ひょうきんな病み上がり



冷えピタ、タオル、長ねぎ、はちみつ、ヨーグルト……。
風邪に効果がありそうな物をありったけ袋に詰め込んで、両手に抱えた私は松野家に上がり、六つ子が眠る部屋へと駆けこむ。

「風邪ひいたって聞いたけど、大丈夫!!?」

ふすまを開けると、そこには――

「ハッスルハッスルーマッスルマッスルー!」

「……は?」

やたら元気そうな六人兄弟の姿があった。



「みんな十四松になった!? 何それ!!」

どうやら時すでに遅く、全員風邪は治ったらしい。
ただ、その治療法(聞いたがよく理解できなかった)によって、十四松以外の兄弟が皆一様に十四松と同じ行動を取り始めたという。
目の前で着座して、私にそのことを説明してくれた十四松張本人はいつもの楽しげな笑い声を上げた。

「あっはははは! にぎやかだよね!」
「いや、にぎやかどころじゃないって! みんなを元に戻す手段はあるの?」
「うーん……ないかな」
「ないの!? えぇーっ!!」
「母さんは明日病院に連れて行くって」
「え、お母さん今いるの!?」
「うん。卒倒して隣の部屋で寝込んでる」
「おかーーさーーーーん!!!」

隣の部屋でうなされている松代さんを見て、こっちまでクラクラしてきそうだった。
一方の十四松のぞく5人の兄弟は、外で素振りや走り込み、キャッチボールをしている。

「どどど、どうしよう……」
「どうもしなくていいよ」
「えっ?」
「それより踊ろーよ! みんな楽しそうにしてるから大丈夫だよ」
「大丈夫、って……」

確かにいつの間にか、他の兄弟たちもそれぞれ、何やら愉快な踊りを始めていた。
おそ松が阿波踊りでカラ松はフラメンコっぽいし、チョロ松は多分オタ芸で一松はフラダンスかな、トド松はアイドルのような振り付けだった。
――って、何ダンスの違いに注目してるんだろう、私。

「いいの、みんな病み上がりじゃないの?」
「もう病気の菌はいないからヘーキ!」

十四松はしゃべりながら私の手を取り、くるくると社交ダンスのように踊り出す。
音楽も鳴らしていないのに、十四松のステップは軽快でリズミカルだった。
私もリードされる形で、体を動かす。

「……ちょっと楽しくなってきたかも」
「でしょーー!? よかったぁ、小松菜ちゃんに楽しんでもらえて」
「このままずっと踊り続けるの?」
「ううん」

十四松が首を振り、ぴたりとダンスは一時停止した。なぜか十四松以外の全員も動きを止めた。
離れる手と手。上がっていた足が地に着く。
刹那、心に不安の波が押し寄せる。いつもと変わらない表情から、彼の本意は読み取れなかった。

「疲れたら休むよ。で、また踊りたくなったら踊る。それでいーよね!」
「……うん!」

再び、一心に踊り出す。
私がバランスを崩しても、十四松が支えてくれた。
世にも珍しい、六つ子によるチューチュートレインまで披露された。

だが、さすがに日が暮れる頃には皆そろって家に帰った。何より寒かったので。
そして結局、風邪対策に持参した荷物はそのまま十四松に託して来た。
長ねぎを見て、「これお尻に差すの?」と言われた時には全力で否定したけど。
したけど……あとあと調べたところ、どうやら風邪の対処法としては本当の事らしい。

いや、勧めは……しないけど。

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