01.それは終局への幕開け

「あれ? さっきの……」

「おや、おかえりなさいシンさん」

ちょうどこちらに向かっていたらしいローエン達が、こちらに気付いて足を止める。
探している人の情報は聞けましたか? というローエンの質問に首を振って、こちらも質問を投げかけた。

「あんたら、メガネかけた20後半くらいの男見なかったか?」

「え?」

「……それってもしかして、メガネのおじさん?」

人見知りなのか、自分を見るなりさっと皆の背中に隠れた少女が言う。

「見たのか!?」

「い、今は見てないけど……前に電車で見た」

「電車……アスコルドの開業記念式典列車か! その後そいつはどこ行きやがった!?」

「ひっ!」

少女が身を縮こまらせて、青年の後ろに引っ込んだ。
その反応を見て、10にも満たないであろう少女の目に今の自分がどう映っているかに気付いた。

「……悪ぃ、ビビらせるつもりじゃねーんだけどよ。何か知ってんなら教えてくんねーか」

「……君が探してるのって、もしかしてユリウスさん?」

「!! 知ってんのか!」

ジュードは少女にひっつかれている青年と目を見合わせる。

「僕たちも、ユリウスさんを探してるんだ」

「あ? じゃあ……」

「うん、僕たちも、ユリウスさんがどこに行ったのかは分からないんだ。さっきの騒ぎの時も、姿は見てないよ」

──なんだ、結局収穫ナシかよ。

予想外の答えに少しは浮かれたのだが、糠喜びだったらしい。

「君はどうしてユリウスさんを探してるの?」

「……そりゃ、まあ、色々あんだよ。そっちこそ、ユリウスの野朗とどういう関係だ?」

「……こっちも色々、かな」

眉を下げて、再びジュードと青年は目で会話する。
この青年がユリウスに何か関係しているのだろうか。

「……ジュードさん、ルドガーさん、彼も一緒にヘリオボーグへ連れて行って差し上げませんか?」

「え?」

「は? ヘリオボーグ?」

ローエンの唐突な提案に、他の面々が揃って同じ顔になる。
どうして、という疑問の顔だ。

「同じ人を探すにしても、闇雲に探すのと情報を貰って動くのとでは後者のほうがいいでしょう」

「でも、ローエン……」

「大丈夫です、シンさんはアルクノアとは無関係ですよ」

「……何かあいつに関しての情報があんのか?」

「ユリウスさんの情報っていうか、それを知ってそうな人の情報っていうか……」

「その人に今から会いに行くんですよ」

なるほど、それが本当なら、是非とも同行させて貰いたい。
ローエンの言うとおり、何の情報もないまま探し回るのはなかなか骨が折れるのだ。
彼らがどこから情報を得ているのかは知らないが、信憑性が有る無いにしても今よりはマシ。

「俺からも頼むわ、連れてってくんねぇか。あんたらの足は引っ張らねぇようにすっから」

「どうする? ルドガー」

「俺はいいよ。事情は知らないけど、兄さんを探すのに協力してくれるなら助かるし」

「サンキュ……おい、今兄さんっつったか?」

サラッと言った青年、ルドガーに、シンが下げていた頭を上げる。
ルドガーは「あれ?知らなかった?」とでも言いたげな顔で続けた。

「ユリウスは俺の兄さんだよ。俺はルドガー。ルドガー・ウィル・クルスニク」

「……エル・メル・マータ」

「あたしはレイア・ロランド。宜しくねシン!」

「僕はジュード・マティス」

「私は……もう言いましたね」

警戒心を露にしているエルを除いて皆笑顔でそう名乗ってくれたのだが、
シンは反対に顔を強張らせた。

「……ってことはまさか、さっきの、お前がやったのか?」

「ん?」

「分史世界を壊したのはお前かって聞いてんだよ!!」

「ぅ、わっ!?」

「ルドガー!」

ルドガーの胸倉を掴んで壁に叩きつける。
相手はなんのことだと、壁に打ち付けられた後頭部をさすった。

「なにすんのよー! ルドガーを離して!」

「じゃあ答えろ!」

「ルドガーは何にも悪いことしてないもん!」

「落ち着いてくださいシンさん、
乱暴な事をする様でしたらご一緒には行けませんよ?」

ローエンに言われ、仕方なく手を離す。
けほけほと軽く咳き込むルドガーに、足をぽかぽかと叩いていたエルが駆け寄った。

「シン、分史世界って?」

「あんたには関係ねーことだ。俺はこいつに聞いてんだよ」

「だから知らないってば!」

「だからてめーにも聞いてねーんだよ!」

「……いや、本当に、知らないんだけど……」

怒声に吃驚してまたくっついたエルをなだめながら、ルドガーが真っ直ぐこちらの目を見て答える。
その顔は確かに、嘘を言っているようには見えなくて。

「……じゃあさっきのは誰がやったんだよ。ユリウスでもねーんだろ?」

「そもそも、分史世界が何か教えてくれないと、ルドガーも答えようがないよ」

「知らねーなら教える気はねぇ」

「兄さんは、その分子世界っていうのを壊してるのか?」

「……本当に何も知らねーのかよ、お前」

「ああ」

どういうことだ。ユリウスは弟に何も話していないのか?
言う必要がないから? それとも、わざと隠しているのか。

何にせよ、この弟は分史世界の破壊とは無関係なのか。

「……知らねーなら、いーんだよ。その、いきなり手荒なことして悪ぃ」

「貴方がユリウスさんを探しているのは、彼がその分史世界というものを破壊しているからですか?」

「……そーだよ」

「良く分からないけど、それを壊されると何かまずいの?」

「教える気はねぇっつっただろ」

「言わないなら連れて行かない! ルドガーにいきなり襲いかかるような危ない人、エル反対!」

「だからそれは悪かったっつってんじゃねーか。……知らねー方がいいこともあんだろ。それにこっちも、あんたらがアイツを探してる理由は聞いてねーしな。お互い様じゃねぇの?」

エルはうぐぐっと口を噤んで、他の面々もそれを言われては仕方がないと諦める。
とりあえず今はヘリオボーグへ向かうべきだというルドガーの発言に、満場一致の一行は駅へと歩き出した。
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