01.始まりの鐘は帝都より
「悪いが急な任務が入った。内容は現在行方知れずとなっているエステリーゼ様の捜索だ」城門の前に兵を集め、開口一番アレクセイから預かってきた任を発表する。
半数以上の兵は騒ぎの大きさからこの任が下ることを予想していたのだろう、急な話に動揺することなく了承した。
「しかし隊長、探すと言っても何の情報もなくというのは流石に……」
「いや、それは大丈夫だ。大凡の目星はつけられる。我々はそこに先回りし、姫様が来るのを待つ」
「隊長、噂によれば、姫様は不法侵入及び脱走の罪に問われている男に拐かされたとの事ですが……」
「それについてはまだ確証には至っていない。姫様発見の際にその男が共に居たとしても、むやみに攻撃を加えないように。但し、此方の妨害をし、尚且つ事情を説明しても姫様を引き渡さない場合は、ある程度の武力行使を認めるものとする」
次々と投げ掛けられる疑問に順番に答え、簡単な作戦の説明を済ませると、アルノルドは先ずフレンの居場所を調べ上げさせた。
探し人はどうやら現在任務に赴いているとのことだったが、その任というのが数日前から行方不明となっているらしいもう1人の次期皇帝候補であるヨーデル殿下の捜索らしく、今どこに居るのかというのは誰にもわからない、とのことだった。
こりゃ地道に聞き込みするしかないなと途方に暮れながらも、支度を整えると兵を引き連れて城を出る。
街の出入口のある下町では、何やら揉め事のようなものが起こっているらしく、町民と騎士の怒声が聞こえた。
「何の騒ぎだ?」
「むっ? 加勢か?」
見れば町民が町から騎士を出させまいとしているようで、更に足止めを食らっている騎士は見知った顔だった。
「貴様は……」
「……何してるんです、こんな所で」
シュヴァーン隊の1人であるルブランは、こちらを見て目を少しだけ大きくした。
「逃げ出したユーリ・ローウェルを追跡中なのであ〜る!」
「それをこいつらが邪魔するのだ!」
左右にいたルブランの部下の2人も、こちらを見て少し驚いた顔をしたが、押し返してくる町民に抵抗するのに必死のようで直ぐに前を向く。
「俺達も似たようなもんなんですけどね……下町の皆さんはユーリ君の味方ですか。――安心して下さい、我々の目的はあくまでエステリーゼ様を連れ戻す事です。ユーリ君に暴行を加える気はありません」
「でも、お兄ちゃんは騎士だから、ユーリを捕まえちゃうんでしょ?」
小柄な少年に不安げに見上げられ、アルノルドはそれを和らげるように優しく微笑む。
「そうだね、それが騎士の仕事だから。でも俺の今の目的はお姫様を迎えに行くことだから、ユーリ君の逮捕はそっちの人達に任せようかな」
そっち、と指差した先は尚も町民達の壁を突破せんと奮闘しているシュヴァーン隊の2人で、その上司であるルブランは今のアルノルドの発言とそれを見比べてギョッとした。
「だからお兄ちゃん達だけでも通してくれないかな?」
「うーん……、じゃあ、ユーリを捕まえたり傷つけたりしないって約束!」
小さな小指をピンと立てて差し出してくる少年に、己の小指を絡ませる。
「ゆーびきーりげんまん、ウソついたらハリせんぼんのーますっ、ゆびきった!」
「きっ、貴様! 我々をエサにする気か!!」
「人聞きが悪いですよ、ここで全員足止めくらうより、この方が効率的でしょう? まぁそういう訳なんで、後は頑張ってください」
にこやかな笑顔のまま、少年が町民に話してつくってくれた隙間を通って町の出口へと進む。
背後で「この裏切り者!! 後で覚えていろ!!」などと叫ぶ声が聞こえたが、構わず町の結界を越えた。
(……にしても、子供は純粋だねぇ)
約束を交わしたばかりの小指をじっと見つめ、自嘲気味な笑いを溢す。
(本当、嫌な大人になったもんだ)
目的の為ならあんな子供を騙すことすら厭わない。場合によっては仕方のない事とはいえ、少しだけ良心が痛むのを感じた。
だがそれもほんの一瞬で、すぐに思考はフレン捜索へと切り替わった。