中学二年 03/05(月)
その日、俺の気分は最悪やった。今度のモノマネライブのネタは思い付かんし、ときどき小春も冷たなるし、早苗は俺のことなんや見向きもせずに白石とお喋りしとるし。ええことないねん。それに加えて、放課後の呼び出し。今日は部活もオフやし、ネタ探しにでも商店街まで出よう思てたのに。本来ならば嬉しいはずの、下駄箱の中の靴の上に置かれた白い封筒に、今日はげんなりした。朝はなかったのに。
「なぁ〜に、ユウくんラブレターや〜ん?」
小春の甘ったるい声に、びくっと肩を揺らしてしもた。小春の隣には早苗も白石も財前もおった。俺は早苗に未練たらたらやったし、その封筒を慌ててポケットに突っ込む。ぐちゃぐちゃになったろうと、俺の最優先はやっぱり早苗やった。
「ユウジももてもてやね。」
「…女にモテたってしゃあないねん。」
女、の前に、他の、が付くことを早苗は知らんやろな。他の女にモテたって、しゃあないねん。そんなん気付かずに、早苗は笑いながら「その発言、ほんまにガチホモやん。」とか言っとる。小春ももちろん好きやけど、ちゃんと異性やって好きなのに。そんなん、言われへん。
「まぁ、ユウジは呼び出しされとるし、先帰っとるか。」
「せやね。また明日なー!」
相変わらず、うざったいくらい仲良くて、殺したりたいくらい幸せそうやった。けど、この結末を望んだんは他でもない、俺や。しゃあないねん。どうしようもないことって、あるやろ。
「…ユウジ先輩。」
こない表情も、きっと小春と財前しか知らんやろなぁ。ふ、と軽く自嘲がこぼれた。
「…さぁて、モテ男一氏ユウジはちょいと呼び出しに応じてくるから、小春待っとってなぁ!財前は帰ってええで。」
笑いながらそう言えば、財前はめっさ不機嫌になっとる。まぁ財前もなかなか俺を応援しとってくれたから、感謝はしてんねんけど。小春とは別問題や。
「言われんでも帰りますわ。」
「ほなまた明日!」
俺はくるりと体勢を変え、玄関から再び校舎内に向かおうとした。いろいろつらいことはあるけど、やっぱり俺は逃げることは出来ひんなぁ、と考えながら階段に足をかけた。
「ユウジ先輩!」
そこで背中に掛かった声。財前がこないに食い下がるんは珍しい。なんや、と少し訝しげに振り向いた。
「俺、折原先輩にはユウジ先輩だけや思てますから!」
今、一番欲しくて、一番残酷な言葉を、財前は言ってのけた。一瞬固まる思考回路。次に出てきたのは、放課後で良かったっちゅーこと。こんなん誰かに聞かれとったら、俺らの関係はめちゃくちゃや。一つ大きなため息をつき、俺は言うたった。
「おおきに。」
階段を上りながらポケットに入れたぐちゃぐちゃな封筒を取り出す。放課後の屋上で待ってます。それはそれは女の子らしいちっさな字で書かれとる。けど、すまんなぁ。俺、小春と早苗以外、興味ないねん。
屋上で待っとった女は、俺を前にしてもじもじぐずぐず。小春待っとんやけど。内心イライラしながら、はよ切り出せや思うとると、女はやっと顔を上げた。
「あ、の…」
「……」
「えっと、ね」
「………」
「わ、わわたし」
「…………」
我慢の限界って、あると思う。俺はこの女のことはよう知らんけど、こないぐずぐずした女、大嫌いなタイプや。
「俺、おまえみたいなうじうじした女、ほんまに嫌いやねん。」
ひどく傷付いた表情をしとった。名前も知らん女は目の前で泣き出すし、俺が悪いん?呼び出しに応じたって、なのにぐずぐずしとるこいつが悪いんやないの?
「ほんま、めんどいわ。」
踵を返す俺。泣き崩れる女を横目に、俺は屋上から中に入った。俺は腐っとるんかもしれへん。あないひどいこと言うても、全然心は痛まなかった。はよ小春んとこ行って、はよネタ探し行こ思うて。結局あの女が俺に何の用やったんかは分からず終い。けどどうでもええねん。早苗以外の女、興味ないんやもん。