高校一年 07/25(金)
携帯忘れるとか、ありえへん。昨日、鞄をひっくり返しても出てけーへんかった携帯は、今日自分のロッカーを開けたらひょっこり出てきた。
「あった〜」
「なあに、ユウくん携帯忘れたん〜?」
横でユニフォームに着替えながら、小春がちらっとロッカーを覗いてきよった。俺もハーパンをはきながら携帯を取った。携帯は基本テニス部の連絡にしか使わへんし、あと週一のマクド情報とか。今日は金曜やから、マクドのメルマガしか来てへんやろなーって。開いた瞬間、携帯持つ手が止まった。着替えとった手も一緒に止まった。
「え、」
「ユウくん遅いでー!先行っとるわね」
「え、あ、ハイ」
「変なユウく〜ん」
小春がさっさと部室から出てって、俺は携帯を二度見した。アドレス教えたんずいぶん前やったし、早苗とか小春は普通にメールしとったから、やっぱいらんかったかなー思っとったけど。ふ、と笑みがこぼれた。
「ユウジ、なに笑ってるん?」
白石が話しかけてきよって、返事をしようとした。けど、早苗の方が速かった。「どうせ舞からメールでも来たんやろー」とか言うとる。むかつく。
「それより白石、ドリンクのボトルあらへんけど。」
「あー、それなら外に干したるで。」
何事もなかったように話しよって。むかつく。ちょっと仕返ししたろ。「いつまで白石とか呼ぶ気やねん」ボソッと言うても、ちゃんと二人に聞こえとった。早苗が慌ててフォローしようとしとったけど、白石はうんうんと頷いとった。
「ええ加減『蔵ァ〜』とか呼んでみい、彼女やろ」
「ユウジ、その話はッ!」
「ほんまや、ユウジよう分かっとるなぁ!」
感心する白石とひたすら照れとる早苗をおいて俺も部室を出た。弥栄に返事をしよか迷ったけど、朝から月の話とかでけへんし。帰ってくるんはあさってやし、返事は夜でもええか、なんて考えとった訳や。
昼休み。何事もなく部室で弁当食って。残りの時間はみんなでババ抜きしとったけど、俺は一度もババなんや引かずにすぐに勝ってもうた。つまらん。みんながうーうー言いながら引いては捨てるんをぼんやり眺めとった。そこで気付いたんが机の上に出された携帯やった。早苗の携帯のサブディスプレイがちかちか光っとる。
「早苗、携帯鳴っとる」
「えーほんまー?ちょお後で」
んーと真剣にケンヤからトランプを引こうとしとる。と、思ったら「あかん!」って突如声を上げて携帯を開けとる。騒がしいやっちゃなあ、と我関せず顔で見とったけど。
「ちょ、ユウジ外見てきて!」
「はぁ?」
「あー雨降りそうなんやって!ちょっと見てき!」
「なんで俺が」
「あんたしか上がっとらんやろ!ええからはよ!行き!」
意味が分からん。けどあまりの必死さに俺もすんなり折れて、椅子から腰を上げた。小春なんてトランプ片手に「いってらっしゃ〜い」なんて言っとるわ。
外に出たんはええけど、全ッ然雨降りそうな気配はない。昼休みやからコートは静まり返っとって。一応、空を仰いだ。
「……これ降らんやろ。」
絶対騙されたわー、なんて内心ため息をつきながら、ゆっくり視線を落とした。さっきまで、誰もおらんかったはずなのに。そもそも、まだ帰ってくる日とちゃうのに。そこには、今めっちゃ会いた思うてた、弥栄がおった。