門の紋章

もっと別の出会い方をしていれば、俺は彼女のことを知ることができたのだろう。

例えば、俺が継承者じゃなかったら。
例えば、俺があの村に生まれていなかったら。

そしたら俺は彼女の深い悲しみにもっと自然に触れることができたのかもしれない。

だけど俺はあの村に生まれ、継承者になった。

だから、こんな形でしか彼女の悲しみに触れることができない。


「さあ、ソウルイーターを渡しなさい」


くっきりと引かれた口紅の赤色だけがやけにはっきりと見える。
その自信に満ちた顔の下に隠した感情を俺は知っている。


よく見れば誰にだって分かるだろ?


例えば、俺があの村に生まれず継承者でもなかったら。

そしたら俺は彼女の悲しみに気付いてやることがきっとできた。
そしたら他にかけてやる言葉を見つけることもきっとできた。

だけど俺は継承者だから。


「お前なんかにくれてやるようなもんはないね」


それはきっと誰のせいでもない。
それはきっと、この世のどこかにいるという悪戯好きの神様のせい。

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