中学三年 09/11(火)
菊丸くんの笑顔は、人を元気にさせる力があると思う。
「ねぇねぇねぇっ!おはよう、弥栄さん!昨日のロンハ見たっ?」
(あ、朝から元気だ…)
だんだんだんってわたしの机を叩いて、菊丸くんは言った。友達になってくれると言ってくれた次の日、朝から菊丸くんの相手は大変だった。何しろ、慣れてないから。でも昨晩のテレビの話をするなんて、なんだか友達らしいじゃないか。
「…おおおはよう菊丸くん!」
「うん、おはよう。」
にこにこしてる。菊丸くん、なんか猫みたい。
「俺、テレビの話してんだけどにゃ」
「あっ!ごごごごめんなさい!テレビは見てないです!」
何てったって家庭内崩壊しかけてますから。テレビなんて余裕はない。せっかく菊丸くんが話を振ってくれたのに、申し訳ない。
「う〜ん、じゃあ弥栄さんの趣味ってなに?」
趣味か…。ない。こんなことなら昨日自己紹介カード作ってくればよかった…!
「じゃあねぇ、好きなこと!好きなものでも可。」
「ええと…、好きな、食べ物は…卵、かな」
「卵」
ぷっと笑ってる。卵チョイス、ダメだったかな。いまだに笑ってる菊丸くんに、ちょっとだけ不安になって横を向いた。
「えーじー!」
「あ、大石だ。弥栄さん、ちょっと待っててね。ほいほいほ〜い」
廊下から呼ばれて菊丸くんはすったかたっかとステップを踏むように教室から出て行った。緊張してたから、ほっと息をつく。だけどそれもつかの間。視線を前に戻すと、四角い眼鏡を光らせた男の子がいた。
「わっ!?」
「弥栄舞。少し話を聞きたいのだが」
あわあわと視線が泳ぐ。だって、まず、だれ!?眼鏡光ってるよ、怖い!ききき菊丸くん助けて…
「そんなに怯えなくても大丈夫だ。菊丸の話を聞かせてほしいんだ。」
菊丸くんの…?って言うかこの人だれ!?でもブレザーの襟に�Vのバッチが付いてるから、同級生…?
「あー!乾っ!なんだよ、なんの用っ!?帰れっ!」
菊丸くんが戻って来て、男の子の背中を押した。眼鏡くんは少しニヤニヤして、顔だけこちらに向けた。
「いや、弥栄さんにスリーサイズでも聞こうかと。」
「なっ!乾ぃ〜!?弥栄さんは俺のれっきとした友達だぞ。困らせるな〜っ!」
菊丸くんは顔が赤くて、たぶんわたしも赤くて。それを見て眼鏡くんはさらにニヤニヤして。すごく居心地の悪い空気だったけど。
(…わたし、菊丸くんのれっきとした友達になれてるんだ。)
この言葉を思い出すだけで、わたしは救われる気がするの。