をかける。

「あれ、ケンカですか?」

「あぁ? 別にそんなんじゃねぇよ」

「ならシノさんは?」

「あいつはまだ部屋だ。オレは用があっから先に帰る」

「そうなんですか……」

「あいつに何か用かよ?」

「えっ? いえいえ、別に! またのお越しをお待ちしております」

と、笑顔で見送られたバレットはホテルを後にしたが、フロントマンの態度が気になって、外からチラと様子を窺う。
すると相手は鍵束――恐らくマスターキーだろう――を手にフロントから出て行った。

その足取りを目で追って、男がシユウの居る部屋に入ろうとしているのを見たバレットは、驚き駆け戻る。

「何やってんだテメェ!!」

「うわぁっ!? なな何ですか!?」

「こっちが聞いてんだよ!!」

至近距離で凄まれた男は慌てて逃げて行った。
バレットはげんなりしながら部屋の戸を叩く。

「おいシユウ! 開けろ!」

「……何ですか、忘れ物ですか?」

「いいから開けろって!」

少しの間を置いて、カチャリと解錠する音が鳴った。
バレットはドアノブを回して部屋に押し入り、すぐまた鍵を閉める。

「この街は頭のおかしい奴しか居ねぇのか!?」

「その通りですけど、何の騒ぎですか」

「今フロントの奴がこの部屋に入ろうとしてやがったんだよ! お前どんだけ狙われてんだよ!」

「ああ……俺がって言うより、この街はそういう場所なんですよ。一人で居ると狙われるんです。前居た時はマーキングの効果か、実際に手を出してくる人は居ませんでしたけど……それにしても、それ知らせる為に戻ってきてくれたんですか? 親切ですね」

「あのなぁ……おめーはもうちっと危機感持てよ。そこそこ強ぇのは分かったけどよ、シコッてる最中に襲われたら流石に抵抗出来ねーだろ」

「……そうですね、気をつけます」

「具体的には?」

「あの、その話帰ってからでもいいですか? そろそろ……一人にして貰えると助かります」

「おっとそうか。でもお前一人にして大丈夫なのかよ?」

「分かりませんけど、人前で自慰出来るほど恥知らずでは無いので……」

「前はやってただろ」

「あれは自慰じゃなくて触り合いです。もういいですから、早く出てって下さい」

部屋から追い出そうとしてくるシユウに対し、バレットは溜息混じりにシユウを再度ベッドに追いやる。

「要はさっさと終わらせて、二人で一緒に帰りゃいい話だろ」

「それはそうですけど、お手伝いは無しになったんじゃありませんでした?」

バレットはその問いを無視して、シユウのバスローブの紐を解き、前を肌蹴させた。
先程見つけたローションをシユウの下腹部に垂らし、左手でそれを塗り広げる。

「……するんですか?」

「何だよ、怖気付いたのか?」

「人の台詞真似しないで下さ……んっ」

勃ち上がったソレに直に触れられて、シユウの声が上擦った。バレットはそのまま扱き始める。

「痛いとかあったら言えよ」

「……っだ……いじょ、うぶ、です……ッ」

擦り続けている内に、先走りが滲んで来た。
シユウが悩ましげな表情で身悶えするのを見ながら、バレットは以前教えられた通りに手を動かす。

「声、別にここなら我慢しなくていいだろ」

「っ……いや、俺が、聞きたくな……っ、ぅあッ」

一段高い声を上げて、シユウは軽く痙攣しながら吐精した。
惚けた顔で荒い呼吸を繰り返す様を見て、バレットがすっくと立ち上がる。

「ちょっと待ってろ。シャワー浴びてくる」

てっきりこれで終わりだと思っていたが、どうやら最後までするらしい。

面倒見が良いなと思いながら、シユウはベッドに倒れて暫し体を休めていたが、ただ待つよりは自分で解消出来ないか試した方がいいなと身を起こした。
幸い此処ならそういう道具には事欠かない。使ったことは無いが、形状を見れば用途は凡そ分かる。

ローションを掌に出して、まず指で中を解した。
指で足りなくなったら、次はローター。それでも足りなければ次はディルド、と思っていたが、手に取ったところでバレットが出て来た。

シユウと同じくバスローブに着替えたバレットは、シユウの手にディルドが握られているのを見て、「んなもん使うな」と取り上げ棚に戻す。

「ちょっとくらい待ってられねぇのかよ」

「別に辛抱出来なくてやってる訳じゃ無いんですけど……自分でどうにかした方が、貴方の負担も減るかと思って」

「負担なんか無ぇよ。それよりちょっと場所変われ」

「?」

「片腕じゃあお前を下にしてヤんのが難しいんだよ。上に跨がれ」

バレットは壁を背にしていたシユウを退けて、自分がその場所に座ると、ほら来い、と太腿を叩いた。

要は対面座位をしろという事らしい。
理解は出来たものの、シユウは気恥しさを覚えて渋る。

「……で、電気消していいですか?」

「あぁ? 何ムード出そうとしてんだ」

「してませんよ! 明るいままだと何か……今のこの状況を直視したくないんです。あんただって、俺が喘いでるとこなんか見たく無いでしょう」

「何言ってんだ今更。別に気にしねぇよ」

「…………俺は見られたくないです」

「わーったよ」

バレットはサイドパネルに取り付けられてある照明の光量調整ノブを回して部屋を暗くした。
間接照明に照らされる室内は確かに妙な雰囲気が出ているが、現実味が薄れて抵抗感は減る。

