03.空を翔けるは銀の翼

帰ってきたフリングスから事情を聞いたジェイドは、ルークが復活するまでの間、自分も適当に時間を潰してくると言って城を出た。

街は相変わらずにぎやかで活気付いていたが、どことなく落ち着きが無い。争いが起きる前兆かもしれないと道行く兵や人たちを眺める。

ふとその眼鏡越しの視界に、見覚えのある二つの人影が映った。
二人は立ち入りを禁ずるポールを何食わぬ顔で飛び越え、奥へと入っていく。

さっき騒ぎを起こしたばかりだというのに、まだ何かする気なのか。
ディルはともかくシブレットには一度お灸をすえたほうがいいかもしれないなと思いつつ後を付けると、姿を見つけるより先に声が聞こえた。

「……驚かないんだな。この本に書いてある事、お前は知ってたのか?」

「……ああ。まさかそんな所に記録が残ってるとは思わなかったけど」

「じゃあ、俺とお前がどういう関係なのかってことも、最初から分かってたのか? ……知らなかったのは俺だけか」

会話や声のトーンから、明るい話題ではないのは確かで。
その上でこんな場所を選んだということは、人に聞かれたくない内容なのだろう。

ジェイドは自分が持っていた不確定な真実の答えを求めて耳を澄ました。

「そりゃ、似てて当たり前だよな……。アッシュとルークも同じなんだろ?」

「そう、だと思う」

「通りで仲良くないわけだよ。仲良くなんて出来ないよな……」

「……お前も、やっぱり同じ気持ちか? あの二人と」

「お前はどーなんだよ!? よくそんな平然として居られるな」

「……俺も最初は、色々思うこともあったよ。こんな技術を生み出した人も、それを使った奴も、誰も彼も憎らしかった」

ディルの言葉に、聞き耳を立てていたジェイドはドキリとした。
彼は知っているのだろうか、その人物が誰なのかを。

「でも、憎んでも何にもならないから。なら、諦めて受け入れた方がずっと楽だ」

「……なんだよそれ、ふざけんなよ!」

ダン! と振動が壁を伝ってこちらにまで届く。
小さく零れたディルの嗚咽から、彼が壁に叩きつけられた音なのだと思った。

シブレットがそんな風に仲間に手を上げる場面など、見たことはなかったが。

「一人で勝手に諦めて終わらせてんじゃねーよ! お前一人の問題じゃねぇだろ、自分だけが被害者みたいな顔しやがって。俺だって被害者なんだぞ……!」

「……ごめん」

「謝るなよ。謝られたら、お前のことも恨みそうだ」

「……恨みたいなら、そうしてもいいんじゃないか。でも俺は」

一呼吸置いて、ディルは変わらず落ち着いた声で告げる。

「……お前の事を恨んだりはしない」

ジェイドは目を閉じて、静かにその場を離れた。耳にシブレットの舌打ちが届く。

これでハッキリした。似通った顔、声、術。赤の他人であそこまで似ることはない。そして彼らは兄弟でもない。
ならば残る可能性は1つ、ルークやアッシュと同じ……

(……フォミクリー、ですか)

本当に、過去の自分はいらぬことばかりしてくれる。

ジェイドは幼き自分が遺した悪魔の術を握りつぶすように拳をつくった。

「よーう、元気出たかルーク!」

「おわっ!? ちょ、重いっつーの!」

その後、城の前で合流した時には、二人のディルは何事もなかったかのようにいつも通りに戻っていた。
だがその間に出来ている距離が、さっきの会話が夢ではなかったのだと物語っていた。






フリングスに招かれた一行が城の中へと足を踏み入れ、謁見の間へと導かれると、そこには三人の男の姿があった。
ノルドハイム将軍、ゼーゼマン参謀総長、そしてマルクト皇帝ピオニー9世。

