真なる炎の紋章

『じゃあ、君はどうしてそれを持っているんだい?』

「え?」

そんなことを聞かれたのは初めてだった。
300年近く生きてきたこの身でも。

これは守らなければならないもの。
ずっとそう言い聞かせられてきたから何の疑問にも思わなかった。

これを守ることが俺の役目で、
これを失ったときに俺の役目は終わるのだと。

だけど、かつて炎をその身に宿した男は薄く微笑みながら俺に言った。

『それはこの世になくてはならないものだけれど、それが君である必要はない』

だから、男は『炎』を捨てたのだと。

英雄、でもなくて。
世界、でもなくて。

ただ大切な人を守るために。

自分自身であるために。

『君がそれを持ち続けるのは、君の意思なのかな?それともただの使命感?』

俺にはわからない。

大切なものなんて俺にはないから。
ましてや、大切な人なんて。

大切に思ったら失ってしまう。

これはそういう性質のものだ。
宿主の気に入ったものを全て喰い尽くす。

「失わないために手放せない」

俺にはそう答えることしかできなかった。


男は、
かつて「英雄」と呼ばれた男は、

『そう、』

とひと言呟いて、そうして笑った。

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