もし俺が消えたら…(墺・普)
「いつかさ、俺もあいつみたいに消えちまうの かな」
「は?」
鍵盤から目を離し盗み見たその姿はどこか儚く見えた。
「そんな抽象的な話題を振られても答えようが ありません。まず主語を明確になさい」
「そんなに怒んなくてもいいだろが。ちょっと 思っただけだよ。それより指、止まってんぜ?」
「あなたが私の集中を妨げるようなことを仰るからです」
「……俺のせいかよ」
銀の短髪が陽の光を受けてきらめいて見えた。
「それで?あいつとは誰のことなのですか?」
鍵盤には目も意識も向けられてはいなかった。
「神聖ローマ、だよ」
「神聖ローマ?」
「そ。あいつ、いつの間にいなくなってただろ?俺たちだっていつかはあいつみたいに消えちまうんじゃねえかって思ったんだよ」
紅の瞳に影が落ちる。
「そうですね。可能性はあるでしょうね」
「坊っちゃんもそう思ってるんだ」 「ええ」
再び意識は鍵盤に。
「でさ、俺がいつか消えちまったとして」
最後の音が欠けた和音。
「それでも坊っちゃんがピアノ弾いててくれたらって思った」
欠けた音を甲高い横笛の音が補った。
「坊っちゃんが先に消えたら、俺がこうして吹いててやるよ」
戦うために生まれ、剣を握るためにあるその手で紡がれる軽やかなメロディー。
全くもってあなたらしくない。
「……お馬鹿さん」
そのメロディーに沿うように紡いだ私の音はどこか悲しく響いていた。
まるで、死者を弔う鎮魂歌(レクイエム)のように。