01.始まりの鐘は帝都より

「すみませんが、こんな騎士を見ませんでしたか?」

確実な情報の無いまま写真1つで何とか花の街ハルルまで到着した親衛隊は、そこで初めて確かな手掛かりを掴むことが出来た。

「あぁ、この方なら知ってます。ここの結界が弱っていた時に、偶然滞在していたこの方が魔物を退けて下さったの」

「本当ですか!? それで、その騎士は何処に?」

「さぁ、そこまでは……」

せっかく有力な情報が掴めたと思ったのに、と喜びから一転再び気を落としたアルノルドに、女性が「でも、」と続ける。

「長なら何か知っているかもしれませんよ」

そう言って案内するものだから、言われるがままその後をついて行く。
街の中心にあるしっかりとした造りの家の戸を叩くと、中から老人が顔を出した。

「これはこれは……騎士の方が何かご用ですかな?」

「突然で申し訳ありませんが、人を探してまして。この騎士なんですが……」

写真を見せると、長は顔を明るくした。

「おお! この騎士様ですか、知っていますよ」

「それで、この騎士が何処に向かったかはご存知ないですか?」

「確か東の方に向かわれたと思いますが…詳しくは聞いておりませんな」

またアバウトな情報だが、何もないよりはまだマシだろう。
礼を述べて家を出ようとしたアルノルドの後ろで、長はポツリと呟いた。

「それにしても、こうも立て続けに同じことを聞かれるとは……あの騎士様は一体……?」

立て続け? 自分達の前にも誰かフレンの行方を聞いたものがいたのか。そんな人物は1人しか思い浮かばないんだが。
アルノルドは開いた扉から体を半分ほど出したところで振り返った。

「俺達と同じことを聞いた方というのは、もしかして桃色の短い髪の女性ではありませんでしたか?」

「ええ、正にその通りですが……なんと、お知り合いでしたか?」

やっぱりか。自分の最大の目的である人物は、一足先にここに来ていたらしい。
となると、このままでは彼方の方が先にフレンを見つけてしまうかもしれない。そこまで考えてある事に気付いた。

エステリーゼの目的はあくまでフレンに会うこと、ならばそれさえ達成してしまえば城に戻ってくるんじゃあ――

(……いや、そんな簡単にはいかないか)

城に監禁されていたお姫様がようやく自由になれたのだ、外に出れば今まで知らなかった事も見えてくる。果たしてそれらを味わった後で、大人しくあの生活に戻ることを選ぶだろうか?

……自分なら戻らないな。

「あの方達ならばアスピオに向かわれましたが……」

「そうですか、有難う御座いました」

家の前で待っていた兵に行くぞと一声かけて急ぎ街を出る。

「隊長、どうでしたか?」

「フレンは東に向かったらしい、それ以上は得られなかった。ただ、エステリーゼ様達も此処に来ていたらしい。アスピオに向かったそうだ」

「では、我々もアスピオに?」

外で待機していた他の騎士達も合流し、隊列を乱さず後をついてくる部下の問いに首を振る。

「いや、このまま彼方の痕跡を辿る形では、追い付くのは難しいだろう。何とかして先回りしないと……」

そうは言っても打つ手がないのが現状であり、部下もそれについて言いたそうにしている。
今出来る最善の策は何か、考えるだけ考えて足を止め兵に向き直った。

「今居る兵の数は?」

「はっ? えぇと……確か五十余名程度だと……」

突然の質問に疑問を抱きつつ列の先頭に立っていた男が答える。
帝都で待機している者も含めれば相当な数だ。それを率いているのが自分なのだと思うと、アルノルドは不思議な心地がした。

「今から隊をいくつかの班に分ける。この先は各方面に分かれてフレンの捜索を行ってくれ。一つの班に十人も居れば充分だな。フレンもしくはエステリーゼ様を見つけたら、すぐに知らせて欲しい」

「了解しました。隊長は如何いたしますか?」

「俺は西を探す。……あぁ、別にこっちに兵は割かなくていいぞ」

何名かが自分の後ろに並ぼうとするのを止める。
自分は一人でも大して問題はない、その分他に加勢してくれた方が有り難かったからだ。

「それじゃ、頑張ってくれ」

足を揃え敬礼し、3方向に散らばっていく部下が見えなくなるのを確認してから、西に足を向け歩き出した。
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