「これでいいか?」

「はい」

「ならさっさとこっち来い」

「…………はい」

「嫌そうにすんなよ」

「別に嫌がってるわけじゃないですけど……」

のろのろとバレットの近くへ移動して、相手の両脚を跨いだシユウは、一旦挿入はせずにストンと腰を下ろす。

「何やってんだよ。さっさと挿れろ」

「慣れてる訳じゃ無いんですから、ちょっと心の準備させて下さい……そもそも、あんたの勃たせてからじゃないと挿れられないですよ」

そう言いながら手探りでバレットのものを探し当てたシユウは、それが既に若干勃ち上がっていることに気付いた。
指先でつつくように撫でると、バレットが身を震わせる。

「変な触り方すんな!」

「これ、何でもう勃ってるんですか?」

「知らねーよ!」

極力感じていることを表に出すまいと努めるシユウに比べ、バレットのリアクションは分かり易い。
シユウがくにくにと鈴口を弄ると、うっと息を詰める。

「や、めろって」

「でもちゃんと勃たせないと」

「ならもっと事務的な触り方にしろよ!」

「何ですか事務的な触り方って」

笑いながら、シユウはローションを纏わせた手で、優しく丁寧にバレットのものを扱いた。

普段騒々しいバレットも、こうしている時は大人しい。
悔しげに、けれど快楽に抗えず堕ちていくバレットの姿は、シユウの加虐心を煽る。

その結果、バレットが果てるまで愛撫を続けてしまい、射精させられたバレットは「しまった」といった顔をしているシユウの頭を叩いた。

「オレをイかせてどーすんだ!」

「すみません、つい」

「つい、じゃねーだろ!」

「まぁもう一度勃たせればいいだけですから。何なら俺が抱く側やりましょうか?」

「何でだよ! 趣旨変わってんじゃねーか!」

悪戯好きの子供のように笑うシユウに、バレットは己の吐き出した精液を乱雑に拭いながら言う。

「抱かれんのが嫌なら、素直にそう言えよ」

「……別に、抱かれるのが嫌だから意地悪してた訳じゃ無いですよ」

「でも嫌なんだろ」

見透かしたように言われて、シユウは笑顔をしまって視線を落とす。

「貴方が嫌な訳じゃないです。ただ……俺がこんな風になってるの、あの男が知ったら喜ぶんだろうなと思ったら……あんな奴の思い通りになってるのが、どうしても気になって」

「まぁ気持ちは分かるけどよ。あんま深く考えんなよ。あの野郎にセックス中毒にさせられたって意識すっから嫌になるんだ。今オレとヤりたいからヤッてるって思っときゃいいだろ?」

「それはそれで問題だと思いますけど……」

「じゃあ何なら良いんだよ?」

「……バレットさんは、俺の事抱きたいですか? 貴方がそうしたいって言うんなら、良いです」

バレットは一瞬怪訝な顔をしたが、つまり「自分から求めたのではなく、相手に求められたから応える」のなら己を赦せるのかと理解して、「しょうがねぇな」と苦笑する。

「今回はそういう事にしといてやるよ」

「……もう一回勃たせます?」

「それはオレが自分でやる」

お前に任せるとさっきの二の舞になると言って、バレットは自分のものを扱き始めた。
手持ち無沙汰のシユウは、先程取り上げられたディルドを再度手に取る。

「……おい、それ使うなって」

「バレットさんに使うんじゃないですよ?」

「んなこたぁ分かってる!」

「じゃあ何で駄目なんですか? 消毒とかはちゃんとしてると思いますけど」

「別にそこは気にしてねぇけどよ……」

「貴方とするなら、これくらい慣らさないと痛いんですよ」

そう言うと、バレットは口を閉ざした。
痛い思いはさせたくない、という事だろうか。

それでもまだ納得がいかない様子だが、シユウは気にせずローションで滑りを良くしたディルドをベッドの上に置いて、位置を確かめながらつぷりと挿れる。

「……っ、く…………」

かなりゆっくりと腰を沈めて、奥まで入ったら、今度は抜けきらないギリギリのところまで出す、そしてまた挿れる。
自分でやっていても、挿入の度に小さく声が漏れた。バスローブの袖口を噛んでそれを押し殺しながら、同じ動きを何度も繰り返すと、異物を挿入する違和感がじわじわと快感に変わっていく。

内壁を痛めないようにと気を遣って慎重に動いているのだが、その緩慢な動きでは次第に足りなくなってくる。
だが脳が強い刺激を求めているのとは裏腹に、快楽が強まるほど足腰の力は抜けていき、満足に動けなくなっていく。

シユウは体を上下させることをやめて、ディルドを握った。足腰が言うことを聞かないのなら、ディルドの方を動かせばいい。
そうして体勢を崩しながらも、気持ちよさそうに身を震わせて己を犯し続けるシユウの姿に、バレットは手を止めた。

男性器を模した玩具が出入りする様は、他の男に抱かれているようにも見えてしまう。
気に入らない。バレットは舌打ちを零しつつ、シユウの腕を引いて強引に自慰を終わらせた。
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