「よう、あんたたちか。俺のジェイドを連れまわして帰しちゃくれなかったのは」

「……は?」

「こいつ封印術なんか喰らいやがって、使えない奴で困ったろう?」

「いや……そんなことは……」

「陛下、客人を戸惑わせてどうされますか」

「ハハッ、違いねぇ」

うろたえるルークにピオニーは笑う。
シブレットは俺のジェイド≠ニいう台詞に衝撃を受けて、口を開けたまま固まっていた。

「本題に入ろうか。ジェイドから大方の話は聞いている」

「このままだとセントビナーが魔界に崩落する危険性があります」

「かもしれんな。実際、セントビナーの周辺は地盤沈下を起こしてるそうだ」

「では、街の住人を避難させなければ!」

「そうしてやりたいのは山々だが、議会では渋る声が多くてな」

「何故ですの陛下、自国の民が苦しんでおられるのに……」

「キムラスカ軍の圧力があるんですよ」

「キムラスカ・ランバルディア王国から声明があったのだ」

「王女ナタリアと第三王位継承者ルークを亡き者にせんと、アクゼリュスごと消滅を謀ったマルクトに対し、遺憾の意を表し、強く抗議する。そしてローレライとユリアの名の下、直ちに制裁を加えるであろう、とな」

本人を目の前にして、亡き者だどうだという話もちゃんちゃらおかしいな。
そう思うディルの隣で、ナタリアが父は誤解しているのだと声を荒げる。

「果たして誤解であろうか、ナタリア姫。我らはキムラスカが戦争の口実にアクゼリュスを消滅させたと考えている」

「我が国はそのような卑劣な真似は致しません!」

「そうだぜ! それにアクゼリュスは……俺のせいで……」

「ルーク、事情は知っています。ナタリアも落ち着いてください。……本当にキムラスカが戦争のためアクゼリュスを消滅させたのかは、この際重要ではないのです」

「そう、セントビナーの地盤沈下がキムラスカの仕業だと、議会が思い込んでいることが問題なんだ」

「住民の救出に差し向けた軍を、街ごと消滅させられるかもしれないと考えているんですね」

「そういうことだ。ジェイドの話を聞くまで、キムラスカは超振動を発生させる譜業兵器を開発したと考えていた」

「少なくともアクゼリュス消滅は、キムラスカの仕業じゃない。仮にそうだとしてもこのままならセントビナーは崩落する。
それなら街の人を助けたほうがいいはずだろ! あっ……いや、いいはずです」

ルークは頭に血が上った状態で出した言葉に、相手が皇帝なのだということを思い出して言い直す。
一度言葉を区切ったことで冷静にもなったようで、落ち着いた口調で続きを話した。

「もしもどうしても軍が動かないなら、俺たちに行かせてください」

「私からもお願いします。それなら不測の事態にも、マルクト軍は巻き込まれない筈ですわ」

「驚いたな、どうして敵国の王族に名を連ねるお前さんたちがそんな必死になる?」

「敵国ではありません! 少なくとも庶民たちは当たり前のように行き来していますわ。それに困っている民を救うのが、王族に生まれたものの義務です」

「……そちらは? ルーク殿」

「俺は、この国にとって大罪人です。今回のことだって、俺のせいだ。俺にできることならなんでもしたい。みんなを助けたいんです!」

「と、言うことらしい。どうだゼーゼマン、お前の愛弟子ジェイドも、セントビナーの一件に関してはこいつらを信じていいと言ってるぜ」

「陛下。こいつらとは失礼ですじゃよ」

「セントビナーの救出は私の部隊とルークたちで行い、北上してくるキムラスカ軍はノルドハイム将軍が牽制なさるのがよろしいかと愚考しますが」

「小生意気を言いおって。まぁよかろう、その方向で議会に働きかけておきましょうかな」

「恩に着るぜ、じーさん」

「じゃあ、セントビナーを見殺しには……」

「無論しないさ。とはいえ、助けに行くのは貴公らだがな」

ピオニーは王座から立ち上がり、ルークの前までやって来る。

「……俺の大事な国民だ、救出に力を貸して欲しい、頼む」

真剣な言葉に、皆誠意を持って応える。
ピオニーは後は任せたとジェイドに一声かけて、議会召集のために退席した。
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