03.冬枯れの景色に遠い春
「……どんな相手だろうと、やる事は同じか」やれやれといった様子で言ってくるマリクに、「面倒なら連れ歩かなきゃいいのに」と呟く。
「……どうして僕を庇ったりしたんですか。あんなにあなたの事を疑ったのに……」
「気にしないで、弟くん」
「なんで……笑えるんですか……。あなたたちも、もっと僕を責めても構いませんよ、マリクさん、ルーカスさん」
「自らの過ちを責めている者をさらに責め立てる趣味はないのでな。それに、みな無事だったんだ、よしとしよう。なあ、ルーカス?」
「うん? どうでもいいよ」
「なっ……」
「俺はヒューバートより、本能で襲いかかってきただけの猪を、問答無用で斬り棄てようとしたおっさんのほうがムカツク」
「お前な……」
「あっはは! ルーカスらしいね〜。ま、そういうことだし、問題なしだよ」
明るく笑うパスカルに対し、ヒューバートの表情は曇ったまま。
「でも……それでは……僕の気が済みません。借りを作ったままなのは嫌なんです……」
「う〜ん、そこまで言うなら……じゃあ、さっきの猪捕まえてきてくれないかな?」
「は?」
「貴重なタンパク源だからお土産にしたいとこなんだけど」
「パスカル、俺に喧嘩売ってる?」
「ありゃ、駄目? しょうがない、じゃあ猪の代わりに……、今から弟くんとあたしは友達ね!」
三度ヒューバートの手を取り、ぶんぶんと振り回すパスカル。
今度は、その手が振り払われることはなかった。
「パスカルさん……」
「よし、里まであと少しだし急ごう!」
そうして和解したところで、目的地に向けて再出発した一同の中で、ルーカスが先導するパスカルを呼び止める。
「本当に里に行くの?」
「うん、ルーカスも久しぶりでしょ? せっかくだから……」
「俺は行かない」
いつもより少しだけ強く、そう言ってルーカスはその場で立ち止まった。
「ルーカスさん?」
「ここで待ってるから、行って来て」
「またそれか」
大統領府でのやり取りを思い出して、マリクが呆れる。
だが、動こうとしない相手の様子が、その時とは違っていることに気付いた。
「……わかるだろ? パスカル」
「……もしかして、里の皆が言ってたこと気にしてるの? ちゃんと話したら分かってくれるよ、ジルは……」
「パスカル」
また、諌めるように名を呼んで、頭を振る。
それ以上は言うな、という意思表示。
「……そんな簡単に、許されるべきことじゃないよ。……行ってらっしゃい」
有無を言わさぬその見送りの言葉に、パスカルは渋々彼を残し歩き出す。
アスベル達も、心配そうに後ろを振り返りながらも、それに続いた。
「……ルーカスさんは、里で何か問題でも起こしたの?」
「うーん、問題っていうか……、問題といえば問題なんだけど……」
「酷く自分を責めているように見えたな。それこそ、さっきのヒューバートみたいに……」
「彼も、あんな顔をするんですね……悩んだり自責したりするような人ではないと思っていましたが……」
「ルーカス、たまにあんな顔してるよ。ここに来る船に乗ったときも、あんな風だった」
皆が口々に発言する中、マリクが問う。
「……リボンの主のことか?」
パスカルは驚いたように、目を丸くして相手を見上げた。
「教官、話聞いたの?」
「いや、ただの推測だ。……その反応は、正解ということか」
「うん、まぁね。里に着いたら紹介してあげるよ、あのリボンの元の持主」
「本当!?」
色恋沙汰と思ったのか、シェリアがやけに目を輝かせて食いつく。
山頂に到着すると、そこにある装置から一行はアンマルチア族の里へと飛ばされた。
「ここがアンマルチア族の里……? なんていうか、独特な感じね。」
「俺がフェンデルにいた頃は、ここの事は何も知らなかった」
「おおっぴらにしてないだけで、フェンデル政府には技術提供とかちょこちょこやってたんだよ。さ〜て、まずはあたしの部屋へ……」
「リボンの女性はっ!?」
「部屋に行くまでに会えるよ〜」
1人わくわくしているシェリアを連れて、パスカルらは空中に並ぶ足場の上を歩いていく。
やがて1つの家の前で、先頭を歩いていた彼女は足を止めた。
「ここにその人が居るの?」
「うん、こっちこっち」
「? 入り口はここじゃ……」
パスカルは扉を通り過ぎて、その隣にある石碑の前に膝をつく。
そして手を合わせてから、仲間たちを見上げて告げる。
「これが、ルーカスが着けてるリボンの主だよ」
穏やかに微笑む彼女の前にあるのは、墓石だった。
そこに記されているのは、女性のものであろう名。
意味を理解して、愕然とする仲間の中で、マリクは1人、「やはりな」と呟いた。