君にエールを



街角で両手に紙袋を提げたチョロ松を見かけ、私は近くの自販機で缶コーヒーを2本買った。

「お疲れさま、チョロ松。これ、よかったら」
「小松菜ちゃん……ありがとう」

コーヒーを受け取ったチョロ松は、そのまま一気に飲み干した。
チラリと見える袋の中には、Tシャツやタオル、それと複数本のペンライトが入っているようだった。

「その荷物、ライブ帰り?」
「(どきっ)」
「私も。コンサートの帰り。友達のツレだけど」
「そっか。良かった」

チョロ松はホッと安堵のため息をついた。
しかし、このまま真っ直ぐ家に帰るのか訊いたところ、一転して表情は曇り、うつむいてしまった。
曰く、今日はさすがに荷物が多く、他の兄弟にいじられないようどう隠して持って帰るか、策を練っているのだそう。
実家暮らしで六人兄弟ともなれば、その苦労は計り知れないなあと思う。

「新しい写真集も入ったにゃーちゃんのグッズ、何としても守り抜かねば……!」
「にゃーちゃんって子のライブに行ってたの?」
「はっ! そ、そうなんだ。最近少しずつ人気も出て来て……あ、良かったら曲聴いてみる? CDもう1枚買ったから!」

若干前のめりになった気がしないでもないチョロ松から、CDの入ったビニール袋を受け取る。

「ありがとう。帰ったら聴くよ……って、あれ? も う 1 枚 ?」
「(ぎくっ)」
「……チョロ松、就職は?」
「もちろん、間もなく!」

お互いにドッと笑いがこぼれた。
困ったように笑うチョロ松に、私はエールを送る。

「アイドル応援し続けるためにも、仕事、がんばって見つけなよー」
「うん! 小松菜ちゃんにも、決まったら報告するからー」
「待ってるねー!」

チョロ松なら近いうちに仕事決まるでしょ。
そう信じて何年になるかはわからないけれど、趣味があるならそれを原動力にできればいいよねとは思っている。
そして、そんなアイドルを応援するチョロ松をひそかに応援している私がいることに、彼はまだ気付かなくていいんだ。



「って、8cmCDとかうちのプレーヤーじゃ聴けないんだけど!!」
今度松野家に行って聴かせてもらおう……。そう思い、そっとCDケースを元に戻した。

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