01.其は脱兎の如く
イル・ファンと違いイラート海停は街に隣接はしていなかったらしく、すぐに間道に出た。一歩出ただけですぐに魔物と出くわしてしまう辺り、あまりあの海停は安全とは言えない気がしながら武器を組み立て構える。
「む、リリアルオーブが光った?」
「僕のも!?」
ミラとジュードの胸元が突然光り始めたかと思えば、ラスヒィが所持していたものも光りだし、3人でこれは一体何事だとアルヴィンを見る。
「全員リリアルオーブ持ってたのか。じゃ、共鳴戦闘やってみっか!」
「共鳴……?」
「リリアルオーブには、仲間の意識を感知する力がある。これを利用すれば、意識を共有した連携攻撃、共鳴を発動できるんだ」
「ふむ、しかしどうすれば?」
「やってみりゃわかるよ。リリアルオーブに意識を集中しろ!」
襲い掛かってくる敵を回避し距離を保ちつつ、ジュードが呼吸を整え集中する。
するとミラとジュードの間に、ギリギリ目視できる程度の青い光の線のようなものが浮かんだ。
「これが共鳴!?」
「さぁ、挟み撃ちだ!」
アルヴィンの指示通り得意の回避で敵の背後に回りこんだジュードに、その思考を読んだかのようにミラが敵の前に立ち塞がる。
退路を断たれ慌てる敵に二人が連続的に攻撃を打ち込む。
「見事な連携ですね」
「共鳴のなせる業ってな。おっと、後ろ危ねぇぞ!」
腕を引かれ、立ち位置を入れ替えるように前に出たアルヴィンが、自分の背後に近づいていたらしい敵を斬った。
倒れる魔物を見て一瞬止まっていた息を吐く。
「すみません、気が緩んでいましたね。有難う御座います」
「傭兵として当然だよ。ま、これも共鳴のおかげなんだけど」
アルヴィンとの間にミラ達同様光の糸が出来ているの気づいて、その不思議な感覚に戸惑う。
「これは……何というか、慣れるまで気恥ずかしいですね」
「気恥ずかしいって……別に頭の中がだだ漏れになってる訳じゃねーぞ? さて、お喋りはこんぐらいにして、俺たちも行こうぜ」
次々と敵を殲滅していく二人に混じって、ラスヒィとアルヴィンも残りの魔物を片付ける。
アルヴィンが次に何をするか、次にどの敵を狙うかが手に取るように分かる。アルヴィンも同じように感じているのだろうかと思うと、やはりどこかくすぐったかった。
「うわ、またリリアルオーブが光ったよ!?」
「お、そろそろ共鳴述技いけんじゃねーの? 先に手本見せてやるよ、旦那!」
呼びかけに頷いて敵に数発矢を打ち込み、ひるんだ隙に詠唱に入る。
「お願いします!」
「はいよ!」
現れた水泡で敵を何体か包み込み、地に足がつかなくなった敵をアルヴィンが水もろとも纏めて叩き斬る。
宙を舞った魔物は大量の水滴と共に地面に落下した。
「とまぁ、こんな感じだ」
「うわ、すごい……」
「では私たちもいくぞ、ジュード!」
挟撃していたミラがジュードの隣に移動し、交互に斬風を飛ばしてから同時に放つ。
交差して交じり合った風は敵を裂くように切り刻んだ。
「へぇ、なかなかいい線いってんじゃねーの? まぁ基本はこんなもんだ。勉強も済んだ事だし、一気に片付けるとしよーや!」
残り僅かな魔物も数分とかからずに倒し、無傷の勝利に皆が感動する。
「これはかなり戦闘が楽になりますね」
「友情・協力・勝利! 人間らしい戦法だろ?」
「うむ、気に入った」
「うん、一人じゃないって心強いよね!」
「はは、いいこと言うねぇジュード君」
相変わらずスキンシップの激しいアルヴィンにジュードが苦笑し、それを微笑ましく見守るミラにまるで家族だなと思いながら、依頼達成のために奥へと歩き出した。
「依頼された魔物退治、確かに果たしたぜ」
「有難う御座います、おかげで助かりました」
共鳴のおかげで難なく依頼を果たし、海停に戻った一向は依頼主の女性から代金を受け取る。
道中ひたすら魔物との戦闘ずくしだったが、皆小さな怪我のみで済んでいた。
それもこれもアルヴィンの指導のおかげだろう。ミラの剣の腕も、この1日でかなり上達していた。
「何事もなく済んで良かったですが……流石に歩き通しで、少し疲れましたね……」
「だな、ちっと休むか」
「だってさ、ミラ──って、ちょっ!?」
いきなりその場に倒れてしまったミラに、すかさずジュードが駆け寄る。
容態を確かめ具合を尋ねるその迅速な対応は流石医学生。
「大丈夫ですか?」
「熱はないみたいなんだけど……どんな感じ?」
「力が……入らない」
本人にも何が起こったのか分かっていない様子で、大きな目をしばたかせている。
するとミラのお腹から空腹を知らせる音が上がった。
「ねぇ、ちゃんとご飯食べてる?」
「……食べたことはない」
「一度も!?」
「シルフの力で大気の生命子を、ウンディーネの力で水の生命子を……」
「……何言ってんの?」
「栄養を、精霊の力で得てたってこと。これからは、ちゃんとご飯食べなきゃね」
上体を起こして、自分の症状が空腹なのだと知ったミラは嬉しそうに笑う。
お腹が空いて喜ぶとは、いよいよもってマクスウェルの線が強くなってきたなとラスヒィは思いながら、とりあえず何か食べさせた方がいいと宿屋に運んだ。
「いらっしゃい」
「4人だ。とりあえずすぐに食事だけもらっていいかい?」
「すまないね、料理人がまだ来てないんだよ」
その言葉に、すっかり食事にありつく気だったミラはよだれを垂らさんばかりに口を開けてうなだれてしまった。
それを見たジュードが厨房を借りていいかと店主に相談し、許可が出たところで一人厨房へと入っていく。
「医学だけでなく、料理も出来るんですね」
「優等生の株が上がっていく一方だな。旦那は何か得意なこととかないのか?」
「ふむ、得手と言えるほどのことではないと思いますが、出来ることと言えば精霊術くらい、ですかね。記憶力には少し自信があるんですが、あまり役には立ちませんし……全く情けないです」
「料理は? まさかその歳でしたことない、なんて言わないだろうな」
「私の年齢をご存知なんですか?」
「見た目からして20かそこらだろ?」
「かなり近い、とだけお答えしておきます。アルヴィンさんは私よりは上に見えますが……」
「正解。ってまさか、それで敬語使ってんのか?」
「それもありますが……敬語の方が慣れているんですよ」
他愛無い世間話をしている間に、また倒れそうになっているミラを近くのテーブルセットに座らせる。ほどなくしてジュードが4人分のマーボカレーを運んできた。
食欲をそそる匂いと見るからに美味しそうなそれに、ミラが手も合わせずにがっつき始める。
「お、美味い」
「それだ! 食事というのはなかなか楽しい。人はもっとこういうものを大切にすればよいのだ」
幸せそうに食事をかきこむミラを、ジュードはどこか切なげに見て目を伏せる。
ミラの行動の端々から人間との違いを感じているのだろうかと、自分がミラに感じていることと今のジュードの心境を重ね合わせながら、ラスヒィは冷めないうちに皿の中を平らげることに専念した。