2024/4/30〜5/31
語り手:雛森桃
――そっか、仲良いんだ。
ストン、ではなく。
ズシリと腑に落っこちた。
藍染隊長と沙生先生。お二人は教室前の廊下の窓際で立ち話をしていた。窓の向こうでは、春の日差しを受けた爛漫たる枝垂れ桜が、そよ風に遊ばれている。
せかせかと行き交う霊術院生の制服の白に紛れて死覇装の黒が立ち止まり並んでいれば、それはとても目を引く。距離があって会話の内容は聞こえなかったけれど、沙生先生が何か一言告げて、藍染隊長が自然に相好を崩されたのが見えた。
(ずるい)
言葉として思ってはしまったけれど、声にして言いはしなかった。
(ずるい)
なんて、救いようのない言葉。放るだけ放って、後の責任なんて持たない。小石を投げるのと一緒だ。行き所のない醜い感情を勢い任せにぶつけて、
(ずるい)
嫌な気持ちは生まれ止まない。抑えられても
態々取りに戻った忘れ物は、まだ明るい教室にそのままに。来た道を引き返した。
五番隊の藍染隊長は、霊術院の書道の特別講師でもあり、あたしの憧れの人だ。賢俊で、物腰柔らかで、それでいて誰よりお強くて。あの瞳が少しでもこちらを向いてくださったら、それだけで胸がいっぱいになる。手の届かない高嶺の人、けれど支えたい親身の人。大半の同級生だってきっと同じように想っているはず。それでも、募る慕わしさは誰にも負けない自信がある。自信だけじゃなく、覚悟もある。頑張って立派な死神になって、一番お側で力になるんだ、って。それに現世実習で命を助けて頂いたご恩もある。少しずつでいい、少しでもお役に立てるように、あたしは日夜学び舎で励んでいる。
沙生先生は、霊術院の剣術の先生に乞われて剣術の特別講師に就いた現役女性死神で、阿散井くんの憧れの人でもあるらしい。その割にはたまに「あんた」呼ばわりなんてして、私が藍染隊長に向けるものとはまた毛色が違っていそうだったけど。風の噂によれば、ちょっと昔に流魂街で色々あったときにお世話になったんだそうだ。あたしはその話に興味が湧いて、吉良くんたちと一緒になって根掘り葉掘り聞いたことがあった。それが聞かされたらもう、あたしも彼女に憧れるしかなくて。優しさも厳しさも兼ね備えて、恰好良くて、あたしもそんな風になれたらいいなと思ったものだ。
……実際のところ、藍染隊長と沙生先生はどんな間柄なんだろう?護廷十三隊では別の隊でも、霊術院の中ではお互い特別講師というお立場なのだから同僚ともいえる。瀞霊廷通信では、それぞれ特別取材や限定企画でもよく記事が組まれる瀞霊廷の人気者同士だ。けれども、お二人の口からお互いについての話は一度も聞いたことがなかった。一緒にいるところもあまり見たことはなかったのに。
早くも葉桜が目立つ、四月の末。
一回生も此処の環境に慣れてきた頃、あたしは“鬼道に長けた先輩”として、一回生の授業にお邪魔して実技を披露することになった。その授業では剣術も同様にやるということで、そちらの代表は阿散井くんだ。選んでくれたのはどちらも藍染隊長らしい。呼ばれなかった吉良くんは拗ねていたけれど、また今度別の機会があれば、間違いなく彼も招集されると思う。
どのような課程で授業を進めていくか、また、後輩たちに何をして見せれば良いかという事は、放課後に沙生先生から説明があった。がやがやしている職員室の一角で、あたしと阿散井くんは一緒に沙生先生の話を聞いていた。
「……ってな感じでやろうかなと。お願いできる?」
「ウス!任せてください」
「はい、大丈夫です」
担当講師は各学級担任の他に、鬼道を教えるのが抜群に上手い藍染隊長と、剣術指導で右に出るものはいないとまで言われる沙生先生が顔を揃える。規模の大きな合同授業とのことだった。真面目な説明は一通り終えたという合図なのか、沙生先生は座ったまま椅子をくるりと一回転させた。
「……鬼道がダメでも剣なら、って枠は私だけで間に合ってると思うんだけどなぁ。私と似てる阿散井じゃなくて、支援も得意な吉良を藍染隊長が選んでくれてたら、もうちょいやれることも増えたろうに」
