01.それは終局への幕開け

とりあえず手当たり次第聞き込みをしてみたが、ユリウスに関する情報はなく、ブラートに関しては……知っていても言えないのか、口を閉ざす者ばかりで。

特に収穫のないまま時間だけが過ぎ、すっかり昼になってしまった。

「地道にやっても全然駄目じゃねーかよ……」

「そろそろお昼時ですね。どうです、ご一緒に昼食でも?」

そういや腹減ったなぁ、と思い出したように鳴きだした腹の虫に、ローエンの提案に賛同する。

「一筋縄にはいかんようだな」

「めんどくせぇ。こんだけ触れ回ってりゃ、あっちから出てくると思ったんだけどな……」

「ご自分を餌にするおつもりだったのですか?」

「じゃねーけど、そうなれば楽なのにと思ってよ」

クリーム牛丼をかきこみながら、周囲にそれらしき人物はいないだろうかと目を凝らす。
だが見た目では分からないかと早々に諦めると、なにやら路地裏からざわめき声が聞こえてきた。

珍しいことではないのか、周囲の人間は皆平然としている。中には関わりたくないがために知らんぷりをしている者も居るだろうが。

「……行ってみるか?」

「ああ」

牛丼をしっかり完食してから、騒ぎの方へと向かう。
その途中で、トリグラフ駅襲撃の際と同様に、鋭い痛みが頭に走った。

「ッ!」

「? どうしましたか?」

「……っ、なんでもねぇ」

何度も経験したことのある痛み。これが来る時は、いつもあの男が関わっていた。
もしかしてと期待を膨らませて早足で先へ進むと、声の主である男達の姿が見えた。

「人間が消えるはずがない!」

「探せ! どこかに隠れてるはずだ」

何かを探している様子の男達は、一見すると街を歩いている者たちと何ら変わらない、普通の一般人に見える。
彼らがブラートなのだろうか、いまいち決定打にかけるなぁと思っていると、

「い、今なにをした!?」

男達の奥に、場違いな少年少女を見つけた。

「おや、あれは……」

「あ? 知り合いか?」

「ええ、まあ」

「精霊術ってやつか!?」

「やっぱり、リーゼ・マクシア人は化け物だ!」

ローエンらの知り合いらしい少年たちに、男共が銃を向ける。
いくらリーゼ・マクシア人相手だろうと、あのような子供に銃を向けるなど。

決定打だな。シンは先に歩き出したアーストに続いた。

「そこまでだ」

男達が振り返ると同時に、アーストが長い刀を抜く。
見事な剣さばきで相手の武器を弾き落とすと、男の喉下に切っ先を突きつけた。

「ひとつ教えてもらおう。アルクノアは、なぜ源霊匣の素材を集めている?」

「……あ? 知ってたのか!?」

その見事な太刀筋にあっけに取られていたが、アーストの言葉を聞いて我に返る。

調べたいことってそれかよ、隠した意味ねーじゃねぇか。

「……源霊匣の暴走を、テロに利用するんだ。力を利用した上に、その危険さをアピール出来ると……」

「なるほど、策としては悪くない」

言って、切っ先を下げたアーストに、男が驚く。

「殺さないのか……?」

「俺は化け物ではないのでな」

いんや、化け物だよ。
走り去っていった男達も思って居ただろうことを、シンが心中で呟く。

「一朝一夕にはいかんな」

「この街は、リーゼ・マクシア人への反発が特に根強いようですね」

「そりゃこの街に限ったことじゃ……って、そうじゃねぇ! 逃がしてどーすんだよ!」

こっちが聞きたかったのはそんなことじゃないと、自分がなぜブラートを探していたのかを思い出して慌てて男達を追いかける。

そうしてその場から退場したシンに、少年、ジュードが首をかしげた。

「……あの人は?」

「昨日の晩に宿屋で出会いまして、何やら人を探しているようです。ブラートのことも探っているようでしたので、同行していたんですよ」

「へぇ、誰を探してたの?」

「……そういえば、聞いていませんでしたね」

今更なことをローエンが呟いて、ジュードは「あの人も、前途多難そうだね」と苦笑した。








「おい待ててめぇら!!」

一方。全力疾走の末になんとか追いついて、身柄を確保したシンは、アーストに刀を向けられていた男を問いただしていた。

「なんなんだよ!」

「さっきあの場にユリウスの野朗が居たはずだ! どこ行きやがった!」

「ユリウス……ユリウス・ウィル・クルスニクか? はっ! 知らねーよ! 最初っから居な」

「しらばっくれんじゃねぇ!」

拳をつくって右頬に叩き込むと、男が短く呻いたが、構うものかと容赦なしに胸倉を掴んで締め上げた。

「ほ、本当に居なかったんだ!」

「見え透いた嘘ついてんじゃねーよ! 言わねーならもう一発……」

「嘘じゃねぇって!」

本気で慌てる相手に、流石におかしいと感じて拳を下ろす。

「……本当に居なかったんだろうな」

「あんな奴庇って何になるってんだ!」

「んじゃあアイツはどこにいんだよ!」

「それこそ俺の知ったことじゃねぇ! もういいだろ!?」

さっきのアーストの攻撃がよほど怖かったのか、脅える男を渋々解放すると、男達は一目散に駅へと逃げていった。

「クソッ、完全に無駄骨じゃねーか……」

「気は済んだか?」

後ろから1人やって来たアーストに、いつから見られていたのかそんなことを言われる。

「全然」

「血気盛んだな」

「ローエンは?」

「ジュード達と共に行くそうだ」

「ジュード? ……ああ、さっきのガキンチョ共か」

そういえば、あの場に居たのなら、彼らも何か知っているのではないか?
事のついでだ、聞くだけ聞いておくかと走ってきた道を戻る。

「あんたは?」

「俺はまた別の場所へ行かなければならんのでな」

「ふーん。つーか、結局あんた何者なんだよ」

「……ただの市井の男だ」

去っていくその後姿に、「嘘つけ」と吐き棄てて、シンも同じく背を向けて歩き出した。
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