高校一年 04/10(木)


小春がちょいちょいと手招きしよったから、俺は渋々もとのポジションに戻った。っちゅーか、なんで俺らは普通に女子の会話盗み聞きしとんねん。きもいやろ。


「あんな目つき悪いのに」


まだ俺の話しとんのか。もうええよ。ちゅーか目付きは関係あらへんやろ。それ言うたら白石なんて変態以外の何者でもない。あ、俺も人のこと言えへんな。


「ちちちがっ!顔とか、そういうんじゃなくて…」
「うん?」
「……わたし、思ったこと言えないから…。わたしのこと、はっきり嫌いって言えるのは、凄いし憧れるし…かっこいいなぁって」


再び向けられる三人のニヤニヤ光線。ニヤニヤ光線ってなんや、ネーミングセンス皆無やな。って、そんなん今どうでもええねん。弥栄が、そんなふうに思っとったなんて知らへんかった。俺が敵意剥き出しで嫌いや嫌いや言うとるから、あっちも当然のように俺のこと嫌いやと思っとった。せやけど、そうやないんやなぁ。俺は生れつき目付きも悪いし口も悪いし好き嫌いも激しいから、周りを敵に回すことも多々あった。嫌いなやつからは嫌われるんが普通で、べつに俺もそれでよかった。口が悪くて思ったことをそのまま口にしてまう俺を、白石が注意してくれたこともあった。


結局そうやん。思ったこと言うて、そんなんやから敵が増えて、社会に出たら生きていけんて偉そうに誰かに説教されたこともある。感じたこと心に隠して表面上の付き合いなんか、俺には必要ないねん。そういうふうに思とったから。


「ユウくん?」
「ん?なんや、小春」
「ユウくん、えらい嬉しそうやな?」
「そうか?」


下から見上げてくる小春に否定はしない。っちゅーか、普通に、嬉しい。弥栄なんかにかっこいい言われたって何も嬉しないけど。さっきの発言は何となく俺を認めてくれとる気がして、そこは、ほんまに、嬉しかった。


「舞、あたしと一緒にマネージャーやらへん?」


早苗の声がした。それに白石は素直にガッツポーズを見せていた。ほんまイケメンは何しても絵になるな。たぶん、早苗がやっと自分から誘えたことが嬉しかったんやないかな。そのあとは二人で青春劇場を繰り広げてたっぽい。友達がどうとか言っとった。それから、早苗と弥栄が大好きだと言い合う声がして、俺らはまた白石に視線を向けた。


「蔵リンええの?舞ちゃんに早苗ちゃんとられてまうで?」
「ほれ、ユウジの真似してみいや白石。浮気か死なすどーって」
「ほな突撃や。行くんや白石!」


悪ノリ以外の何物でもない。白石は恥ずかしいんか少しもじもじしとったけど、さすが四天宝寺クオリティー。行くで!と言って部室の扉を開けて中へ入った。白石に続いて俺らも入る。入った瞬間気付いた。弥栄が泣いとる。号泣や。それを早苗が慰めるように肩を抱いとった。っちゅーか弥栄こないだ泣かへん言うとったやん。思いきり泣いとんやけど、何コレ。


「早苗ー!う、浮気かー!死なすどー!」


…白石、さすがや。まったく似てへん。早苗が一瞬固まって、気付いたんか笑い出した。似てへん似てへん連呼して、白石が真っ赤になっとる。それに俺らは爆笑。けど、弥栄だけがまったく笑っとらん。こいつ、こない時にも空気読めへんのかって一瞬思ったんやけど、ちゃう。分からへんのか。これが俺の真似やってことを知らへん。小春もそれに気付いたんか、俺の制服の裾を引っ張った。そしてウインクすると、小春は弥栄に向き直った。


「舞ちゃん、泣いとる顔もかわええなぁ。もうほんま、食べちゃいたいわぁ」


…なんや、やれっちゅーことか。弥栄に今のネタを分からせるためにコレやるのか。ちょっと恥ずかしい。けど、まぁ、弥栄にも小春はやらんけどな!


「う、浮気かーっ!死なすど!」


いつもの調子でそう言うと、弥栄は笑い出した。本当だ、似てないねって笑った。たぶん、俺は初めて見る顔やったから、思とったよりドキッとした。弥栄はどんな顔で笑うんやろうってこないだ考えとったばっかりや。あの時確かに、笑顔を見たいって思った。けど、嫌い嫌い言うとって、俺には絶対弥栄を笑かすんは無理やって、どっかしら諦めとったんかもしれん。だからか。弥栄の笑っとる顔見たら、めちゃくちゃ動悸激しい。息切れはあらへんけど。なんや、俺、この歳で救心か。笑えんわ。