高校一年 04/15(火)


きっかけなんて小さなこと。小学校の頃、まだ仲の良かったお母さんとお父さん、それから今はお父さんと東京にいる弟と一緒に、ゲームセンターに来たとき。ゲームセンターって言っても、デパートの一角に設置されてるような小さなコインゲームが並ぶような場所。お父さんにコインを買ってもらい、弟と一緒に駆け出した。そこまでは良かった。


わたしの歩く先に一枚のコインが落ちてきて。目の前の同い年くらいの子が落としたのは歴然としていた。わたしは迷うことなくそれを拾って、その子に渡してあげようとしたのに。


「それはうちのよ!」


手から消えたコインは、その子の傍らに立つ、母親の手の中。睨み付けるような鋭い瞳。


「ちがっ」
「人の物盗ろうとするなんて最低ね!」


その子の肩に手を置き、母親はわたしに言った。取ってあげただけなのに。お礼を言うべきなんじゃないの?とか、コイン一枚くらいで大人が何よ!とか、いろいろ言いたかったけど、でも出てきた言葉は誤解を解こうとしていた。


「わたし、取ってあげただけです!」
「明らかに持ってこうとしてたじゃない!しつけがなってないんじゃない!?」


母親は言いたいことだけ言って、子供の手を引いて雑踏の中に消えていった。どうして、聞いてくれないんだろう。どうして、信じてくれないんだろう。こんなの、あんまりだ。


たぶん、わたしは昔からそんな感じで、他にも理由はあったとは思うけど、覚えてない。でもこれが主な理由。言ってもどうにもならない、聞いてくれない、信じてくれない。小学生のわたしを壊すのは、そんなちっぽけなことで十分だった。


「弥栄さん」


菊丸くんの声が耳に響く。やっとできた友達も、自分から手放した。どうしてわたしは東京に残らなかったんだろう。お父さんと弟と、東京に残ればよかったのかな。菊丸くんに会いたいよ。どうしてこんなにも苦しいのか自分では全然分からない。わたしは認めてもらいたかった。誰よりも一氏くんに認めてもらいたかった。でも、マネージャーになることも許してくれて、なんだかんだ口は悪くても優しくしてくれるようになって。すごく嬉しくて、それだけで満足だったのに。


「舞ちゃん、学校行くで〜!」


朝一番に笑顔を見せてくれる小春ちゃん。みんなも、おはようって言ったら、おはようって返してくれる。一氏くんには一度もおはようをもらったことはないけど。でも、大阪に来て良かったって思えたのに。


財前くんの話は、わたしの心を大阪から東京に引き戻した。一氏くんが早苗ちゃんのことを想ってるからって何さ。意味が分からない。どうしてこんなに涙が止まらないのか、全然分からない。こっちに来てから、わたしは菊丸くんとの約束を破ってばっかりだ。


ねぇ、わたし菊丸くんが好きなんだよ。なぜか揺らぐこの気持ちを確かめるために、東京に戻りたくなった。