高校一年 04/10(木)


次の日、早苗と弥栄は一度も話してへんかった。俺の席は結構後ろの方やから教室は全体的に見渡せるんやけど、女が固まってなんや話しとるのが目につく。きっと弥栄のこととか早苗のこととか話してんやろ。


放課後、机の上にかばん置いたままどっか行く弥栄を見かけ、俺はそれをじっと見た。一瞬目ぇ合えば気まずそうにそらして、教室から出て行く。なんや、怪しい。まぁ、俺も白石んと呼ばれとったからべつにどうでもええんやけど。そん時、教室の隅にまだ綺麗なテニスボールが落ちとったのを見つけて、拾った。誰やこんなとこに落としたん。片手で上に放り上げてそのままキャッチ。無駄にぽんぽんしながら1組に向かった。


「あっ、ユウくん遅いわぁ〜」
「こはるううぅぅぅ!」
「うっさいで、モーホー軍団。」


1組に集合した俺らテニス部一年。放課後に緊急ミーティングってなんやねん。俺はさっき拾ったテニスボールを手でいじりながら、小春と一緒に白石の席に近寄った。


「話は言うまでもない。マネージャーの話やけど。」
「白石断れとったなぁ!」
「ユウジ、見てたんか…。や、そうやなくて。」


ガラにもなく白石はちょっとへこたれとるよう。そん時や、俺らしかおらへん教室のドアががらっと開いて、入って来たんは


「部長っ!」


今の部長やった。俺らが中一んときも部長で、厳しくも優しい先輩やった。あ、中学の頃は黒髪でクールにキメとっのに、今もう茶髪や。ピアスもめっさ増えとる。


「お、みんなおるんやな。久しぶりやなぁ!元気やったか?」
「部長も相変わらずっすね!」
「謙也!久しぶりや〜!どうや、浪速のスピードスターは健在か?」
「当たり前やっちゅー話ですよ!」


部長の登場に俺らの空気は和らいだ。さすが部長や。


「で、マネージャーの件なんやけど、白石の推しとった女の子はどないしたん?」
「断られました。」
「ぷっ」


部長半笑いなんやけど。まぁ白石が断られるとか確かに笑える。


「早苗がやっと仲良う出来そうやったから誘ったんやけど。」
「えー、折原仲ええん?あ、もしかしてウワサの金魚のフン?」


またも半笑い。っちゅーか、その言い方気にくわへんな。確かに早苗にくっついとるけど、くっついとったけど…


「あーそういや、今日同じクラスの女らが金魚のフンがどうのって…」
「部長!その話詳しく!」


俺らしゅうない。机にバンと手を置いて身を乗り出した。隣で小春がびっくりしとった。


「えー、なんやったっけ。今日の放課後校舎の裏?とかなんとか」


なんで気付かへんのアホ!とは部長には言えへん。せやけどずっとそばに早苗おって呼び出されることなんて日常茶飯事やったやん。っちゅーか普通に考えてわかるやろ。白石の誘い断ってしかもあいつの周りに人はおらん。格好の的やないか。さっき教室から出て行く弥栄を見た。ごっつしんどそうで。自分でもびっくりした。びっくりするくらい勢いよく教室を飛び出した。