高校一年 05/07(水)


パァン、っちゅーテニスのインパクト音が響くコート。ゴールデンウィークの猛特訓(っちゅーても、去年のU17合宿よりかは全然楽なんやけど)を終え、今日は校内トーナメント戦。俺ら一年は出れへんのやけど。三年の人数多いしな。俺らには一応秋の新人戦があるし、オサムちゃんには我慢せえ言われた。三年に負ける気はせえへんけど、やっぱり高校の部活は中学んときとちゃうし、一応年功序列やからなぁ。四天宝寺中以外から来た先輩らも少なあらへんから、金ちゃんみたいに名字呼び捨てとかしたら殴られるで。


と、まあそれはええとして。俺らは今ひたすらテニスコートの外周ぐるぐる走っとる。白石と小石川は先輩らの試合観察しながら討論会開いとるし、スピードバカーは「浪速のスピードスターの方が速いっちゅー話や!」とか誰と競争しとんのか、意味分からへんことほざきながら何度も俺らを抜かしてく(何回抜かされたっちゅー話や)。俺も小春と並んで投げキッス飛ばし合っとる余裕はあるんやけど、俺ら以外の一年は脱落したんか部室前で転がっとった。


「お、残ったんは元レギュラー陣だけやんなぁ」


部室前を通り過ぎるとき、早苗が地面に転がっとる脆弱一年にタオル配りながら俺らに言った。


「早苗ちゃ〜ん!らぁぶっ」
「いらんいらん。」


小春の投げキッスを軽く手で払った。相変わらずやわ、早苗は。少々呆れながら前を見ると、白石と小石川が部室横から出てきた弥栄に声をかけとった。なんなん、白石。早苗は無視で弥栄には声かけるんかい。おまえの彼女は早苗であって、弥栄やあらへんで!


「ユウく〜ん、あと一周で終わりにしよやぁ」


部室前を通り過ぎ、ドリンクのかごを両手で持つ弥栄と一瞬目ぇ合って、すぐそらした。あーもやもやする。そんなもやもやも、小春に投げキッスもろたらどっか飛んでってもうたけどな!


走り終わっていまだに部室前の地面にはいつくばっとる同級生を跨いで、俺らは部室に入った。なんであないにへばっとんねん。体力なさすぎやろ。部室では早苗と弥栄が並んで奥の棚の写真を覗き込んどった。弥栄の手には箒。最初こそ認めんかったけど、やっぱり弥栄は一生懸命に仕事をこなしとって、俺ら部員も早苗やって助かっとるし、ごっつ感謝しとる。不本意やけどな。


「写真見てはるの〜?」


小春が二人に近付くと、白石とケンヤも一緒になって写真覗き込んどる。おうおう俺だけカヤの外かい。入りたないけど。俺は一人ロッカーを開けて自分のタオルを引っ張り出した。


「舞ちゃんいっつも写真見とるよな?好きなやつでもおるん?」


ケンヤの声に、ピタッと手が止まった。バンド取って頭しゃかしゃか拭いとった手が、ぴたりと止まったんや。


「舞ちゃんが恋!」
「なぁどの人なん?」


タオルから頭を出しあいつらの方見ると、ケンヤが興味津々な様子で写真を覗き込み、小春が興奮気味に騒いで、白石がどの人やと聞いとった。なんなん、あいつら。そないに弥栄の好きなやつ気になるんか。…っちゅーか、あいつ、好きなやつ、おったんか。おったん、か…


「…こ、この人、だよ」


弥栄の表情はこっからだと見えへんけど、きっと顔真っ赤にして、あわあわと慌てて、それから照れたように。俺には見せたことあらへんような。


イライラしよってからに。


「でも…、もう会えないかと思ってたから、まさか写真越しに会えるとは思わなかったんだ。」


そんなん、会えたうちに入らへんやろ。むかつく。むかつく。たぶん、今までで一番、むかついとる。好きなやつ、おったんやったらなんで大阪来たんや。そう言ったりたくて、俺は思いっきりロッカーの鉄製の扉を閉めた。


「…なんやねん。」


シンと静まり返る部室。みんなが俺を見とったけど、俺は真っすぐに弥栄を見据えた。あぁ、ほんまにこいつ嫌い。こいつがおるだけで、俺はイライラしよるし、空気が悪なる。けど、やってこいつが好きなやつの話なんやしよるから。なんで俺がこないにイライラせなあかんの。ほんま、意味分からん。


「そない弱気でぐじぐじしとって自分の意志も持たへん女が、恋愛なんやできるわけないやろ!身の程を知れや!」


身の程を知れって、俺のことやねんなぁ。偉そうにそないなこと言える資格、俺にはあらへんのに。俺はいつどこででも、弥栄を傷つけることが出来る。酷いこと言える。そない能力、俺いらんわ。なんでこないなことしか言えへんのやろ。ほんま、俺ただの最低なやつやん…