あったか〜いひととき



友達の家で遊んだ帰り道、相変わらず余った袖をぶらぶらさせている十四松とばったり遭遇した。

有名な六つ子たちとはご近所さんで、いちおう親しい仲ではあった。というのも、ご近所付き合いの一環で自分が松野家に赴くなど、交流も少なくなかったから。
その度に決まって彼らに振り回されたもんだなあとしみじみと苦労を思い浮かべる。
だから、こうして偶然出会うというのが、別に珍しくもないけどちょっと反応に困るなあとも思った。特に、行動が読めない十四松。だけど……、
とりあえず、あいさつで先手を打つ!

「こ、こんにちは〜……って、何か他人行儀かな」
「こんにちは、小松菜ちゃん。今日はもう家に帰るの?」
「うん。そうだよ」
「じゃあせっかくだし、途中までいっしょに帰ろーよー!」
「そ、そうだね!」

そんなこんなで、流れで同じ帰路を辿ることになった。
十四松はにぎやかだけど、悪意や裏表がないから不思議とどこか信用できるところがあった。彼を見ていると、何だか――。

「(って、別に他の兄弟が信用できないとか送り狼になるだとかそういう話じゃないんだけどね!?)」

と、突如吹きつける木枯らしに思わず身震いする。
日は傾き、冬の訪れを感じさせる時間帯には、彼の短パン姿は見ているだけでさらに寒くなってきそうだった。
心配になって、顔色一つ変えない十四松にたずねてみた。

「足? うん、めちゃくちゃ速いよ!」

そうじゃなくて、寒くないかどうかを聞いているんだけど……まあいっか。
子供は風の子元気の子とは言っても、彼はもうそれなりにいい年をした大人。
それでも、六つ子の中でもことさら元気で底なしの体力を持っているイメージがあった。
けっして強がっている風には見えない。けど……、

「十四松、よかったらこれからコンビニ寄らない?」

全く寒くないってことはさすがにないと思う。そうでなくても、まさか逆に暑いなんてこともないだろうから、温かいものを奢ってあげても別に文句は言われないよね。
というか、まあ彼はそういう人でもないし。

「コンビニ!? いいね〜」

諸手を挙げて喜ぶ十四松。
さっそく二人で足並みをそろえて、近場のコンビニへと入った。

「わぁ、おでんがあるー」
「おでんは普段チビ太のところで食べてるしなぁ……」

落ち着きなく店内を見回す十四松に、さも負けじと自分も、目移りしながら何を買おうか考えあぐねていた。
そうして目に留まったのは、白くてふわふわの――。

「中華まんにしよう! 私はあんまん。十四松は?」
「えっ!? いいの! えーと、じゃあ、肉まん!」
「よし来た!」

店員さんの声に見送られてコンビニを後にする。
それぞれの手には、ホクホクの中華まんがあった。
十四松は浮かれる気持ちが抑えられないのか、体を上下させて喜んでいる。
それがどうにも微笑ましくて、ふふっと笑みがこぼれた。

「冷めないうちに食べよっか」
「食べよ食べよ〜う!」

互いに一気にかぶりつく、と熱さに一瞬たじろいでしまった。けど、おいしい!

「うまー!!」

十四松はガツガツと一気にたいらげる。
ノドに詰まらせないか心配になるほどの勢いだったけど、反面、喜んでもらえて嬉しくもあった。

「はー、おいしかったぁ。ありがとう小松菜ちゃん」
「ふふ、どういたしまして」

暮れなずむ空、手に残る温もり。
そして、夕陽を浴びて輝いて見える十四松の笑顔が目の前にあった。
いつもの表情――。

「見てると、何だかほっとするんだよね」
「? 今なんか言った?」
「なーんにも。ほら、他の兄弟が家で待ってるんでしょ」
「うん! じゃあ、小松菜ちゃんまたね〜!!」
「またねー」

手を振り、別れる。次会う時は偶然ではないかもしれない。
六つ子たちに差し入れを持って行くなら何がいいか、十四松が好きな食べ物は何だったっけ……。
一日が終わる残りの時間、そんなことを考えながら過ごしている自分がいた。

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