「ええっ そんなこと言わないでくださいよ!」
「だってさ、それぞれ自分の得意不得意を把握して、講師や先輩の色んなやり方を参考にしながら、様々な戦い方を考えてみよ〜って内容よ?」
「じゃあ俺は……ホラ!腕っぷし!力押しの白打なら沙生さんよりちょっとはイイ線いくだろ」
「対虚戦で白打ねぇ……ハハ、一回生には厳しくないかい?」
この二人の距離感は独特だ。前に同級生が「姐御と舎弟」なんて揶揄していたけど、なかなか的を射た表現だと思う。
「あの、沙生先生」
「ん?なぁに雛森」
「この授業は……その、藍染隊長と沙生先生がご一緒に立案されたんですか?」
お二人の仲が良いなら、「今度一緒にやってみようか」なんて笑い合う一幕でもあったのかな、とか。つい気になってしまって、深く考えない内に質問していた。答えを聞いても、あたしの胸のモヤモヤが増すだけなのに――。
「いいや?違う違う」
「えっ。そうなんですか?」
「んぇ、そうなんすか?」
阿散井くんも意外そうにして会話に入ってきた。沙生先生のいつもの明るい表情はだんだん……そう、シジミの味噌汁を食べていたら砂を嚙んじゃった、みたいな微妙な顔になってきていた。
「しょ〜じき断りたかった」
「何で?あの二人が揃うなんて最高の授業じゃ〜んって、他の学年のやつらもスッゲェ羨ましそうにしてたっすけど」
「そんな、お二人とも気が合って、仲も良さそうなのに……」
阿散井くんとあたしにそう言われたときの沙生先生の顔は、多分、ずっと忘れられない。
「……そう見える?」
――あ、違うんだ。
不思議なほど素直に、そう感じられた。それ以外にないって思えた。「そうなんだよ」という肯定を匂わせて微笑むでもなく、「いやいや」と否定を前面に押し出してくるでもなく。ひどくあっさりしているのに、断固とした拒絶が垣間見えた気がして。熱がなく、無表情に近かった。
このときの阿散井くんのたじろぎようは凄かった。いつでも思い出し笑いが出来そうなくらい。
「えっ、じゃ、あの、な、ど、どうして一緒にやることになったんすか?」
「そりゃあお上の指示さね。君らと一回生のこと、『ふぅむ中々に優秀な世代じゃ。おぬしらで協力して指導し、更に伸ばしてやれ』って、総隊長殿より直々に」
「へ、へぇ…そりゃ光栄に思うっすけど……?」
「それは――、ふふ、うふふ」
「おぉい雛森、なぁよ、笑うとこか?ココ」
それからだ。あたしが沙生先生のことを、前よりもずっと、大好きになっていくのは。
現金よね。でも、これって本当に本当なの。
嫌よ嫌よね、だから好き
雛森ちゃんに限らず、年上の人に恋のような憧れを抱いた乙女の心とは非常に難解で複雑なものだと思います。秋の空なんてもんじゃない、これはもう宇宙ですよ。無限大なソラです、宙。
『このほの』本編で描けるのは何時になるやらですが、雛森ちゃんと主人公さんのこの先の関係は良好でしょう。ハローハロー、オールクリア。内心「藍染隊長の事を好きにならない人がいるなんて信じられない!」とも思われていそうですが、それも気にならないほど絶大な信頼を得ましたよ、あなた。何といっても永劫恋敵にはならない素敵な先生ですからね。
ところでこんな夢小説もあるんですねぇ。……あっていいですかね。いや、自分で書いておいて何なんですが。ホント何だ?って思うんですが!
『このほの』本編で描けるのは何時になるやらですが、雛森ちゃんと主人公さんのこの先の関係は良好でしょう。ハローハロー、オールクリア。内心「藍染隊長の事を好きにならない人がいるなんて信じられない!」とも思われていそうですが、それも気にならないほど絶大な信頼を得ましたよ、あなた。何といっても永劫恋敵にはならない素敵な先生ですからね。
ところでこんな夢小説もあるんですねぇ。……あっていいですかね。いや、自分で書いておいて何なんですが。ホント何だ?って思うんですが!