03.冬枯れの景色に遠い春

「フェンデル政府が大W石の実験を行っているのは本当みたいだな。肝心の大W石がどこにあるのかは未だにわからないが……」

一通り情報を集め終えた一行は、街の一角でそれらを整理する。
もっとも、あの後結局大した働きをみせなかったルーカスの分の情報は含まれていないが。

「アンマルチア族の協力を得て、実験が進められていると言っていた人もいたわね」

「その点も驚きだ、今でもアンマルチア族がいるなんて」

「まずいよこれは……まずいまずい、絶対まずいって」

「何をそんなに焦っているんだ?」

「フェンデルの大W石って他のと比べて特殊っていうかさ、簡単に原素が取り出せないんだよ。理論的には可能なんだけど、技術的には困難っていうかさ。大W石で実験してそれが失敗しようものなら、とんでもないことになるよ」

「とんでもない事って……具体的には?」

「う〜ん……フェンデル全土が吹っ飛ぶだけじゃ済まないかもね」

さらりと言ってのけたパスカルに、一同は思わず息を飲む。

「本当本当。帝都に来る途中ででっかい穴があいてるの見たでしょ? あれ、W石の力が暴発してできたんだよ?しかもこれくらいの大きさの」

言って、指で再現されたサイズはせいぜい彼女の目と同じぐらい。

「この程度であれだけの穴だよ?大W石だったらって想像したらそりゃ焦るでしょ?」

「ねえパスカル……あなた、どうしてそんなことを知ってるの?」

「あの穴作ったの、あたしだから。だからまずいんだって。たぶん大W石の実験に使われてるのもあたしの技術だよ、闘技島で兵士が持ってた武器がそうだったからね。基本原理が一緒だったからすぐわかったよ」

「実験に用いられているのはアンマルチア族の技術じゃなかったのか?」

「あたし、アンマルチア族だもん」

再びさらり、と衝撃的事実を告白したパスカルに、ルーカスを除いた面々が驚き言葉を無くす。

「そ、そうだったのか?」

「あれ、言ってなかったっけ? ――みんな、これからアンマルチア族の里へ行ってみない? そこへ行けば色々詳しい情報が手に入るよ。大W石のある場所もわかるかも」

「パスカル」

口を閉ざしていたルーカスが、諌めるように彼女の名を呼んだ。
皆の視線が、2人の間を彷徨う。

「だーいじょうぶだって、説明したら分かってくれるよ」

「アンマルチア族の里というのはここから近いのか?」

「すごく近いって訳でもないけど一応、同じフェンデルの中だから」

「そうか、そういう事なら……」

「待ってください。なぜ今まで、アンマルチア族だという事を黙っていたんですか。何か都合が悪いことでもあるからなんじゃないですか」

「え? 何も聞かれなかったから言わなかっただけだよ」

「ルーカスさんも、それを知っていながら黙っていましたね? マリクさん、あなたもです。先ほどの演技は、あまりにも堂に入りすぎていた。案外あれは、真実だったんじゃないですか?」

いきり立つ弟をなだめようと兄が口を開くが、弟は聞く耳持たず。

「兄さんは怪しいと思わないんですか?」

「ヒューバート、君の指摘は正しい。俺はこの国の出身だ。もっとも戻ってきたのはかれこれ二十年ぶりになるが」

「やはり……! 兄さん、ここまでわかってもこの3人と行動を共にする気ですか? 彼はフェンデル人であることを隠し、彼女らはアンマルチア続であることを聞かれなかったからと言わずにいた。フェンデル人やアンマルチア族は平気で嘘をついたり誤魔化したりするんですか? 僕は……隠し事をする人は嫌いなんです。こんな人たちと行くのはごめんだ」

「ヒューバート……」

「ここにいたぞ!」

どこからか聞こえてきた場にそぐわぬ声と共に、兵士達が集まってくる。
そしてその銃口は、マリクに向けられていた。

「貴様は一体何者だ? マリク・シザースという人物はとうに死亡しているではないか!」

「なるほど、そういう扱いになっていたとはな」

「貴様らの身柄を拘束する。全員集合!こいつらを捕らえろ!」

「まずい……ひとまず帝都の外へ脱出しよう!」

街の外へひた走り、なんとか兵士を撒くことには成功する。
が、先ほどの話がそれで流れたかと思いきやそうもいかないようで。
里へ行こうと強引に手を引くパスカルに、ヒューバートが全力で嫌悪を示す。

そして、険しい顔をしているのは彼ともう1人。

「パスカル、俺は……」

何かを言おうとしたルーカスの声を、突如現れた猪の雄叫びが遮る。
狂暴そうなその風貌に、マリクたちは眉を寄せるが、ヒューバートはただが猪だと背を向けた。

「弟くん、背中見せちゃだめ! 危ない!」

その背中に、一直線に突っ込んでいく猪よりも早く、パスカルは彼を突き飛ばして無理やり回避させる。

「パスカルさん!?」

「いてて……、弟くん……大丈夫?」

「全員身構えるんだ! この辺は気候が厳しいせいで野生動物といえども凶暴だ、背を見せたら襲ってくるぞ!」

「待った」

投刃を構えたマリクに、同じく武器である杖を掴んだルーカスが進み出た。

「始まりと終わりを知らず、時の狭間に遊べ。――ストップフロウ」

杖に取り付けられたW石が眩しく光る。
低く唸り声を上げ後足で雪を掻いていた猪は、凍りついたかのようにその動きを止めた。

「今のうちに。パスカル、立てる?」

「うん、ちょっと擦りむいただけだし平気平気〜」

半ば放心状態になっているヒューバートの手を再びパスカルが引いて、一行は安全な場所まで退避する。
やがて猪の姿が銀世界に消えると足を止めた。
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