高校一年 04/10(木)


やっと弥栄が歩き出した。窓から後ろ姿を見送る。なに女々しいことしとんねん、俺。ほんまきしょいわぁ。そろそろ教室戻ろうかと窓から離れようとしたとき、弥栄が木陰にあった水溜まりに落ちて、足を濡らしとるのが見えた。どんくさいやっちゃな。最後に少し笑って、俺は教室に戻った。


「あーユウくん帰ってきた!どこ行ってたん?」
「早苗は?」


ことのあらましを白石たちに話すと、部長は相変わらず半笑い。なんで中途半端に笑うんやろ、この先輩は。


「せやったら早苗ちゃんが舞ちゃんとこおるの?」
「たぶんな。でも二人でどこ行きよったんやろ。」
「そりゃ、おまえ、部室やろ。なぁ謙也。」
「おん、部室やな。」
「なに話しとんやろ。」
「早苗ちゃんが女の子とガールズトークとか想像できひんわぁ。」
「行ってみるか?」
「行きましょ行きましょー!」


白石と謙也と小春が妄想しとるのを横で聞いとった。俺の意見は無し。今早苗と弥栄の邪魔をするなんて無粋なマネはしとうないんやけど。


「ちょお待て待ておまえら。俺話ついていけんのやけど。マネージャーの話はどないすんの。」
「あー、じゃあそれは明日っちゅーことで!責任持って連れてきますよ。」
「まぁええけど。オサムちゃんの期限忘れんように。ほな、俺は部活行こ。また明日な」
「また明日、部長!」


部長が出て行った後、ほな俺らも行こか、という何故かルンルンな謙也の声で俺らも教室を出た。


テニスコート脇にひっそりと建つ部室。俺らはドアに耳をつけ、上から順に謙也、白石、俺、小春と四人で縦に並んだ。なんやコレ、はたから見ればただのアホや。まぁえぇか。四天宝寺高校の生徒、アホでなんぼや。最初に聞こえたんは早苗の声やった。


「あたしの周りにおった女なんて、みんな口揃えて白石くん白石くん白石くーんって。アホちゃうん?って感じやったわ。ほら一応あいつイケメン部類入るし」


ニヤニヤニヤ〜、と三人で四方八方(ちゅーか上と下)からこそばゆい視線を白石に送った。イケメン言われ慣れとる白石も、早苗に言われるんは特別やとか。純情やな。けど問い掛けに弥栄の返事がないまま、また早苗が話しとった。


「え?白石かっこいい思たことないんか?………あかん…世の中にはあいつのスマイルにやられん女がおるんか…」
「えっ?じゃあ早苗ちゃんはスマイルにやられちゃったんだ。」


あ、やっと弥栄の声聞こえた。あいつ声ちっさいんじゃ。全然聞こえへん。んで、俺らはまたニヤニヤ顔を白石に向けた。もうやめや、と小さく呟く白石に笑えた。


「白石のことかっこいい思わんのやったら、誰がかっこいい思うん?」


早苗の言葉にどきんと心臓が鳴った。我ながらきしょいわ思とると、ほんまにガールズトークしとるで、と言う謙也の声が振ってきて、ほんまやぁガールズトークしとる!、と俺の下で(俺の下って言い方なんややらしいなぁ、しかも小春やで“俺の下”におんの)小春が興奮気味に呟いとった。


「顔真っ赤やで。誰のこと考えとるん?」


またどくどくと心臓が動いとる。そら生きてるんやから動くんは当然なんやけど。なんちゅーか、あれや。思いっきりテニスした後みたいに脈動速い。けどこれが最高速度やなかったみたい。


「……ひ、とうじくん」
(っ!?)


思わずドアから離れた。いや、だってもう聞いてられへんやろ。な、なんでここに俺の名前出てくんのや!あいつ頭わいとる!せやかて、俺あいつに嫌いしか言うてへんで!さっきの弥栄が俺の名を言う声が頭から消えへん。なんやコレ夢か!せやけど、今だにドアにべったりくっつきながらニヤニヤニヤ〜って笑けとる三人見れば、夢ちゃうことなんて一目瞭然。まぁ、全ッ然嬉しないけどな!全然まったくやで!これっぽっちも嬉しないけど、三人がごっつ見てくるから、腕を鼻辺りに埋めて必死に隠した。それ見て更にニヤニヤしよるアホども(謙也と白石)と愛しき小春。


なんやねん!俺全ッ然嬉しないんやからな!