葉を落とし始める木々。廊下の隅で風に吹かれ踊る落ち葉。吐息が白く薄らと浮かぶ九月、三度目の秋が始まろうとしていた。指定のローブを身に纏い、全校生徒が続々と集まりつつある大広間へと重たい足を運ぶ。がやがやと生徒たちの話し声が蔓延している。ああ、嫌だ。今年もまた、ホグワーツでの生活が始まる。

今年はどんな生徒が入ってくるかな。好みのハンサムがいたらいいな。今年こそ我が寮を優勝に導くクィディッチ有望株はいるだろうか。そこかしこから聞こえてくる話し声に、耳を塞ぎたくなる。大広間奥の教職員用テーブルの前に鎮座する組分け帽子と椅子。本当ならば誰よりも目立たない、教職員用テーブルから一番離れた、扉から最も近い場所に腰を落ち着かせたいものだが。こういう式典の際は学年ごとに順に座らなければならない決まりがあり、監督生に選ばれたばかりのパーシー・ウィーズリーが意気揚々と生徒を座らせていた。

「パース!気合入ってるな!」
「誇り高き監督生だもんな!ママも自慢だろうよ」

それを小馬鹿にしたように、双子の弟たちは椅子から立ち上がってケラケラと笑っていた。彼らは私と同じ三年生。息ぴったりの掛け合いを披露して近くで笑いが沸き起こるのを、頬杖をつきながら横目で眺めた。相変わらずうるさいな。玄関ホールで待機している新入生たちが間もなく入場してくるだろう。案の定いまだに騒ぎ立てている双子はパーシー・ウィーズリーに「ママに言いつけるぞ」と何とも子供じみた脅しをかけられていた。

ああ、退屈。新しい一年生が入ってきたからって、何だっていうの?天井まで伸びる大きな扉が開き、中央の通路を真新しいローブに包まれた新入生たちが入場してくる。希望に満ちたキラキラとした瞳が、眩しい。私も、ああやって入学してきたはずなのに。どうしてこうなってしまったんだろうか。三年生の指定された席の一番端と端。対局に座っている彼女をチラリと盗み見て、溜息をついた。昔は仲の良かった彼女。どうしてこうなってしまったんだろうか。大広間の天井に掛けられた魔法に目を奪われながら目の前を通り過ぎていく新入生たちをぼんやりと眺めながら、早く終われと願った。

ダンブルドア校長は偉大な魔法使いだけれど、人の心を読む魔法は使えなくてよかった。何もめでたくなんかない、早く終われ、どうでもいい。校長の話に対しても組分け帽子の儀式に対しても、負の感情ばかりこぼす私の心を、誰にも知られずに済む。一人一人名前を呼ばれ、椅子に腰かける。マクゴナガル先生によって帽子を頭上に載せられる生徒たち。聞き慣れたファミリーネームを呼ばれ、赤毛の男の子が段を上っていく。

「またウィーズリー家の子か!」

帽子は悪態をつきながら、グリフィンドールの名を叫んだ。またウィーズリー家の生徒が増える。これ以上騒がしいのは勘弁なのだけれど。その次に呼ばれたのは、ハリー・ポッターだった。その名は誰もが知っている。例のあの人を退けた、生き残った男の子。教授陣も在校生も揃って息を飲んだ。この景色は見たことがある。私も、二年前あそこで名前を呼ばれ帽子を載せられたとき、ざわめきが起こった。

「うわ、美人!」
「綺麗ね…」

魔法界一美しい瞳と言われる、海のように深い蒼瞳を伏せて私はあの椅子に座った。自分の知らない相手に、自分のことを知られている。それが気持ち悪くて、不快でたまらなかった。そりゃハリー・ポッターに比べれば天と地ほどの差があるけれど、私の家系も有名な方ではあるから、あの居た堪れない気持ち、分かるわ。それでも彼は早くも友達をつくれたのか、先ほどグリフィンドールに選ばれたばかりのウィーズリーの弟のもとへ嬉しそうに走っていた。

食後、新入生にはホグワーツ入学にあたっての心得やら何やらを説明するため、在校生は先に寮へ戻ることになった。夏の休暇中帰宅した生徒たちは久しぶりに再会した友人と騒いでいる。グリフィンドールの談話室は生徒たちで溢れていて、脇目も振らずに自室へと足を運んだ。

やっと一人の時間だ。寝室はもともとは四人部屋だったが、一年生の頃にルームメイトで仲の良かった親友と仲違いをしてしまってからは、どうにも反りが合わなくなってしまい、奥の物置部屋を片付けて勝手にそこを自室とした。もちろん監督生は何度か注意しようとしたが、誰も使ってないんだからいいじゃない、誰かに迷惑かけた?、むしろ親切で部屋を出てあげたんですけど?、と少しきつく言い返せば彼女は二の句を継がなかった。少し狭くて風が入るが、私にはちょうどいい空間だ。誰にも気を遣わなくて済む、鏡もない自分の姿を視界に入れなくて済むこの部屋は、とても居心地がよくて落ち着く。

また一年間、一人の生活が始まる。今年の目標は、図書館の西側スペースの棚の本を読み切ることね。でもその前に、夏休みに買ったマグルの雑誌の続きを読もう。退屈凌ぎでマグルの本屋で購入した雑誌。まだ半分しか読み進めていない。どうしてマグルは料理をするとき、こんな面倒な手数をかけるのだろう。そんなことを考えながら「簡単!時短!美味しいプディングのレシピ」のページを捲ったとき、下の談話室からは生徒たちの笑い声が聞こえてきた。相変わらず、本当にうるさい。きっと入学式の日に早々と自室に引きこもる生徒は私くらいしかいないだろうけれど、少しは声のトーンを落として頂きたいものだ。やはり、自室に帰るのは早かったか。まだ夜の九時前。生徒たちが寝静まるまで、どこか別の場所でゆっくり読書していよう。簡単でもないし時短もできていない意味のわからないレシピが掲載されている雑誌を閉じて、部屋を出た。

階段を下りて談話室に出ると、その場にいた寮生から視線を向けられた。それはそう、誰も上の寝室に人がいただなんて思ってもみないだろう。同時に襲い掛かる沈黙の空気。ウィーズリーの双子が手に持つ、何とか花火だけが音を放っていた。みんなが恐れるようにこちらを見ているが、誰も何も言わない。後ろの方でコソコソと、スクヴィナスだ、と聴こえてきた。

「何?」

呆れた。文句があるのなら言えばいい。何も言わないなら、いちいちこちらを見るな。そんなに物珍しいか。居た堪れず、足早に談話室を横切って、寮の外へと足を出した。