高校一年のときに好きだったのは、同じクラスのバスケ部の男子だった。好きで好きで、どうしようもなくなって好きだと告げた。苗字はいい人だ、ありがとう、とは言ってくれたのに、次の日からあからさまに避けられるのが分かった。納得いかない、こんなの理不尽だと思いながらも、好きだと告げたことも、好きになったことも、全部後悔した。いい人だけど、なんて、そんなのあなたに対してだけだったのに。それを理由にされたのが、凄く悔しかったし、悲しかった。いい人なら、告白したって、たとえ好きじゃなくても、友達のままでいてくれればよかったのに。それからはもう、話すことも、目を合わせることもなくなった。

「それももう二年も前なんだね。」

結局、委員会が終わってそのまま放送室に残った私と委員長。彼女とは委員会の中でも一番仲が良く、このタイミングで相談を持ち掛けてみた。

「でも、もう自分で分かってるんでしょ?」

そんなことを言われたら相談も何もない。どうすればいいのか、全然分からなかったから夜久のことも全部言ったのに。人選ミスかな、なんて失礼なことを考えていたら、軽く頭を小突かれた。

「相談するってことはもう答えが出てるってこと。後押ししてもらいたいだけなんでしょ?」
「なんだそれ。」
「あんたは夜久と友達でいたいって思ってるんだから、そうすればいいじゃない。それに避けるのは相手に失礼。」

もっともな意見に、反論もない。私だってそうされた経験があって、凄く悲しかったと今でも思っているんだ。でも、重要なのは夜久がどう思うかなんだ。自分を振った人間と今まで通り仲良し子よしなんて、それだって相手に失礼じゃないのか。ぐるぐると螺旋状の想いがうずまいていた。

答えを探している間に、どんどん距離は開いていって、もう後戻りもできなくなってしまうんじゃないのか。友達を1人失うことになるなんて、悲しすぎる。校庭にしとしとと降り続ける雨を見て、二年前に失った彼のことが思い起こされて、ぶるりと身体が震えた。確かに少し寒いなあと腕をさすり、冷たい雨に向かって傘をさした。

家の方向が逆の委員長とは校門で別れ、暗い夜道を1人で歩く。高校の近くの道は人通りも少なく、バス停までの道に一つだけあるコンビニから漏れる明かりが眩しいくらいだ。ローファーがはじく雨粒の音が、寂しさを助長させた。

「苗字!」

雨の音に紛れて、私を呼ぶ声がした。パシャパシャと鳴らしながら近寄ってきた足音に、自然と身体に力が入った。喉の水分が一気に持っていかれたような感覚に陥り、ごくりと唾を飲み込んだ。

「お、お疲れ…」
「おう、おつ!」

傘を持つ方とは逆の手を膝におき少し屈み、傘の下から私を見上げた夜久は、笑顔を見せてくれた。コンビニの明かりに照らされて輝く夜久の笑顔は、やっぱり可愛らしい顔立ちをしていると思った。

「追い付けてよかった。」

はあはあと息を上げ、わざわざ雨の中を走って追い掛けてくれたのだろうか。肩とスポーツバッグが少し濡れている。ああ、やっぱり夜久は、いい人だ。気まずさなんて感じさせないような夜久の言動に、さっきの自分の態度を恥じた。どうして自分ばかり深く考え過ぎて、あんな素っ気ない態度をとってしまったんだろう。

「帰ろーぜ!」

明るく言い放った夜久の言葉に頷いて、傘を並べて歩いた。さっきまでの物寂しさは、もう感じない。暗い夜道でも安心しきって歩けるのは、隣に夜久がいてくれるからだろうか。

「ありがとね、夜久。」

今日あった出来事とか、黒尾に対する愚痴だとか。そんな話が途切れたときに、感謝の意を述べた。ただそう思ったから、そのまま口にしただけなのに。夜久は目をぱちくりさせ、首を傾げた。

「何が?」

あれ?確かに、何に対してのありがとうだったんだろう。追い掛けてきてくれたこと?一緒に帰ってくれること?気まずくならないようにしてくれること?それとも、私のことを好きになってくれたこと?どれも何だか違う気がして、ごにょごにょと言い淀んだ。

「俺、たぶん苗字が思ってるのと全然ちげーよ?」

夜久は眉を下げ、少し困ったように笑った。その表情に、なんだか胸がしめつけられて思わず傘をぎゅっと握り締めた。

「苗字は俺のこといい人だって言ったけど、そんなの苗字にだけだし、ホントは下心のカタマリだし?」

ドクドクと鼓動が速まる。雨の音がやけにうるさく感じた。

「苗字に好かれようって必死なんだよ。」

そんな風に笑わないで。嬉しくも楽しくもないのに、無理に口角を上げようとしないで。その苦しげに笑う姿が、2年前の私に被って見えた。

「だから俺のこと、避けないでほしい。もっと知ってほしい。」

夜久の気持ちはすごく嬉しくて、ありがたいって思っていたはずなのに。彼の想いが、本物で真剣なものなんだと、身に染みた。それがどんどん熱へと変わる。頬が熱く感じ、彼の真っ直ぐな目が、見れなくなった。夜久は逃げずに、立ち向かっているんだ。私は後悔するばかりで、行動になんて移せなかった。初めて夜久のことをすごい人なんだと、尊敬もした。でも、それだけじゃない。もっと、知りたいって、思ってしまった。