03.空を翔けるは銀の翼
「もうすぐ出口だぞ。信託の盾の奴、もう街に入っちまったのか?」まるでかくれんぼのように物陰から物陰へと渡り歩いてきた一行の先頭で、ルークが先の景色を見て後ろに伝える。
「マルクトの兵が倒れていますわ!」
近くに倒れていた兵に駆け寄るナタリア、その頭上から突如大男が降って来た。
相手の振りかざした斧が彼女に向かって振り下ろされ、気付いたナタリアは飛びのいて弓を構える。
「お姫様にしてはいい反応だな」
「お前は砂漠で会った……ラルゴ!」
「侵入者はお前だったのか! グランコクマになんの用だ!」
「前ばかり気にしていてはいかんな、坊主」
「え?」
訳がわからないといった様子のルークをティアが突き飛ばす。彼に向かって払われた剣先は間一髪で虚空を切った。
その剣を握っている人物を見て、ルークが目を疑う。
「ガイ!?」
「ちょっとちょっと、どうしちゃったの!?」
「いけません! カースロットです! どこかにシンクがいるはず……!」
「ルーク、こっち来てろ」
「すっかり仲良くなった様だな、シブレット」
シブレットはルークに切りかかろうとするガイの剣戟を受け流しながら、ラルゴを睨む。
「……お前は知ってたのか」
「……? 何がだ」
「……なら、いい」
メイスで剣を押し返して、間合いを取ったところで防御壁を作る。
それを壊そうとするラルゴにナタリアが矢を放った。
「させませんわ!」
「ふ、ふはははははははっ! やってくれるな、姫!」
「きゃっ、また地震!」
揺れる大地に全員がバランスを崩し手が止まる。
ティアが何かに気付いて近くの木を見上げた。
「ナタリア、上!」
言われてナタリアは咄嗟に矢を放ち、木の上に潜んでいたシンクに当たりカースロットが解ける。それと同時に、気を失ったガイが地面に倒れた。
「……地震で気配を消しきれなかったか」
「やっぱりイオンを狙ってるのか! それとも別の目的か!」
「大詠師モースの命令? それともやっぱ首席総長?」
「どちらでも同じことよ。俺たちは導師イオンを必要としている」
「アクゼリュスと一緒に消滅したと思っていたが……、大した生命力だな」
「ぬけぬけと……! 街1つ消滅させておいて、よくもそんな……!」
「履き違えるな、消滅させたのはそこのレプリカだ」
「黙れシンク、利用したのはお前達だ」
ルークを支えながら怒り顔でメイスを向けるシブレットにシンクが片眉を吊り上げる。
そこにマルクト兵が駆け付けてきて、シンクとラルゴはそれと入れ替わるようにして退いた。
「何だ、お前達は!」
「カーティス大佐をお待ちしていましたが、不審な人影を発見してここまで追ってきました」
「不審な人影? 先ほど逃げた連中のことか?」
「神託の盾騎士団の者です。彼らと戦闘になって仲間が倒れました」
「だがおまえたちの中にも、神託の盾騎士団の者がいるな。……怪しい奴らだ、連行するぞ」
結局はこうなるのかと、銃を向けて威嚇してくるマルクト兵に素直に従う。
ガイは意識を失っているようで、ディルが抱え込むとルークに肩を叩かれた。
「俺にやらせてくれ」
「でも……」
「ガイは俺の……親友だから」
いつかと逆だなと思いつつ、ディルは仕方なく立場を交代する。
出来ればあの二人は離れていたほうがいいと思うのだが……、ガイにかけられた術がどういったものか、彼はまだ知らない。
「導師、カースロットは……」
「やはり貴方も知っていたんですね。……彼なら問題ないと思っていましたが、そういう訳にもいかないようです。自由に動けるようになったら、真っ先に解呪します。ルークにも……話しておくべきかもしれませんね」
悲しげに杖を握る少年に、ディルもまた同じように二人を見た。
「フリングス少将!」
「ご苦労だった。彼らはこちらで引き取るが問題ないかな?」
「はっ!」
街に入ると大勢の兵が一行の到着を出迎えた。
まるで犯罪者の気分だ。銀髪の将軍がこちらにやって来て、周囲の兵士を下がらせる。
「ルーク殿ですね、ファブレ公爵のご子息の」
「どうして俺のことを……!」
「ジェイド大佐から、あなた方をテオルの森の外へ迎えに行って欲しいと頼まれました。その前に森へ入られたようですが……」
「すみません。マルクトの方が殺されていたものですから、このままでは危険だと思って……」
「いえ、お礼を言うのはこちらの方です。ただ騒ぎになってしまいましたので、皇帝陛下に謁見するまで皆さんは捕虜扱いとさせて頂きます」
「そんなのはいいよ! それよりガイが! 仲間が倒れちまって……」
「彼はカースロットにかけられています、しかも抵抗できないほど強く冒されたようです。どこか安静にできる場所を貸して下されば、僕が解呪します」
「おまえ、これを何とかできるのか?」
「というより、僕にしか解けないでしょう。これは本来導師にしか伝えられていないダアト式譜術の1つですから」
部下付きの条件だがフリングスの計らいで宿を用意してもらい、マルクト兵がルークからガイを引き取る。
アニスが同行を申し出て、ルークも同じように頼んだが、イオンは首を振った。
「……ルーク、いずれわかることですから、今お話しておきます。カースロットというのは、決して意のままに相手を操れる術ではないんです」
「どういうことだ?」
「カースロットは記憶を掘り起こし、理性を麻痺させる術。つまり……元々ガイにあなたへの強い殺意がなければ、攻撃するような真似は出来ない。……そういうことです」
イオンの言葉に、信じられないとルークが絶句する。
イオンは小さく「ルークを頼みます」と告げて、アニスや兵たちと宿へと消えていった。
残された面々の表情を見て、フリングスがしばらく城下を散策してみてはと提案してくれた。城の前で待っているからと言い残して、見張りの兵ともども去っていく。
イオンに頼まれたとて、一人にしてくれと力なく吐いて歩いていく今のルークに自分が出来ることは浮かばず、ディルはついていったティアとミュウに頼るしかなかった。
それに自分には自分の問題がある。
「……ちょっといいか」
シブレットに声をかけられたディルは頷き、街の中へと引かれていった。